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三百四十五話 だからこそ

 

「よし、とりあえず、文字人間問題は解決したな」

『え? なんも解決してないやん、ロッちん、オデコ掻きむしって号泣してるやん』

「いいんだよ、カルナ。最後に残った強い奴と戦うって言ってるんだから、ロッカの中で大人しくしていてもらおう」


 次のタッグ戦で敗退する俺には、もうアイツは関係ない。後はどうやって痛くないように負けるか、だけだ。


『でもタッくん負けたら、この世界消滅してしまうんやないの?』

「うん、普通はそうなるはずなんだけど、この世界は今や『あのお方』や伽羅様の世界でもある。ネレスだってここに住んでる。そして、文字人間がいるロッカだって、この世界の住人だ」

『ほ、ほんまや。ついでにソネリオンまで居てはるわ』

「もう、誰が残っても、この世界は大丈夫なんだよ」


 戦う意味もなくなった。このまま試合放棄したいが、さすがにそれは球体王まんまるが許してくれないだろう。


「試合開始と同時に、カルナが暴走したフリをして爆発するのはどうだろうか? もちろん、うまく手加減して。後は俺、死んだふりしとくからさ」

『え、ええけど、そんなうまくいくかなぁ』


 大丈夫ですよ。俺、むしろ、そんな感じで今までやってきましたよ。


『パートナーのソネリオンにはどう言うん?』

「何も言わない。文字の力が使えなくなったことも黙っておく。俺が何の役にも立たないとわかったら、変な魔装備持ってくるかもしれないし」


 そういえば、カルナの魂を動力とした最終破壊兵器を開発中だと言っていた。使い方によっては、この世界そのものがなくなってしまう威力があるらしい。


「うん、そんなの持って来られたらせっかく世界が助かりそうなのに下手したら滅亡しちゃうからな。絶対秘密にしておいてね」

『大丈夫なん? なんか嫌なフラグたってへん?』


 大丈夫、大丈夫。これまでまったく力がなくても宇宙最強と勘違いされてきたんだ。文字の力でここまで勝ち上がってきた俺を誰が最弱と思うのか。


「カルナは派手な音と煙をたてる練習しといて。俺は爆風で吹っ飛ぶ演技をマスターしとくから」

『ちょっとまって、タッくん、なんかやってくるで』


 ぴょこんぴょこん、と気持ち悪い物体が跳ねながらこっちに向かってくる。


『タクミ様ぁ、こちらにいたんですかぁ』


 プリントされたチョビ髭の顔に引っ張られるように白いシャツが、びょーん、と伸びながら自走していた。うん、気持ち悪い。ソネリオンが出て行ったら、あのシャツはすぐに廃棄しよう。


「どうしたんだ、ソッちん、そんなにあわてて。もう何も心配することなんてないんだぞ」

『ほう、タクミ様、どうやら次のタッグ戦、勝てる算段がついたようですな』


 いや、負けるほうのだけどね。


「とっておきの秘密兵器を用意した。もう俺1人で余裕だから、ソッちんは戦いまで、ゆっくりのんびりしてくれたまえ」

『さすがタクミ様、揺るがない自信と圧倒的(たたず)まい、ただただ感服致しまする。しかし、私とて何もせぬわけにはいきません。かねてから開発中だった最終破壊兵器が先程、完成した次第でございます』

「えっ!? シャツなのにっ!?」

『シャツだからこそ、でございます』


 うん、オマエが何を言ってるかもわからない。


『魔装備に身を宿すことで、魔装備の気持ちになれたのです。あと一歩届かなかった最終破壊兵器の核となる部分は熟練の技術ではなく、同調する魂の鼓動、シンクロニティが必要だったのです』

「そ、そうか、まあ知らんけど、それいらない」

『ええっ、最終破壊兵器なのにっ!?』

「最終破壊兵器だからこそ、だよ」


 ひっこめ髭。シャツに埋め込まれて消えてしまえ。


「もはや俺の力は究極進化の完全体。開始1秒で決着がつくというのに、最終という名がつく破壊兵器なんて使う()などあると思うかね?」

『おお、なんという気品に満ちた絶対自信。タクミ様は本当に1秒で決着がつくと確信しておられるっ』


 俺が吹っ飛ぶんだけどね。うん、嘘は言ってない。


『かしこまりました。そこまでおっしゃられるのであれば最終破壊兵器は倉庫にしまっておきましょう』

「うむ、そうしてくれたまえ。後、決戦の日まで俺は秘密の特訓をするからソッちんを着ることはできない。物干し竿にぶら下がって日向ぼっこでもしていたまえ」

『かしこまりました、タクミ様。圧倒的勝利を信において惰眠をむさぼって参ります』


 ぴょんこぴょんこ、と来た時と同じように気持ち悪く跳ねて帰るソネリオン。


 初めて自らの意思で勘違いを誘発させる。それは驚くほどすんなりと、あっさり世界に浸透していった。



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