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三百四十四話 不当永住ばいんばいん

 

「見っかっちゃった」


 ちょっと照れくさそうに、ロッカのオデコに空いた穴から、文字人間がにゅっ、と出てくる。

 小さな穴から出る途中で、その物量は跳ね上がり、最後には明らかに、ロッカ本人よりも大きな姿になっていた。


「ぎゃあああああっ!! な、なんでござるかっ!? 拙者のオデコからっ、何者かが出てきたでござるっ!!」


 動揺したロッカが背中のバスターソードを抜くと同時に、文字人間に向かって袈裟懸(けさが)けに斬りつける。

 まあ、自分のオデコから、こんなのが出てきたら、ぶった斬りたくなるよね。でも……


「やわらかぷにぷに」

「もにゅんっ!?」


 剣に向かって文字人間がなにやつぶやくと、ロッカのバスターソードは、こんにゃくのようにぐにゃりと曲がる。


「な、なんでござるかっ!? 拙者の剣がっ!!」

「ごめんね。あとで戻してあげるから」


 文字人間が初めて自分の意思でその力を行使した。

 元祖の力。俺の考えを経由しないためか、そのスピード、精度が遥かに優れている。


「文字人間っ」

「お久しぶりだね、タクミさん」


 最初に出会った頃と同じように、いやその時よりもご機嫌な声色で、明るく俺に話しかけてくる。


「ぬうっ、怪しい奴でござるっ、剣が曲がろうが関係ないでござるよ。やっつけてやるでござるっ」


 こんにゃくと化したバスターソードが文字人間に何度も当たり、ポヨンポヨンと気の抜けた音を発していた。


「俺を利用していたのか。文字の力も、永遠のラスボスも、お前が全部仕組んだ罠だったのか」


 ぽよん。


「ああ、そうだよ。僕は生まれたばかりだったからね。文字の力が無限界層のヤツらに、どれくらい通用するか知りたかったんだ」


 ばいーん、ぽよぽよぽよ。


「囮だったのか。俺が負けたらそのままで、勝てそうなら、どこかで入れ替わるつもりだったんだな」


 ぽよーん、ぽよーん、バインバインバイン。


「うん、ごめん、ロッカ。緊張感なくなるから、ちょっと()めてくれない?」

「え? はぁはぁ、も、もう少しで倒せそうでござるよ?」


 ぽむぽむぽむぽむ。うん、もう無視しておこう。


「そうだね。実にいい実験になったよ。使える文字、使えない文字、どこまで文字の力が使えるのか、その限界を見極めることができた」


 改めて文字人間の全身に書かれた文字を見直して見る。


『暗黒空間より誕生した混沌の王』

『あらゆる攻撃を何十倍にもして弾き返す』

『世界に影があるかぎり何度でも蘇る』

『主人公の生き別れた兄』

『と見せかけて実は姉』

『しかし血の繋がりはなく、主人公のことが好きになる』


 メチャクチャだ。おそらく、あの作家が適当に書いた設定だが、これら全てが実現できるなら、永遠のラスボスとして君臨できるだろう。


「それで自分が最強だと確信したラスボスはどうするんだ? 俺に変わってトーナメントに出るのか? いきなり『あのお方』と戦ってランキング1位に君臨するのか? それともなりふり構わず、全ての界層を破壊して滅亡させるのか?」

「まさか、絶対無敵のラスボスはそんなことしないよ。どっしり構えて挑戦者を待ち続けるんだ。それこそ永遠に、ゆっくりとね」

「ちょっと待つでござるよっ! まさか、また拙者の穴に戻る気でござるかっ!? 靴を脱ぐのをやめるでござるっ!!」


 あわてたロッカが狂ったようにやわらかソードを振り回すが、当然ダメージは与えられない。


「まっているよ、タクミさん。できれば最後に君と戦いたいんだ」


 いや無理だよ。文字の力もないのに、トーナメント勝ち上がってこれるわけないじゃないか。


「お前なんかタクみんがボコボコにやっつけるでござるよっ、ぎゃあっ、ウネウネして気持ち悪いでござるっ!!」


 ウナギみたいに細くなった文字人間がロッカのオデコにすっぽりと侵入していく。


「ああああっ、にゅるにゅる滑って、つかめないでござるよっ!!」

「ガムテープ貼って、出られないようにしようか」

「何を言うでござるかっ、拙者のオデコに永住させないでほしいでござるっ!」


 ロッカのオデコの中で、小さくなった文字人間が、バイバイと手を振っている。


 そこには、もう『超優しくて誰も傷つけない。誰よりも平和を望むナイスガイ』は存在しなかった。



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