二百二十一話 六花
「冒険へは私たち二人だけで行ったほうが良さそうね」
「へ?」
イップクの大睡眠騒動から、一夜明けた昼下がり、シャサが俺に提案してきた。
まだ魔法が効いているのか。
ロッカとクロエ、そしてハルもぐっすりと眠っている。
「どうしてだ? ロッカはヌルハチの結界も破るくらいだし、クロエもかなり強いほうだぞ」
「直接的な魔法なら負けないと思うわ。でも五感や精神を揺さぶる魔法に弱すぎる。もし魅了の魔法みたいなもので操られたら、私たち、どうしようもなくなるわよ」
うっ、た、確かに。
ロッカが敵に回ったらと考えるだけで恐ろしい。
「だ、だけどハルは連れて行ったほうがいいんじゃないか? ほら、俺を大睡眠から守ってくれたし……」
「あれが最後の魔法よ。たぶん、この子は代償を払ってる。ゆっくりと魔法使いになる前にもどってるわ」
代償? 魔法使いになる前に?
「それって、もしかして禁魔法を」
「そうね。五大禁魔法のうち、二つはすでに解放されている。始まりの魔法【星海】と空間魔法【世界逆行】。恐らく星海を使ったのね」
ハルの正体がヌルハチなら。
アリスが現れるまで、ずっとギルドランキング1位だった世界一の大賢者だ。
世界を揺るがすような禁魔法を、切り札として隠していたとしてもおかしくない。
「リンが世界逆行を使った時と同じ代償なのか」
「正確には全く別のものよ。魔法が使えないのは同じだけど。ヌルハチは最高レベルの大賢者から、魔法が一つも使えない見習いまで若返っている。……リンデン・リンドバーグは、魔力を使い切ったままの状態で周りの時間が止まってる」
うーん、ちょっと難しい。
「周りの時間が止まってるのは、全てが遮断された部屋にいるようなものか?」
ヌルハチから魔法を教わった時に聞いていた。
魔力は水や土、草や日など、自然にある様々なものから吸収して回復していくと。
「あらゆるところにある魔力を吸うことができない状態だよね? でも、それって敵から放たれた魔力も遮断するよな? 全ての魔法が効かないってことじゃ……」
「……いいわ、それは今、言わないで」
答え合わせは、ほぼ終わっている。
それでも、まだ解答は言えないのか。
「わかった。ハルも連れては行かない。けど、さすがに二人で禁魔法を解放なんて無茶なんじゃないか? 魔剣カルナも反応ないし。六老導が邪魔してくるなら、こっちも強力な魔法使いの仲間を一人くらい用意したほうがよくないか?」
「そうね、でもそれは大丈夫よ。私をサシャの姿にしてくれた魔法使いの協力者がいるわ」
そうか。シャサは魔法が使えないから、サシャの姿に変身させた魔法使いが別にいるのか。
ん? そう言えば一人だけ変身が得意な魔法使いを知っている。
前回はモウに変身して、敵としてやって来たけど、今回は最初から味方になってくれるみたいだ。
「その魔法使いはこっちに合流しないのか?」
「ええ、そのほうが色々と動きやすいから。影からサポートしてもらうわ」
それならなんとかなりそうか。
不安要素はたくさんあるが、限定パーティーの期限は一日だけだ。
もう出発して手っ取り早く終わらせたい。
「わかった、二人で行こう。あとでロッカたちがゴネないように書き置きを残していく」
そういえば、ロッカがここに来てから別々に行動するのは初めてだ。
レイアの時はどうだっただろうか。
魔王の大迷宮にカルナと行った時は、こっそり跡をつけてきたな。
「そういえば、場所を聞いてなかったな? 一日で行って帰ってこれる所なのか?」
「それは心配しなくていいわ。転移の魔道具を借りて来たから、一瞬で飛べる。普通に行ったら、馬車でも一週間はかかるけど」
転移の魔道具? ヌルハチの鈴みたいなやつか?
いや、アレはヌルハチがやってくるだけだから、さらに希少な魔道具だろう。そんなものを用意できるのは……
「もしかして、変身させた魔法使い以外にも味方がいるのかな? 例えば、チョビ髭を生やしたおっさんとか……」
「ず、随分とピンポイントね。どこで誰が聞いているかわからないから、今は言えないけど…… 確かにチョビ髭を生やした仲間は一人いるわ」
うん、やっぱりあのおっさんだ。
と、なると、やはり魔剣カルナを渡してきたのは、今回の騒動と関係しているのか。
「なぁ、俺は一体、何に巻き込まれているんだ? 六つ目の禁魔法って本当に解放しなきゃならないのか?」
「そうね、まだ全部は言えないけど、六つ目の禁魔法を正しい手順を踏まずに解放しようとした奴がいるの。その影響で終わったはずの物語が歪んだ形で繰り返している」
「えっ!?」
や、やっぱり物語は繰り返してたの?
それも歪んだ形で?
「そ、それって、ヤバいのか?」
「ええ、下手をすればこの世界は終焉に向かうわ。六枚の花びらは順番に開かなければならない。最後の花びらが無理矢理開いて、それは不完全な形でタクミの前に現れたわ」
ん? 俺の前に現れた? 不完全な形で? 六つ目の禁魔法が?
いや、俺、全然そんなの見てないんだけど……
「むにゅう、タクみん。今日の晩御飯はなんでござるかぁ、すぴ〜」
ロッカがよだれを垂らしながら、寝言を言っている。
「いいのよ、タクは。そのままで」
シャサが懐から、銀色に輝く方位磁針を取り出し、Wに向けて磁針を動かした。
カチリ、という音と共に、ぐにゃりと景色が歪む。
たった一日だけの冒険が始まった。
お待たせ致しました!
『うちの弟子』漫画版2巻が、11月8日(月)秋田書店様の少年チャンピオンコミックスから発売されました!
1巻に引き続き、小説版にはない面白さがさらに加速しています!
十豪会や大武会など物語も大きく動きます!
漫画版で躍動するタクミたちをぜひご覧になって見てください!
どうか、よろしくお願い致します!
WEBマンガサイト「マンガクロス」様でうちの弟子、漫画版最新話、掲載中!
第二部始まりました!
超絶に面白いので、みんな見てねー!
次回公開は5月30日火曜日予定です!
漫画版はなんと、あの内々けやき様に描いていただきました。
かなり素敵で面白い漫画になってますので、ぜひぜひ、ご覧になってみてください!!
第7回ネット小説大賞受賞作「うちの弟子がいつのまにか人類最強になっていて、なんの才能もない師匠の俺が、それを超える宇宙最強に誤認定されている件について」
コミカライズ連載がマンガクロス(https://mangacross.jp/)にて3/30(火)よりスタート!!
WEB版で興味を持って頂いた方、よかったら漫画版もご覧になってみて下さい!
またWEB版と書籍版もだいぶ変わっています!
一巻は追加エピソード裏章を多数追加。
タクミ視点では書き切れなかったお話を裏章として、五話ほど追加しており、レイアやアリス、ヌルハチやカルナの前日譚など書き下ろし満載でございます。
二巻は全編がかなり変更されており、さらに裏章も追加されてます!
WEB版では活躍が少なかったマキナや、出番のなかった古代龍の活躍が増えたり、タクミとリンデンの幼い頃のお話や、本編でいつもカットされているレイアの活躍が書かれています。
書籍版も是非、よろしくお願い致します!
⬇︎下の方にある書報から二巻の購入も出来ます。⬇︎
これから応援してみよう、という優しいお方、下のほうにあるブックマークと「☆☆☆☆☆」での応援よろしくお願いします!
すでにされている方、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°.
茄子炒め 様から素敵なレビューを頂きました。
いつも応援ありがとうございます!
言葉にならないほど感謝しています!
感想も、どしどしお待ちしています!