二百二十二話 第六魔法
「寝坊したでござるっ!!」
朝、いやもうとっくに昼でござるが、目覚めたらタクみんとサシャの偽物が消えていた。
食卓のテーブルにはタクみんが残した書き置きが置かれている。
『ちょっと冒険に行ってきます。すぐ帰って来るので、いい子でお留守番しててね。 PS.お弁当作ったので、起きたら食べてください。 タクミ』
「え、えらいこっちゃでござるよっ」
「うぅ〜ん、ようやく黒龍の王になってくれたか、タクミ殿」
「寝ぼけるなっ、起きろっ、黒蜥蜴っ!」
呑気にまだ寝ているクロエを叩き起こす。
「な、なんやなんや。あれ? ここどこなん? うち、タクミ殿と結婚したん?」
「違うわっ、この痴れ者がっ! 拙者たちは寝過ごして、置いて行かれたでござるよっ!」
「な、なんやてっ!?」
くっ、コイツがワインを飲んで酔っ払って倒れるから、拙者もつられて寝てしまったのか?
昨晩の記憶がぼやっ、としていて曖昧だ。
「す、すぐに追跡するぞっ、まだそんなに遠くまで行ってないはずでござるっ」
「まかせときっ、うちは匂いでタクミ殿の場所を探し当てたくらいやっ、どこにいるかなんて、すぐにっ……」
勢いよく、跳ね起きたクロエの動きが、そのままピタリと止まる。
「え? なに? 思ったより近かったの?」
「……匂い、全然せえへん。少なくともルシア王国におらん。……たぶん、二人とも違う国に転移してるわ」
「な、なんですとっ」
ま、まずい。
拙者がどれだけ頑張って全力で移動しても、一日で別の国に行くことは不可能でござる。
転移の魔法が使える大賢者ヌルハチか、場面転換のシーンカットが使えるレイア師匠に頼るしかない。
「ふわぁ、ちゃくみ、どこぉ?」
クロエとの喧騒で、ハルが起きてくる。
そうだ。ハルの正体はヌルハチかも知れぬと、タクみんが言っていた。
「ハル、いいところに目覚めたっ! タクみんがいないのだっ! 転移の魔法で我々を側に飛ばしてくれないかっ!?」
「むりだよ、ハルはまだ、まほうしょしんしゃだからダメなの。てんい、つかえるの、ひゃくねんご、くらいかなぁ」
「遅すぎるでござるよっ!!」
冒険は一日限定なのにっ。
「タ、タクみんっ! 死が二人を分かつまで、ずっと一緒と誓い合ったでござるのにっ!!」
「お、おちつき、ロッカ。あと、たぶん、タクミ殿はそんなこと誓ってへんっ!」
そんなことはござらん。
夕陽が沈みかけ、真っ赤に染まった秋の稲穂で、二人で誓いあって……あれ? まだタクみんと出会ってから秋を迎えてないのに、なんで秋の記憶があるでござるか?
「ほらっ! 今、あれ? っていう顔したやんっ! タクミ殿はうちと結婚して王になるんやからっ! そんな約束するはずないねんっ!」
「そんなことはないでござるっ! ちょっと寝ぼけて混乱してるだけでござるっ! それより、早くタクみんを追いかけねばっ!」
大賢者ヌルハチの転移魔法が使えないなら、後はレイア様に頼るしかないが、修行を終えるまで戻らないと誓っている。
「くっ、背に腹はかえられぬでござるかっ、タクミ村に戻ってレイア様にっ」
「あ、あかんで。レイアもだいぶ前からルシア王国におらへん。まったく匂いせえへんもん」
「あわわわわわわっ」
は、八方塞がりでござるっ!
だいたい転移できたとしても、タクみんがどこへ行ったかわからないでござるよっ!
「も、もうヤケクソで走るしかないでござるっ、追いつかないまでも、少しでも距離を縮めて……」
「ちょっとまちっ、まだ最終手段が残ってる!」
最終手段?
黒蜥蜴の鼻も効かず、転移もできない。
他になにかできることがあるでござるか?
「山の麓のタクミ村に、様々な魔装備を扱う武器商人がおる。あんまり頼りたくないけど、転移ができる道具やタクミ殿を見つける道具があるかもしれへん」
「も、もしかして、その武器商人、チョビ髭が生えてなかったでござるか?」
「おお、なんや。あんた、ソネリオン知っとるんか」
ブンブンと首を横に振る。
まだレイア様と出会う前、背後から声をかけられたが、まったく気配に気がつかなった。
関わってはいけないと、拙者の勘が全力で告げていた、不気味な武器商人だ。※
「し、仕方ないでござる。その武器商人のところへ案内するでござるよっ」
「その必要はございません」
「ぎゃあああぁっっ!!」
ど、どうなってんだっ、このチョビ髭っ!!
な、な、な、なんでここにいるのっ!?
「お困りのようでしたので、ご様子を見に来たのですよ」
せ、拙者の心の声に答えてる?
「いえいえ、たまたまですよ、たまたま」
やっぱり答えてるっ! せ、拙者、このチョビ髭、超苦手でござるっ!
「ちょっ、ロッカっ、なんでうちの後ろに隠れるんっ、こんなオッサン、全然強くないでっ!」
そういうふうに装っているだけでござるっ。
このチョビ髭の強さはレイア様のように底が知れない。
一体何者なのだっ。
「あっ、あかんてっ、ツノは触ったらあかんっ、そこ触ると力抜けるねんっ、あふんっ」
ああっ! 黒蜥蜴の盾が崩れ落ちて、チョビ髭が目の前にっ!!
「ふむ、これはこれは。最初に出会った頃より、人の様を成していますね。一流の武器商人である私レベルでないと、もはや見分けがつかないほどに」
人の様を成している?
黒蜥蜴のことを言っているのか?
まあ、確かに見た目は人間ぽいが……
「いいえ、ちがいます。あなたこそが」
チョビ髭が少し大袈裟に、胸に手を当ててお辞儀して。
「禁断の第六魔法、六花なのです」
訳のわからないことを言い出した。
※ ロッカとソネリオンの最初の出会いは「第六部 裏章 レイアとロッカ」に載ってます。よろしければご覧になってみて下さい。




