表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/24

喬介編「エピソード・オブ・エルグランド Part④」

 城門前ではすでに、魔騎士隊長ら全員が顔を揃えていた。


「遅かったな、喬介」


 レイズが待ち侘びたという顔で迎える。


「城で変な女と会った」

「変な女? あぁ、シルフィか。めんどくせえ奴に遭遇しちまったな」


 ブラディが揶揄い混じりのにやついた顔で応えた。

 "変な女"というフレーズで、すぐに名を言い当てたところから、やはり彼女は有名なようだ。




 一行は目的の場所へと向かう。

 王都の外れ。東へ2刻ほど歩いた先にある森の中。到着するや否や、朽ちかけた石造りの小さな塔を発見する。


「ここか」


 レイズの言葉と同時に、塔への注目が集まる。

 喬介は静かに眼を光らせていた。


「怪しさぷんぷんだぜ。どれどれ、その魔術士さんとご対面といきますか」


 言いながらブラディが、そそくさと入口の扉に手を掛けようとする——

 

「おやおや……これはまた、随分と物騒なお客様だ」

 

 突然、中から扉が開かれ、白髪の男が顔を覗かせて不気味に笑う。

 しかしその目は、どこか濁っていた。


「プリウスの魔石について、知っていることを話せ」

 

 警戒心は払いつつも、ヨルムは単刀直入に投げた。


「ふふ……もちろん」

 

 ところが男は、微かに口角を上げてあっさりと頷く。


「とある遺跡に、石板があるのですよ。そこに、魔石に関する記述が——」

「場所は?」


 何の疑いもせず流暢に話す男に対し、ティアナが淡々とした表情を見せた。


「ここから北東、山脈の麓です」


 躊躇いが一切感じない。あまりにスムーズな回答。

 その場の誰もが、あからさまに違和感を覚えていた。


(……妙だな)


 喬介は黙ったまま、男を見つめている。だが先ほどから全く視線が合わない。

 言葉は流暢だが、どこか用意されたもののような意が感じる。


「……少し、話ができすぎていますね」


 マイアが神妙な面持ちで小さく呟いた。


「けど、行くしかないだろ」

「……そうね」


 レイズが姿勢を正し、一歩前へ進み出すと、シーマも静かに同意した。




 遺跡には、先の場所から間も無くして到着した。

 風の谷から始まり、エルグランド領を横断するように連なる山脈。その東端に位置する麓。そこに崩れかけた石の構造物があった。

 風が抜けるたび、低い唸り声のような音が響く。


「……ここが、例の遺跡ってやつか。なんとも粋な雰囲気で」


 ブラディが締まりのない表情で周囲を見回す。


「なにが起こるかわからない。警戒を怠るな」


 ヨルムが武器に手を添えながら、注意喚起を促す。

 その時だった。

 喬介の胸の奥で、何かがざわついた。


「……っ」


 彼の持つ剣、蛇剣ヴァイパーブレイドが、微かに震える。それと同時に、黒い闘気が揺らめいた。


「どうした?」


 気づいたヨルムが問う。


「いや……なんでもない」

「…………」


 その喬介の様子に、ティアナが黙して目を細めていた。

 遺跡の奥に到達。

 そこには一際目につく台座。老魔術士の話の通り、石板と思しきものが置かれていた。


「これが……」


 ブラディが石板に近づいた、その瞬間。

 ——空気が裂けた。

 方々の崖から影が飛び出す。黒いローブに身を包んだ集団。その数、およそ30。


「来るぞっ!」


 レイズが叫ぶ。それが戦闘の合図となった。

 一斉に取り出すは、魔騎士隊の象徴である武器、アストラルウェポン。即座に迎撃態勢の布陣が完成される。

 

「あなたたち、暴れてもいいけど、この歴史的建造物を壊すことは許されないわよ」

「はあ? んなこと今ここで言うか!」


 開幕ティアナからの無茶な要求に困惑しながらも、レイズは炎の鞭ヴェルファイアビュートをしならせ、熱波を巻き起こす。

 炎がくねくねと軌跡を描き、飛びかかってきた敵を包み込むと、5人纏めて焼き払った。


「ふっ」


 吐いた息とともに、ヨルムが右手の指に挟んだ4本のナイフを同時に投げる。

 武器の名はグランツァシーブス。宙を滑空するそれは、氷を纏いて対象の4人に刺さると、そこから冷気が走り、刹那に凍結させた。


「水よ、舞いなさい」


 続いてシーマが踊り出す。

 両手に携えた扇の刃、フロンクスエッジが舞うと、彼女の周囲から清流が巻き起こる。

 水が集い、龍を模って顕現。それが目の前の敵4人を呑み込んだ。


「おらおらっ! ガードがガラ空きだぜぇっ」


 高らかな声で、大槌を振りかぶって構えるブラディ。

 彼の持つコムネッドタイタンが降ろされると、5人を捕捉。地割れを起こしながら叩き潰した。


(げっ、遺跡の床を壊しちまった。ティアナに叱られる……)


 もはや時すでに遅し。

 その状況を見ていたティアナは、表情を歪ませていた。だがすぐさま体勢を整え、自身に迫る敵を迎え撃つ。

 死角である頭上からの攻撃。臆することなく、手にする細剣セイラウインダムを構えて引き絞ると、それを天へ突き出す。

 途端、旋風が巻き起こり、対象の3人を吹き飛ばした。


「く、来るなっ!」


 ヴァーソは狼狽えながら後退りする。その様子にわずかながらの違和感を覚えるも、構わず黒のローブ4人は攻撃を仕掛けた。

 その時、ヴァーソの体に電気が走る。その衝撃で闘志を呼び起こし豹変。

 次の瞬間——姿が消えた。

 走る一閃の煌めきと、唸る霹靂。刹那、黒の4人の体を雷光が貫いていた。


「だから来るなって言ったでしょ。僕は殺しが嫌いなんだ」


 まるで別人のように、低く冷徹な声で、ヴァーソは肩の力を落とす。

 その両手には、電撃をまとう鉤爪、キャブライトファングが脈々と輝きを放っていた。


「来るのでしたら、容赦はしません」


 迫り来る黒の3人を見据え、マイアは盾を前に構える。


―満ち猛し燃ゆる炎よ、空を裂いて彼を貫け―

火炎弾(ファイヤーボール)!」


「魔術ですって!?」


 相手は突如と火の術を放ってきた。

 だがそれは、盾に触れた途端、マイアの身体を避けるようにして放射状に拡散される。


「あなたたち、ただの賊ではなさそうですね」


 そう言いながら、もう片方の手に持つ槍、クラドセフィーロを天へ掲げる。その瞬間、矛先から光の帯が噴き出し、3人を包み込む。

 白き燐光の先。敵は光の彼方へ消えていた。


 戦いが繰り広げられている中、柱の陰から覗く殺意。黒ローブの1人が、魔騎士の誰かへ不意打ちを企んでいた。


「……ねぇ、そこでなにしてるの?」


 突然背後から漂う声。

 気づいた時すでに、首元へ刃が添えられていた。


「不意打ちなんて卑怯なマネ、やっていいのは——ワタシだけなの」


 黒は動くことさえできない。耳元で囁かれる、低く冷たい少女の声。

 その主であるルキノは、黒を捉えている大鎌メルファサイスから、複数の蔦を生み出す。

 たちまちに蔦が触手のように黒の首に纏わりつき、息を封じる。

 直後、肉と骨の軋む音が辺りに響いた。

 

 圧倒的だった。

 敵は数こそ多いが、エルグランドが誇る精鋭、魔騎士隊長の力の前では無力に等しい。

 だが——


「……?」


 喬介が反応する。

 魔騎士隊長らの激しい攻撃を潜り抜けた、黒ローブの1人が迫る。


「喬介、下がれ!」

 

 レイズの声が響く。だが喬介は、動かなかった。

 体の奥底から、闘気が、勝手に溢れる。あの時、魔族を倒した時と同じ感覚。

 次の瞬間、黒い蛇が形を成した。そして喬介は咆哮する。


「ヴァイパーソウル!」

「——っ!?」


 闇を帯びた蛇が、敵へと襲いかかる。

 触れた瞬間、敵の動きが止まった。


「か、体が……」


 黒のローブは、呼吸すらままならないほどに苦しみ、体を硬直させて微動だにできずにいる。


「麻痺。神経毒……か」


 ヨルムがその症状から読み取り、喬介が放った攻撃の正体を呟いた。


「その力……」


 ティアナが喬介を見る。何かを分析しているようだ。


「おの、れ。その、剣は……竜の——」


 黒のローブは、毒に耐えきれず、言葉を言い終える前に気絶した。


 半刻後。

 黒のローブは、気付によって目を覚ます。

 生き残っているのはこの者のみ。それをブラディが押さえつけていた。


「吐け。誰の差し金だ?」


 ヨルムが殺意を消さぬまま、冷たく問う。

 ところが男は息を吐くように笑うだけ。


「我らは……崇拝なる……」


 そう言い残すと、突然力を失い、崩れた。

 

「……自害、したわね」


 シーマが静かに視線を落とした。

 情報の収穫なし。辺りに一時の沈黙が支配した。


「でも……わかったこともあるわ」


 ティアナが石板を見つめながら息を吐く。


「プリウスの魔石は……4つ存在する」


 その言葉に、空気が変わった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ