第15章 連携①
数日ぶりの中層探索だった。
訓練期間は長くなかった。
だが、リオの感覚は明らかに変わっていた。
以前より、周囲がはっきり分かる。
気配。
魔力。
流れ。
意識すれば、拾う情報を絞ることもできる。
まだ完璧ではない。
だが少なくとも、“見えすぎる”感覚に振り回されることは減っていた。
《蒼天の軌跡》と共に、中層通路を進む。
隊列は以前と同じだった。
先頭では、索敵役のセレナが静かに周囲へ意識を巡らせている。
そのすぐ後ろを、大盾を構えたドルクが進む。
何かあれば即座に前へ出られる位置だ。
中央にはミア。
リオはその少し後ろを歩いていた。
そして最後尾では、レオルが前後を軽く動きながら周囲を警戒している。
奇襲への対応も兼ねているのだろう。
以前より自然に、その位置へ収まっていた。
「どう?」
ミアが振り返る。
「少しは慣れた?」
「……まあ」
リオは小さく頷く。
感知訓練自体は、確かに効果があった。
以前なら雑音みたいに広がっていた気配が、今は整理されて見える。
セレナが静かに口を開く。
「無理に広げすぎないように」
「必要な情報だけを拾ってください」
「……はい」
リオは意識を集中する。
周囲の魔力。
壁。
通路。
前方の気配。
――そこで。
リオの足が止まった。
「……?」
セレナが振り返る。
「どうしました?」
リオは少し眉をひそめた。
何かいる。
かなり遠い。
だが。
確かに気配があった。
「……前方」
「何かいます」
レオルが目を細める。
「魔物か?」
「多分……」
リオがそう答えた直後。
セレナが静かに頷いた。
「ええ。いますね」
ドルクも盾へ手をかける。
「三……いや四か」
リオは少し驚いた。
もう分かるのか。
レオルが苦笑する。
「ま、俺達も伊達にA級やってないってこと」
だがセレナは静かに続ける。
「ですが、リオの方が遥かに早かった」
「まだ私達には輪郭程度しか分かっていません」
空気が変わる。
全員の意識が前方へ向いた。
通路を進む。
数分後。
通路奥。
通常種より一回り大きいグレートウルフが、壁際へ潜むようにこちらを見ていた。
しかも一体ではない。
三体。
完全に待ち伏せの位置だった。
ミアが小さく息を吐く。
「やっぱりいたかー……」
ドルクが前へ出る。
盾が静かに構えられる。
グレートウルフが動く。
飛び出す。
だが同時に。
セレナが消えた。
一閃。
先頭のグレートウルフが崩れ落ちる。
横から回り込もうとした個体へ、ドルクの盾が叩き込まれた。
壁が揺れる。
レオルの槍が後方個体を貫く。
ミアの魔法弾が最後の一体を吹き飛ばした。
戦闘は一瞬だった。
以前と同じ。
いや。
以前以上に洗練されていた。
リオはその連携を見ながら、小さく息を吐く。
やはり強い。
だが今は。
以前より、その動きが理解できる。
セレナが振り返る。
「どうですか?」
「……すごいです」
素直にそう思った。
以前なら、何が起きたかすら追えなかった。
今は違う。
誰が何をしているのか。
どう連携しているのか。
少しずつ分かる。
レオルが笑う。
「お、ちゃんと見えるようになってきたか?」
「……少しだけ」
ドルクが静かに口を開く。
「感知だけじゃない」
「視野も広がってるな」
リオは少しだけ黙る。
そうなのかもしれない。
訓練を受けてから。
以前より、周囲を見る余裕が増えていた。
セレナが静かに頷く。
「その感覚を忘れないでください」
「深層では、それが生死を分けます」
リオは小さく息を吐いた。
以前の自分なら。
きっと、今の戦闘すらまともに理解できなかった。
だが今は。
少しだけ。
前へ進めている気がする。
そして同時に。
《蒼天の軌跡》と並んで歩けている――そんな感覚も。
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