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「キース殿下のことですか?」
ジェフの穏やかな口調に私は暗い表情で頷く。
私が日々キースに愛を伝えていることは、ジェフはもちろん知っている。お菓子作りを始めたきっかけを「キース様に贈りたい」と言った時は、ジェフは心の底から喜んでいるように見えた。その日から、エリオス兄弟は私のお菓子作りを快く手伝ってくれた。
「それもあるわ……」
エヴィンが反王政派だということを言おうか一瞬迷ったが、やめておいた。
エヴィンについては、私が徹底的に調べてみせる。兄だろうと、容赦しないわ。
「お嬢様の悩みの種を頭の中で並べてみるか、文字に起こしてみるか、してみてはどうでしょうか」
ジェフの言葉に私は「それもそうね」と素直に答える。
私は頭の中で文字を浮かべる。
社交界デビュー:完全に浮いていた。友達はできなかった。というか、ほとんど誰とも話をしなかった。
エヴィン:兄のことを裏切り者だと思いたくない。だが、敵かもしれない。
キース:私のことを嫌っていると思っていたけれど違うのかも……。もしかしたら、私のことを気に入ってくれている可能性は僅かにある。だが、今はそんなことよりも自分の浅慮さに耐えられない。
思ったよりも少ないわね、私の抱えている問題。
感情がごちゃごちゃなせいで、脳の処理が追い付いていないだけだわ。
考え込んでいる私にジェフは何も言わずにチョコクッキーを渡してくれた。私はチョコクッキーを食べながら、これからどう動いていくかを考えた。
社交界は次がある。まだ始まったばかりよ。そんなに重く捉えなくていいわ。
エヴィンは何か隠している気がする。あくまで女の勘だけど。
この家で育って、突然反王政派っておかしいもの。……だけど、面と向かって彼を詰めたところで何も答えてくれはしないだろう。
やっぱり、部屋に侵入しちゃう? それぐらいのことはしないと、真実にはたどり着けないわよね……。
そして、キース! 彼にはもう一度会いたい。
「よし! 解決したわ!」
私はチョコクッキーを食べ終えて、勢いよく顔を上げた。
「おお! 相変わらず切り替え早いですね」
突然動き出した私にジェフは驚きながらそう言った。私はジェフと目を合わせて、口角を上げる。
「ジェフのチョコクッキーのおかげよ。ありがとう」
「なんとも光栄なお言葉……、いつだってお作りいたします!」
ジェフは嬉しそうな笑みを浮かべる。なんとも癒される笑顔だこと。
「悩みって、案外感情が複雑化させているだけのことが多いわよね……」
「感情に支配されがちですからね」
感情のせいで判断を間違えることはあるもの。
どんな状況でも冷静沈着でいられるように、肝に銘じておかないとね。
ジェフの言葉に「そうね」と返してから、私はキッチンを後にした。




