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……私、キースと踊っている。
キースに腰を寄せられる日が来るとは思いもしなかったわ。
キースの足運びには迷いはなく、私は彼に身を任せる。すごく踊りやすい。
私もダンスはかなり得意な方だ。厳しいで有名なダンスの先生に絶賛されていたから、自信を持っていた。
だけど……キースを相手にすると話は別だ。
なんなのよ、この王子は……。ダンスの技術がこれほど高いなんて聞いてないわよ?
私たちのダンスの相性は最高だった。なによりも楽しかった。傍から見れば、息を呑むほど優雅なダンスだろう。
周囲の貴族たちが見惚れているのが分かるもの。
ターンのたびに私のドレスがふわりと広がり、キースがこのダンスを完璧に操っていた。
バランスを一度も崩すことなく、私たちは踊り終えた。音楽も止まる。
……え、なんでこんなに静かなの?
拍手がないことに不安を覚えた瞬間だった。パンっとひとつの拍手が響く。そこから拍手の音が重なり、あっという間に盛大な拍手が大広間いっぱいに響き渡った。
私はキースから体を離して、優雅に腰を下ろしお辞儀をした。
ダンスは最後のお辞儀までが大切。それまでは気を抜いてはいけない。キースも胸に片手を添え、完璧な角度で一礼していた。
相変わらず、表情は一切変わらない。
……冷徹王子の表情をいつか崩してみたいものだわ。
「なんと素晴らしいダンスなんでしょう」
「これほど美しいダンスを見たのは初めてだ」
「一つの芸術を見ているようでしたわ」
「お二人とも、まるで名画から抜け出してこられたようだ」
誰もが私たちに視線を向けて、感嘆の声を上げていた。
キース効果、凄いわね。私も彼に拍手したいもの。驚くほど見事なダンスの才能だわ。それに、思っていたよりずっと優しいリードだった。
もっと強引に引っ張られるのかと思っていたわ。
「……殿下が踊られる姿、初めて拝見いたしましたわ」
喝采の中からそんな声が耳に届いた。
…………え? キース、皆の前でダンスしたことなかったの?
私は目を丸くしてキースの方を向いた。キースは周囲の声をうるさそうに眉間に少し皺を寄せて、私に手を差し出した。
「騒がしいな。少し離れるか」
あれ? キース、私に気を遣ってくれてる?
困惑しつつも私はキースの手を取り、私たちは多くの視線を集めながら会場を後にした。
こんな経験したことなかったから、内心恥ずかしかったけれど、少し嬉しかった。キースの婚約者として皆に認められたような気持になる。
社交界デビュー成功かな? ……友達はできなかったけど。
まぁ、付き合う人は見極めろってエヴィンも言ってたし……。
あの兄、本当に何を考えているのかしら。
私の目に映っていたエヴィンはキースのことを慕っていた。あれは嘘ではなかったように思う。だけど、先ほどの発言はなに?
………………考えろ、私。馬鹿じゃないでしょ、私。
安直な答えを出してはダメ。もしかしたら、エヴィンに何か考えがあるのかもしれない。
そんなことを悶々と考えていると、いつの間にか大広間から少し離れた応接間に来ていた。




