チラつく影
週明けの放課後、いつも通り図書室へ向かった。
高野君は先に教室を出ていたのでもう居るはず。
いつもの席には荷物があったので私も荷物を置き、彼が席に戻って来るのを待つことにした。
バッグから教科書とノートを取り出す。
...あ。
その際にいつもバッグに入れている小説が目に入った。
アリス の 花が落ちても 。
今の私なら主人公の気持ちが前より理解出来る、そう思い待ってる間読むことにした。
...が、前半部分を読むだけでも内容を覚えている私には辛く胸が締め付けられた。
「あれ!貴方この前の!」
「...ぁ」
なんてタイミングなんだろう...。
私はあまり関わりたくない人に出会ってしまった。
「体はもう大丈夫?」
「はい、この前はお話の邪魔しちゃってすみませんでした」
「え〜?全然!元々邪魔しちゃったのは私の方だし大丈夫。ごめんね?」
「あ、いえ」
「貴方、結とはどんな関係?」
「えっと、クラスメイトです」
「クラスメイト?それだけ?」
「え?」
「他には?」
「えっと、赤点取らないように勉強教えてもらっていて」
「あ〜そうなんだ?結頭良いもんね!そっかぁ〜、それだけ?」
「えっと...」
彼女はニコニコ微笑んで質問してきた。
その顔は、可愛い...可愛すぎる...っ!!
他に何を言えば良いんだろう?
惚れてます、なんて言えないし...!!
それに、気まずい...。
「あ!これ読んでくれてるんだ。好きなの?」
彼女は私の手の中の小説を見て、この本のことを知っている反応だった。
「はぃ、知ってるんですか?」
「知ってるよ〜!だってこれを書いた人知ってるもの」
「え!?」
「これを書いたのは...」
「有栖川さん!」
「あ、はーい」
彼女の言葉に驚いた。
彼女は私が大好きな小説家を知っていると言った。
そして、正体が明かされようとしたその時。
彼女に話し掛けた男子生徒により、私は彼女の名前を知ったのだった。
" 知ってるよ〜!だってこれを書いた人知ってるもの "
" これを書いたのは... "
" ありすがわさん "
アリスガワさん?
" あ!これ読んでくれてるんだ。 "
アリス… ガワ…
もしかして、アリス...??
「えぇ〜!?アリス!?!」
「ん?何?」
「え〜!?」
「え?急にどうしたの?」
「あ、あのっ!私、」
「有栖川さん」
「ん〜、ごめんなさい!貴方と話したいのは山々なんだけど私クラスに戻らなきゃいけないみたいで。彼、呼びに来てくれたみたいなの」
「あ、すみません」
「こちらこそ、またタイミング悪くてごめんなさい。次はゆっくり話しましょう?貴方名前は?」
「あ、はい!乙木 花です」
「1年の乙木花ちゃんね!またね〜!」
「は、はい!!」
手を振り、男子生徒と去っていった彼女の上履きの色が視界に入り私はそこで先輩であることを知った。
2年、有栖川 麗奈 さん
私は彼女の名前を忘れないだろう...。
「〜っ!はぁ... アリスに出会うなんて...」
あんなに可愛い人が、あんなに素敵なお話を書いているなんて...っ!!
私は大好きな小説家に会えたんだと胸が弾んだ!
暫く小説をギュッと胸に抱きしめ浸っていた。
「乙木さん...何してんの?」
「高野君っ!!今、凄いことを知ったの!」
「ん?」
高野君は飲み物を買いに行っていたのか、右手に緑茶を持っていた。
「お茶…」
「あぁ、お茶を飲む時もあるでしょ?で、どーした?」
「あぁ、それがっ!!」
そのまま口にしそうだったが私は慌てて口を塞いだ。
...待てよ?
2人は特別な関係...のはずだから、アリスの正体も知ってる筈っ!
でも、もし秘密にしているのなら私が言っちゃダメな事だし...
あぁぁぁぁぁ!!
高野君は知ってるの? 知らないの??
私が1人でグルグル考えていると高野君は面白くなさそうに隣に座った。
「何だよ、俺には言えねぇよーなこと?」
「あ、違...うのか違わないのか分からないの」
「何それ?」
「ん〜っ!私にもどうしたらいいのか分からなくてっ!!」
「何?」
「高野君は有栖川先輩の秘密...知ってるの?」
「麗奈の秘密?ん〜秘密なんてあんのかなって感じ。話とか結構聞くし」
「あ、そうなんだ?」
「何?」
「いや...」
言っても良いんだろうか?
アリスって有栖川先輩なんだよ!って...。
私が大好きな小説書いた人なんだよって!!
「ていうか、乙木さん麗奈のこと知ってたの?」
「え?」
「この前が初対面だと思ったんだけど...。俺、麗奈って呼ぶじゃん?アンタ今麗奈のこと苗字で呼んだから名前知ってんだ、って思って」
「...あぁ、さっき知ったの」
「さっき?」
「さっき高野君が来る前に会って」
「へぇ〜、で秘密って?」
「...」
「乙木さん?」
「あのね... アリスの正体が分かって」
「...へぇ」
「どうして教えてくれなかったの?2人の秘密...なの?」
「...まぁ、麗奈は言っちゃうんじゃない?俺はあまり言いたくないけど」
" 俺はあまり言いたくないけど "
私は高野君が踏み込んで欲しくない領域に踏み込んでしまったのだろうか?
壁を感じて...胸が痛い。
「そ...か」
「まぁ乙木さんなら大丈夫だと思うけど、変な噂立てられたり騒がれるの好きじゃねーし。そっとしてて欲しいじゃん?」
「あ...ぅん、そうだね」
高野君優しいな...
彼女の心配してあげてるんだ。
「乙木さんはさ、アリスの正体知ってどう思った?」
「どうって...こんな素敵なお話を書けるんだもの素敵な人なんだろうなって思うけど、まだ分からない。決めつけちゃいけないから、もっとちゃんと見て話してどんな人なのか知りたいって思った...かな?」
決めつけちゃいけない って教えてくれたのは高野くんだったから。
「そ」
「うん!でも、私は知れて嬉しかったよ。出会えて良かった」
「そ」
これは紛れも無い本心だった。