掛け違えたボタン
学年が違うからという理由もあるだろうけど、意識していないと近くにいるのに気付けない場合もあるのかもしれない。
「乙木花ちゃん!」
「…ぁ、アリス…川先輩」
お昼休み。
お手洗いから教室へ戻る途中、廊下に居た私に声を掛けて来たのは有栖川先輩だった。
手を振り、コチラへ向かってくる姿…可愛い。
私が男だったら勘違いしてしまうんじゃないか?
いや、勘違いしていただろうな…。
だって、女の状態でもこんなにときめいてしまうのだからっ!!
「どうしたんですか?」
「ん〜、たまたま見つけてそれで声掛けてしまったの。迷惑だったかな?」
彼女は首を傾げてコチラの反応を伺っている。
あざといっ!!
可愛い容姿であざとさも加わっている。
「い、いえ!全然っ!!」
その返事以外出来なかった。
「良かった!今って大丈夫かしら?貴女と話してみたいって思っていたの!」
「あ、はい。全然、大丈夫です!」
「よし!じゃあ此処からだと中庭が近いから中庭のベンチに行きましょ?空いてると良いけど」
手を引かれて驚いたけど完全に向こうのペースである。
柔らかくてスベスベな手、女の子って感じで…彼女の容姿や触れた感覚が自然と " 女性らしさ " を意識させる。
同じ生き物な筈なのに敵わないな、一緒に居ると比べられているのでは無いかと思ってしまった。
だけど、きっとそれは私の被害妄想なだけ。
視界に入れば皆彼女の事しか見ない。
誰と一緒だろうが関係ない程、彼女にしか視線はいかない。
それ程に彼女は絵本から飛び出してきたかの様な存在だった。
「はい」
「え?」
「私が誘ったし、先輩だから私の奢り!」
「あ、いや受け取れないですよ」
「も〜!後輩なんだから先輩に甘えなさい!」
「で、でも」
「じゃあ、結がお世話になっているお礼ってことにしましょう?」
「いや、どちらかというと私の方がお世話になっている方で…」
「細かいことはどうでもいいの!ただ私が貴女に奢りたいだけなんだから受け取って!ね?」
「…っはい」
「よし!」
「…ありがとうございます」
「どういたしまして!」
彼女から渡された飲み物はグレープ味の炭酸飲料。
彼女の手の中にあるのも同じ飲み物で、きっとコレが好きなんだろう。
意外…と言えば意外だし、一般的には人気の飲み物だからそうでも無いと言えばそうでも無いのかもしれない。
彼女は一口、二口と飲みながら話し出した。
「花ちゃんって呼んでも平気?」
「...え?」
「私基本的に下の名前で呼んでるから貴女の名前も下で呼びたいなって」
「ぁ、はい!全然、大丈夫ですっ!」
「良かった」
「あの、私は何と呼べば良いでしょう?...その、アリス...川先輩」
「ん〜、何でも大丈夫。あだ名でね、アリスって呼ばれる事が多いけど」
「あの!じゃあ、私もアリス先輩って呼んでも...良いですか?」
「大丈夫!そういえば、図書室でもアリスって」
「あ、はい!急にすみませんでした!!」
「ふふ、大丈夫!あの時、本の話をしていたわよね?有栖川のアリスに反応しちゃう位には、アリスに夢中なのかしら?」
「あ、いや、だって」
「あの話だけが好きなの?アリスの話は他にも?」
「他のも、好きです!アリスの物語はどれも真っ直ぐだから心が癒されます。人を好きになるって凄い事で幸せな事なんだって読んでて思いました。どの話も好きなんです...でも、あの本は他と少し違って、なんて言うのか...染みたんですよね。空っぽだった私に足りなかった物が埋まるみたいな...。」
「そう」
「アリス先輩は沢山恋をしてきたんですね!」
「え?」
「だって今までのはアリス先輩のお話ですよね!どれも凄くときめきました!!」
「それは、そうなんだけど」
「やっぱり!!」
やっぱり
作者の " アリス " は目の前にいる " 有栖 " なんだ!
「私の話って結から聞いたの?」
「聞いた、というか...分かってしまったと言いますか?高野君はあまり言いたくなかったみたいですけど...」
「まぁ、確かに麗奈の話ですとは言い出しにくかったのかも。...でも、花ちゃんには話すのね?きっと貴方がアリスの話を好きでいてくれたからかしら?」
「...!だと良いのですが」
「結ね、自分からは言わないの。だから私も言わないようにしてるんだけど...花ちゃんみたいにキラキラした目を向けられたら、これは麗奈の話なのよって言いたくなる時もあって。全部が本当な訳じゃないの、作られている部分もあるけれどあの物語を好きだと言って貰えて嬉しいわ」
「わ、私も!アリス先輩に出会えて良かったです!お話も本人にも!!」
「まぁ、ふふ」
♩ 〜♩〜♩〜
話していると時間はあっという間で、昼休みの終わりを知らせるチャイムが鳴る。
「あ、もう終わり?」
「そうみたいですね」
「あっという間だったわ。ねぇ花ちゃん!また話せない?」
「はい、是非っ!」
仲良くなった私達は連絡先を交換してそれぞれの教室へと向かった。
教室へ戻ると友達に話し掛けられた。
「花!全然戻ってこないし、どこ行ってたの?」
「あ、ごめん!つい長話しちゃって」
「他のクラスの子?...まさか男?!」
「あ〜、違う違う!ていうか、私には程遠い話だって分かってて言ったでしょ?」
「な〜んだ違ったか!」
こんな話が出来る位には仲良しな友達がクラスに居て良かった。
「てかさ!それ何?」
「え?」
それ、とは私が手に持つ飲み物を指しているのだろうか?
「それだよ!手に持ってる飲み物」
「何で?」
「何でって、花自分じゃ絶対買わないでしょ?」
「そうかな?たまに買う時、あるよ?」
「え〜無い無い!だって花、炭酸苦手じゃん!ボタン押し間違えたとか?」
「...ハハ、そう、かも」
「もう〜、ドジなんだから」
炭酸が苦手だった私は、一口も飲めなかった。
味じゃない...、炭酸の刺激が苦手なだけ。
あのシュワシュワが良いのだろうけど、喉が弱いのか痛く感じて微炭酸でもあまり口にしなかった。
だから、
蓋を開けたまま一口も飲まなかったこと、先輩は気づいていたかな?




