のりこと叔母(続)3の24
客商売になじんだせいか、少女には相手の機嫌を損ねることは口に出さない(出せない)習慣がついている。
せめてものこととして
「……おねえちゃんを、そんな当てのない旅に送り出すのは心配だな」
と言うのが精いっぱいだ。
しかし気の良い叔母は、姪のそんな気も知らずほがらかに
「当てがないわけでもないの。あのふたりが出入りしていたコミュニテイで、知っているところもある。それに、あたしはひとりじゃない……ねっ、エア?」
自分の肩の上に(小さくなって)浮かぶ空気の精霊を見た。
蘭子の正当な世話役たるエアリアルは、ひらひら羽根をゆらしながら
「うーん、目的があのふざけた男探しというのは不満だけどもね。百合子との約束だ。きみがよいと思うところまで付き合うさ」
過保護なところを見せる。
のりこはもちろん、番頭以下の従業員すべてが並んで見送る。
「さびしなりますわ、蘭子さま」
「そうですわ、お茶の時間の楽しみが減ってしまいます」
お美和とアンジェリカは、気を置かず話せる同性がいなくなることに気落ちしている。
いっぽう、クワクやユコバックら男性陣も
「それはもちろんわれら男衆とて、そうですぞ。蘭子さまという好敵手がおってこそ、われらの仕事ぶりも上がろうというもの。なにより、われらはみなあなたさまを好いております!」
クワクのことばに、蘭子はニッコリとして
「ありがとう。あたしもみなさんのことが大好きよ。のりこちゃんのことをお願いね」
「かしこまってござる!」
「ですわ!」
「……おねえちゃん、ほんとに行っちゃうの?せっかく会えたのに」
のりこはぐずった。出立の場でそんなことを口にするのは旅館のあるじとして失格だとわかっていたが、あえてこどもっぽくぐずった。涙が出てくる。
なにせ彼女は母が亡くなって以来、初めて会った気の合う親族だ。(父方の叔母・春代のことは、この際いったん忘れておこう)
正直、ほんとうの姉のように慕っている。そんな彼女がいなくなるのはとてもつらい。
蘭子は少女をぎゅっと抱きしめると
「あたしもつらいわ。あたしもあなたがひとりきりならば置いてはいけない。けど、あなたにはこんなにすばらしい仲間がいる。だから安心して置いていけるの。……番頭さん、どうぞおねがいね」
そのことばに、メッヒは慇懃に頭を下げ
「――旅館のためになるかぎり、あるじはわれらでお守りいたします。どうぞご心配なく」
なんだ、その言いぐさは?まったく。この番頭と来たらあるじに対する礼儀がなってない。
「ええ。なにも心配してない」
叔母は、ほがらかにわらうと
「じゃあのりこちゃん、あたしちょっと出かけてきます」
手をふった。
「はい、よいご旅行を!それと早くのお帰りを!ランコおねえちゃん!」
少女は愛する叔母を涙ながらに見送った。
「あやしの旅館へようこそ!」ここまで読んでいただきありがとうございました。
次回更新は、ちょっと先になる予定です。
それまでは他にアップする関連作品を読んでいただけるとうれしいです。




