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第5話 相合傘

 六月中旬。


 梅雨前線の北上により、雨の日が増えてきた。恵みの雨だから文句は言えない。この時期に雨が降らなければ真夏になって、やれ渇水だ。農作物の不作だと問題が発生するのだから。


 最近の雨の降り方は異常だと母は言う。母が子供の頃は、梅雨と言えばシトシトと長期間に渡り降り続けていたそうだ。

 私の記憶が確かなら(鉄人は出てきません)、梅雨に限らず夏に降る雨といえば、短い時間にバケツがひっくり返った様な豪雨という記憶しかない。

 地球温暖化の影響なのだろうか。私は学者さんではないから、良く分からないけど。


 昔の夕立ちの方が可愛げがある降り方だったと母は言った。貴女もいずれ朝勃ちが愛おしくなるわよ?とか、貴女の振り方が重要よ?とか真顔で言ったのはスルーした。私の何を振るのよ?


 どうでも良い事を考えながら今朝も学校に向かって歩く。今日は朝から晴れている。五月晴れだった。テレビニュースのお天気お姉さんも、今日は洗濯日和だと言っていた。一日中晴れの予報だった。


 それでも私は抜かり無い。鞄の中には折りたたみ傘を忍ばせている。鞄が少し重くなるけど、備えあれば憂いなし。

 転ばぬ先の杖。

 念には念を入れよ。

 石橋は叩いて、叩いて、叩きすぎて壊れて渡れなくなる性格なのだ。エヘン!

 ちなみに叩いていた手は当然、叩き過ぎで骨折していたりする。


 校門前で吉田さんと一緒になった。


「おはよう。佐伯さん。」

「おはよう。吉田さん。」


 一緒に校門を通過して生徒用玄関へと向かう。


「今日はいい天気ね。」

「ホント、昨日の土砂降りが嘘みたい。」

「確か、昨日も朝は降ってなかったわね。曇天とはしていたけど。」

「そうだったね。私、一応、折りたたみ傘は忍ばせてきたんだ。」

「佐伯さん。貴女、石橋を叩き割る性格でしょ?」

「なんでそう思うの?」

「なんとなく?」


 たわい無い話をしながら昇降口に入る。吉田さんが自分の下駄箱の扉を開けた。


バサバサバサ…


 大量の手紙が彼女の下駄箱から落ちた。流石、見た目大和撫子。

 最近、彼女の性格がわかってきたから、敢えて『見た目』と形容させてもらう事にしている。


「毎度毎度モテますねぇ。」

「ありがた迷惑でしかないのだけどね。」


 吉田さんはハァと溜息を吐く。

 知ってますよ、その溜息の理由。心に決めてる人がいるんでしょ?


 彼女が手紙を拾い集め終わるのを待ってから、自分の下駄箱を開ける。


バサバサバサ…


 大量の手紙が下駄箱から落ちた。


「佐伯さんも人の事は言えなくてよ?」

「私、何か言いましたっけ?」


 吉田さんがジト目で私を睨む。彼女と一緒に過ごす様になって二カ月以上。耐性が備わった私にジト目は効かない。

 自慢ではないけど、私も結構モテる方らしい。手紙をくれた人、全員知らないんだけどね。

 私が吉田さんが拾い終わるのを待ったのは、こうなるから。手紙が混じってしまうと後が大変。

 私は落ちた手紙を拾い集める。


「私、いつものコースで教室に行きます。」


 靴を履き替えた吉田さんはそう言って先に廊下を歩き出した。いつものコース…それは職員室でシュレッダーを借りて手紙を処分してから教室に来るコース。彼女は手紙を一切読まない。塩対応どころではないよね。


 私は集めた手紙を鞄に入れ、靴を履き替える。さて、この手紙達、どう処分しようかと考えながら教室に向かった。




 六時限目の授業が終わる頃に雲行きが怪しくなり、終業のホームルームの最中に雨が降り出した。

 お天気お姉さん。洗濯日和って言いませんでしたっけ?

 ま、私は折りたたみ傘を持ってきているので、問題はありませんが。


「雨が降り出したから気をつけて帰るように。傘が無い人は職員室で貸し出すけど、本数に限りがあるから早い者勝ちだぞ。」


 そう言って担任は教室を出て行った。


「楓。傘持ってるか?」


 久保田君が吉田さんに尋ねた。


「持ってるわよ。」

「入れてくれ。」

「嫌よ。紀夫と相合傘なんて。」


 え?久保田君と吉田さん、相合傘しても問題ないよね?普段から仲良いし。吉田さん、なんで嫌がるの?

 付き合えてない(・・・・・・・)からなのかな?


「佐伯さん。」

「ひ…ひゃい!」


 久保田君。考え事してる時に名前呼ばないで。びっくりして声が裏返っちゃったじゃない。


「傘持ってるよね?入れてくれない?」


 何故、私が傘を持ってるってわかってるの?


「い…いいわ…」

「ダメよ!」


 私が返事し終わる前に吉田さんが止めに入った。


「紀夫はこれを使いなさい。」


 吉田さんは自分の傘を久保田君に渡した。


「楓はどうするんだよ。」

「私?佐伯さんに入れてもらうわ。」


 え?私抜きで話が進んでませんか?


「お願いね、佐伯さん。」

「いいけど…」

「ありがと。」


 吉田さんと相合傘するのは決定事項となった。

 久保田君と相合傘できなくて残念な気分になってる私。なんでだろう。


 モヤモヤしたまま、吉田さんと昇降口まで移動する。

 先に教室を出た久保田君が、昇降口の軒先で女の子と話をしていた。あの子は三組の桜庭さん?三組の中では一番人気の女の子って聞いた事がある。


 久保田君が吉田さんの傘を広げた。手招きをして桜庭さんを左隣に入れ、校門に向かって歩き出した。

 久保田君は傘がなくて困っていた桜庭さんを放っておけなかったのね。優しいな、久保田君。桜庭さんも助かったって感じで、いい笑顔してる。桜庭さんの頬が赤いのは、良く分からないけど。



「私の傘を使って、なにフラグ立ててるの。そんな事させる為に傘渡したんじゃないのよ。紀夫の馬鹿。」


 吉田さんがブツブツ言ってるけど、小声でよく聞こえない。


 吉田さんがハァと溜息を吐いた。

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(`-ω-)y─ 〜oΟ

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