3-3.
夕食をとって、部屋に戻ってもアリスは帰ってこなかった。
念のため、アーサライルにアリスが外出した旨を伝え、寮長から帰宅の連絡が来ていないか確認してもらったが、それもないらしい。
おそらくはユリアンと一緒にいるのだろうが、それでも所在がつかめないのは少し心配だった。
なんとなく、窓辺に寄ってカーテンを開く。
屋敷の裏は寮と同じように学園を取り囲んだ林に面していた。
こつん、と窓ガラスに額をつけて、深呼吸する。
少し、これからのことを考えてみよう。
特別棟に幽閉されるなんて、当然ゲームにはないシナリオだ。
それでもゲーム通りすすむとしたら、アリスはこの先攻略対象のうちの一人を選んで、それに従って私カミリアの登場頻度も変化する。
ルートによって相手役かアリス自身かに違いはあるものの、命の危機に晒される重大なイベントが起こり、たしかそこでアリスは秘めた魔法の才能を開花させるのだ。
カミリアは最終的には、単独行動か、嫉妬に狂い悪役に回る他の攻略者の身代わりや協力相手として国を追い出されてしまう。
「命の危機、か……」
これまでの事件も、そう言ってしまえばその通りだ。
しかしもっと重大なイベントがアリスの身に起こるとして、それで私が追放処分にまで処される気が全くしない。
事実こうして身柄を押さえられてる今でも、アーサライルは平気で公平性をかなぐり捨てて処罰を与えるほど愚かな権力者ではないのだ。
彼がその公平性を失うとするなら、私にアリスを害すつもりが毛頭ない現状、たとえば私が本当にアリスを射止めてしまったときか。
しかしそれも──。
「親愛度って……どうやって高めれば良いのかしら」
選択肢。
選択肢をください。
今の私は巻き起こる事件にただ必死に対応するのに手一杯だ。
アリスが良い子だからこそ近づくことを許され、お話できるだけで舞い上がっているが、逆に彼女を喜ばすことが果たしてできているのかしら。
前世では好きな女の子ができてもアピールひとつできず、今世では高名な公爵家の令嬢としてただ清楚で聡明であるように振舞ってきた。
好きになる相手は現れなかったし、婚約者はあのクライスだし。
言ってみれば恋愛の初心者もいいとこなのだ。
アリスに偉そうに講釈を垂れている場合ではない。
「……花でも贈ってみようかしら」
思いつく案がつたないにも程がある。
そういえば寮の花壇の世話はだれかがしてくれただろうか……。
思案に暮れるうちにさらに時間が経っていることに気づいて、いよいよアリスが心配になってくる。
アーサライルやクラウスも既に知っていることだし、なにか手を打っているのだろうか。




