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2-5.

 

 裂傷音はアーサライルの放った魔法だった。

 ひときわ激しく、まさにいなづまのごとく迸った光の矢がひびの中心に突き刺さり、グラウンドを覆った膜は弾けるように一度大きくふくらんだかと思うと瞬く間に消え去った。

 その瞬間、それによく似た膜が私とギルベルトをそれぞれ包み込んだ。

 実況席を見ると、クラウスが空を掴むように握った両手を掲げている。

 バリアが壊れると同時に私たちにバリアを張ったのだ。

 小さなものとはいえ、もう使いこなせるなんて。

 アーサライルが間を空けず腕を払うと、新たな光の矢がいくつも生まれ、飛び立ったかと思うとたちどころにひとつ残らず鎧たちに突き立った。

 二人とも、なんという力だろう。

 感嘆すると同時に、緊張の解けた私は地面に膝をついてほっと息を吐いた。


 静まりかえったグラウンドへ、未だ観客席に残っていた数名の助手たちが飛び降りて駆けてくる。

 ノウスもその中にいて、彼は真っ先に怪我を負ったギルベルトを診はじめた。

 アリスもアーサライルに抱えられて降りてくる。

 着地すると、アーサライルはあとを追ってきたクラウスに彼女を託し、ギルベルトの元へ駆け寄った。

 ノウスと二言三言交わしてから、ギルベルトへなにか話しかけると、ノウスの背中越しにひらひらと手を振るギルベルトの手が見えた。

 無事そうだ。

 安心すると、どっと疲れが押し寄せてくる。


「カミリア様、ご無事ですか!?」


 嬉しいことにアリスは真っ先に私に駆け寄ってきてくれて、スカートが地面につくのも気にせず目の前に座り込んだ。


「アリス様、制服が汚れてしまいますわ。私はなんともありませんから」

「制服なんてどうでもいいんです!」


 アリスの目は涙でいっぱいだった。

 怖がらせてしまったなあ、と苦笑していると、いつの間にかアーサライルがすぐそばまで来ていた。

 お辞儀をしようと立ち上がろうとするが、予想以上の疲労でまたすぐにしゃがみこんでしまった。

 仕方なく、座ったまま頭を伏せる。

 頭を上げることを許されてアーサライルを見上げると、彼は不機嫌とも見えなくもない、なんとも微妙な表情でなぜかしばらく黙った後に口を開いた。


「ギルベルトを守ったことについては礼を言おう」

「……おそれ多いことにございます」

「鎧を操った術士については今、観客らに聞き取りを行っている。しかし鎧はバリアの内側にあり、客席にいた生徒らには難しいと思われる。よって──」


(そう来たか……)


 次にくる言葉を見越して、思わずげんなりする。


「鎧にかけられた魔法の調査が終わるまで、ギルベルトとウェステリア嬢両名は特別棟にて外部との接触を経った上で調査協力を命ずる」


 想像通りの命令だった。

 調査協力、と体のいい言葉を選んでいるが、おそらくは軟禁の上取り調べといったところだろう。

 一応はウェステリアも長い歴史のある貴族だ。

 万一無実だったときに失礼にあたらないよう、あくまで協力と謳い、親しいギルベルトも同様の処遇にすることで公平性を保つ。

 つくづく頭のまわる王太子に、一国民としてはまあ安心ね……なんてのんきなことを頭の隅で思った。

 だって家の名誉が傷つかないことが保証されてるんだったらわざわざ反論する気も起きないくらい、私は疲れてしまっている。

 もうなんでもいいからふかふかのベッドに連れて行ってください。


「そんなのだめです!」

「わあっ!?」


 強い調子の声がしたと思ったら、ぎゅう、と身体を締め付けられ、顔に柔らかいものが押し付けられた。

 というかこれはもしかして。


「カミリア様もギルベルト様も被害に合われたんですから、はやく寮に帰ってゆっくりお休みしないといけません!」


(や、やっぱり〜〜!!)


 私は、アーサライルに抗議するアリスちゃんによって抱きしめられていた。

 胸元に顔を押し付けるように抱き込まれたのだ、と気づいて思わず思考が停止する。

 その間にも、アリスとアーサライルの会話は続いていた。


「寮に戻ってしまえば、手がかりを秘匿されるおそれもあるのだ」

「秘匿って……アーサー様は、お二人を疑ってるんですか!?」

「いや……しかしな、アリス」

「それならっ、この闘技場を選んたアーサー様だって特別棟に入られるべきです!」


 彼女じゃなければ即引ったてられるんじゃないだろうか、その提案?

 誰かが息を呑む音がして、鎧の回収にまわっていた助手たちがあえて手は止めずにアーサライルの反応を伺う。

 当のアーサライルは不意をつかれたように驚いたあと、ぐっと気まずそうに押し黙ってしまった。

 そのうしろで、クラウスがあらぬ方向を見て肩を揺らしている。爆笑か。

 私はといえば、そんな彼らを観察しながら、頬にあたる柔らかさを意識しないように、そう、つとめて冷静に──アリスちゃん、小柄なのにこう、胸は意外と……いえっ、これは秘密にしておきましょう。


 しばらく考え込んだのちに、アーサライルは渋々といった調子で頷いた。


「それなら私も、調査を受けよう」

「それにわたしも行きます」


 アリスちゃんが間髪入れずに名乗りをあげる。

 自分のことは譲歩したアーサライルだが、それはだめだ、と慌てて却下しようとする。

 私もなんとか首をもたげて彼女をなだめようとするが、「アリスちゃんは──」と言いかけたところで再びぎゅうう、と強く抱きしめなおされてしまった。


「カミリア様は、女の子なんですよっ!」


(〜〜〜〜!)


 女性をひとり軟禁状態におこうなど言語道断、ということらしかった。

 一理あると感じたのか、それでも唸るアーサライルにクラウスが笑いを殺しきれないまま「まあまあ、彼女たちが不便しないよう僕も協力するからさ」と説得したので、結局私たち五人は揃って特別棟へ泊まることになった。


「カミリア様、わたしがお世話させていただきますね!──カミリア様?」


 アリスがやっと腕を緩めてこちらを覗き込もうとしたが、私は思いっきり俯いてそれを阻止した。


 だって、顔がとても熱い。


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