2-4.
ギルベルトは飛んでくる矢をいなしつつ、剣を振り上げて襲いかかってくる鎧を蹴り飛ばす。
ユーゲン家の名に違わず余裕の様子ではあるが、なぜ反撃しないのだろうかと考えたところで、私はハッとする。
(私を庇っているからだわ……)
私を背に庇っているために、襲いかかってくる鎧にしか攻撃できないでいるのだ。
斬りつけられた鎧はダメージによってはその場でどしゃ、と崩れ落ちて動かなくなるが、それでもまだ半分以上の鎧が私たちを取り囲もうとしている。
「っギルベルト様!加勢いたします!」
ギルベルトのうしろでしっかりと立ち直し、私は両手を掲げた。
足でまといにはなりたくないのだ。
円のかたちを想像しながら自分たちの前に空気の壁をつくり、その外側に渦巻く風の魔法を呼び起こす。
本来ならこの決闘をうまくやり過ごすため、万一ギルベルトに攻撃されたら身を守るために新たに考案した魔法。
魔法獣に撃ち放った風の球にヒントを得て考えたものだ。
正面から襲いかかってくる鎧や矢が、私たちの前に現れた大きな風の盾によって弾き飛ばされる。
ギルベルトが私を振り返った。
「こんな使える魔法知ってたのか!」
「今日お教えしようとご用意してきた魔法です!」
通常、一流の魔法使いが張るバリアはどの属性の攻撃も遮断する優れもので、全ての属性魔法をしっかりと学んだものにしか使いこなすことはできない。
そのため私たちはまず、それぞれの攻撃を風で吹き飛ばしたり、水で包み込んだりしてその威力を削ぐ方法を学ぶ。
しかしそれだとひとつずつの攻撃にしか対応できず、こうした場面では圧倒的に不利になってしまうのだ。
私は空気の球の中に風を集めた方法を応用して、盾を摸した円の外側に渦巻く風を滞留させることで、飛んでくる矢や襲いかかる鎧を弾くことに成功した。
「あんた、ほんとに魔法指導しようとしてたのかよ!?」
「貴方は本当に決闘しようと考えていらしたわね!?きゃっ──!」
私の背後から襲いかかってきた鎧を、ギルベルトがさっと前に出て斬り捨てる。
肩越しに振り返ってははっと笑った。
「おもしれえやつだなあ」
背中は任せた!と言ってギルベルトは盾がない方から襲いくる鎧たちの相手をし始める。
鎧に大した知性は備わっていないようで、何度吹き飛ばされても盾に向かってくる攻撃も絶えない。
こうしてる間にギルベルトがすべてやっつけてくれればいいけど……そう思ってふと観客席を見渡すと、避難指示があったのか場内に残っている生徒はもう残り少なくなっていた。
リチェの姿ももうない。
残った数人の助手たちが、なぜか何度もバリアに向かって攻撃をしかけているようだが、学園が誇る設備である透明な膜にはすこしひびがはいるだけだ。
(バリアが解除されないのかしら……?)
「あーーーっ!!!」
ギルベルトが大音量で叫ぶ。
びくっとして振り返ると、ギルベルトが少し離れたところにいる一体の鎧を指さしていた。
「俺のおまもり!!!」
見ると、鎧の手には見覚えの小さな巾着袋。
私は思わず、自分のポケットに手をやってアリスからもらったお守りがそこにあるのを確かめる。
無事だ。
(アリスちゃん……ギルベルトにも同じおまもり渡してたのね……)
優しい彼女のことだ。
納得はいくが、やはりちょっとがっかりしてしまう。
しょぼんと凹んだ私をよそに、ギルベルトからおまもりを奪った鎧はそれを見て首を傾げるような動きをしている。
ギルベルトが取りに行こうとするのを隙と見たのか、弓兵の矢が殺到した。
「くそーっアリスからもらったおまもりっ」
なんとか矢をかわしながら、ギルベルトはお守りを諦めきれずにいる。
気持ちはよくわかるし、このままだと無茶なことをしかねない。
私はギルベルトへ近寄って飛んでくる矢を半分受け持とうとした。
そのとき、おまもりを奪った鎧が、無用なものだと判断したのかおまもりを宙へ投げて剣を構えるのが見えた。
そんなっ!
「アリスちゃんのおまもりー!!!」
「あっおいっ!カミリア!?」
私は思わずその鎧に向かって走り出していた。
構えた手を下ろすと同時に盾が解除される。
おまもりを斬りつけようとしていた鎧に体当たりして、落ちてきたおまもりをキャッチする。
やった、と思い振り返ったのと、こちらに駆けてこようとするギルベルトが背後から斬りつけられるのは同時だった。
「ぐっ!」
「ギルベルト様!」
ギルベルトは体勢を崩しながらも応戦する。
倒れ込んだ鎧からあわてて剣を奪って不器用に構えた私のところへも、鎧が押し寄せてきた。
(だめ、やられる──!)
強く目を閉じて頭を抱えたそのとき、激しい裂傷音が頭上で響いた。




