2-3.
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「まずいな」
アーサライルはひとりごちた。
ただの飾りであるはずの鎧が勝手に動き出し、ギルベルトとカミリアに襲いかかっている。
いつものように魔法獣が数匹出てきたところで、ギルベルト一人でもなんとかなると考えてはいたが、今、彼らに襲いかかる鎧は想定の倍以上の数だ。
観客席とはバリアで隔てられているため、こちらに被害が及ぶことはないが、生徒たちは皆驚き慌てふためいている。
異変を察してすぐに席を離れていたクラウスが戻ってきて告げた。
「観客席の生徒たちは速やかに退場するよう、指示してきたよ。アーサー、バリアは──」
「……解除できなくなっている」
「そんなっ!」
悲鳴をあげたのはアリスだ。
アーサライルの腕にとびつくようにして、震える声で言う。
「このままじゃカミリア様とギルベルト様がっ」
「ギルベルトならたいていのことなら切り抜けられる」
「でも!」
不安そうに涙を浮かべたアリスを見て、アーサライルは途方にくれたような気持ちになった。
この娘はいつも、今までアーサライルが見ることのなかった感情を隠すことなく伝えてくる。
だれが次期国王の前で不安に駆られ、責めるように涙を浮かべるだろうか。
出会ってからこれまで、その純粋さが心地よく、目が離せないでいる。
しかしアリスの涙を見るのは、なぜか苦手だった。
片手を彼女の頬に添え目元を親指でそっと拭ってやる。
「心配するな、私たちがなんとかする」
アーサライルの代わりにいくつかの魔法陣が組み合わされたバリアの操作盤をさわっていたクラウスが、頭を振って身を起こした。
「妨害されてる。バリアは破壊するしかなさそうだね。どちらにしろ、客席に人がいるうちはむずかしい」
「まさかこんな大掛かりな魔法を仕掛けてくるとはな。術士は?」
「避難の誘導を任せてきた生徒たちには、安全な場所に着いてから聞き取りを行うよう言っておいた。アリス嬢、君もはやく──」
「わたしもここにいます!」
アリスが力強くそう言い切るとアーサライルが困り果てた表情になった。
クラウスは思わず笑い、二人を安心させるようにうんうんと頷くと、うってかわって真剣な表情でグラウンドに目を落とした。
ギルベルトに庇われながらも、カミリアが魔法を使おうと両手を掲げるところだった。
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