第十話 終焉 (2)
三体同時に有線でプログラムロードしないと、ケルベロスシステムが寝ないだって?
「なんというややこしいものを……」
「警備用アンドロイドが停まっていれば、対応可能ですが、現状では不可能です」
シエンの言うことも、もっともか……。せっかく最深部まで来たというのに。ラクーンさん達にこちらに合流してもらうか? しかしここまで来るのに2時間くらいかかるだろう。それではシエンのエネルギーがギリギリか? いやしかし、とりあえず向かってもらうことに意味は、あるか……。
「シエン、上と通信して、こっちに向かってもらってくれ」
「了解です。すぐにこちらに向かうそうです」
だがこのままでは間に合うかどうかわからない。何か策はないだろうか? 使えるカードはないのか? せめて盾になるようなものでも……。盾? そうか、鏡でもあればレーザー砲を反射できるかも。
「鏡! だれか鏡もってないですか?」
全員首を横に振った。そうそう都合よくいかないか……。
「だいたい鏡で反射ってベタなことは無理だぞ。そんなピンポイントでレーザー砲に反応できるわけがない」
ファインさんにつっこまれてしまった。それもそうか…。
「それもそうですね。なにかもっと広範囲で防げるものがないと………。んん? 反射? 反射、反射」
「ゲーニー? 何か思いついたのー?」
「何か……、今、思いつきそう……」
…………。
…………。
…………。
「レーザー砲ってようするに光の一種なんだよな。だから反射できるんだよな」
「だから鏡って言ったんだよねー?」
「物体に当たった光は反射、透過そして吸収のいずれかが起こるんだよな」
「そうだねー。レーザー砲だと吸収を利用した熱兵器になるわけだけどね」
「そこじゃなくて、反射だよ反射! 僕達ずっと、壁抜け装置って呼んでたけど、これ確率変動装置なんだよな」
「そうだよ。古典力学的物体を量子化して、その確率を変動させてるのー」
いとも簡単にやっているように聞こえるから恐ろしい……。
「それでトンネル効果を100パーセント起こすことで通り抜けるってはなしだったよな。その確率っていじれるの?」
「それは設定すればできるけど? そんなことしてどうするの?」
「トンネル効果をマイナス100パーセントにするのも?」
「マイナス? 確率は普通、0から100パーセントだよ?」
「ああ、でも透過の反対は反射だろう? だから反射率100パーセントってことなんだけど……。あと物質じゃなくて、周囲の空間、というか空気に干渉できないかな?」
「どういうことー?」
「古典力学的な物質を量子化して確率変動できるんだよな? 固体に限らず、気体だって可能なはずだよな?」
「原理的にはねー。どうすればいいの?」
「周囲の空間の電磁波の反射確率を100パーセントにすれば、レーザーも反射できるんじゃないのかと思ったんだけど……」
「バリアー的なもの?」
「そういうこと!」
「どうだろー? やってみようか。あでも、エネルギーがもう残り少ないよ」
「じゃあ、干渉範囲を極薄にしてみたらいいんじゃないのかな。反射できればいいんだし」
「うん。やってみよう。ちょっとまっててね」
そういうと、シュリヒトは装置をいじりだした。なにかブツブツと言っている。こういうときの集中力は絶対にかなわないんだよなぁ。
「ファインさん、話は聞いてましたね? たぶんこいつでなんとか警備用アンドロイドをかいくぐってケルベロスに有線できるかもしれません」
「うーん。面白い子だな。二人とも、とっととうちに勧誘しとくんだった……」
…………。
…………。
…………。
「ゲーニー、設定できたっぽいよー」
あ……。
そんなにあっさりと……。
もう出来ちゃったのか……。
まあいいか。これでケルベロスシステムに近づける!
警備用アンドロイドはそれほど移動速度は速くないみたいだし、三人くらいなら、このバリアに守られた状態で移動できる。
自分とシュリヒト、それにシエンの3人でケルベロス本体まで近づく。警備用アンドロイドは容赦なくレーザー砲を打ちまくってくる。弾幕が厚すぎるよ!
なんとかシエンが有線できた。
「オルペウスプログラムのロードを開始します。3体同時に転送します!」
「転送終了まで残り100、90……、60」
「よし、なんとかなりそうだ」
「ゲーニーまずいよー。もう確率変動装置のエネルギーが切れちゃうよ」
これまで頼りっきりだったからな。でも仕方ないじゃすまないぞ!
「データのロードが終わるまで、耐えてください。」
「耐えるって……。盾があるわけじゃなんだぞ」
「あと一発防げるかどうかかもー」
「なんでもっと早く言わないんだ! あと一発って!」
「だってー、しょうがないじゃない……」
「まずい、次がくる!」
完全に照準がこちらに向いた状態で警備用アンドロイドの動きが停まった。レーザー砲のエネルギー切れか? 結構連射してくれたからな。
急いで背中の停止スイッチを押す。これで一安心か……。
「データのロード完了しました。オルペウスプログラム起動。ケルベロス本体は三体とも休止しました」
さすがはケルベロスシステムの製作者、ファインさんが作ったバックドアプログラムか?
「続いてエキドナシステムを組み込みます」
「セキュリティが眠っている間にロードしてしまえば、こっちのものだ」
「ロード完了まで100、90……」
「まあ、ゆっくりでも全然なんとかなりそうかな」
「エキドナシステムのロードが完了しました。これよりシステムの再起動を行います」
「よし、これでゲートのシステムは元に戻った。ってことですよねファインさん」
「……」
「ファインさん?」
「ああ、協力ありがとう。これでゲートは全て停止できた」
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