第九話 対決 (4)
地下32階、あと一階したに下ればシステム室だ。もう少し……
「適当に泳がせてておいて正解だったぜ、まさか最深部の入口まで連れてきてくれるなんてな」
う、なんて悪役なセリフ……。まさかアウトサイドピープルにつけられていた? 紺色の服を来た男が銃口を向けて近づいてくる。お付きのものだろうか? あと4人も全身紺色だ。
「久しぶりだな。ファイン博士。と言っても一方的にこっちが知っているだけだがな」
「お前は……。リュグナー博士か」
銃を持っている男がどうやらリーダー格のようだ。顔の造形がマシンっぽい。男はどうやら全身マシンのようだ。事故にでもあったんだろうか?
「ほう、俺のことをご存知だとはさすがは天才科学者様か?」
「ファインさん、この人を知っているんですか?」
「ああ、軌道エレベータの構造設計とかを担当してたリュグナー博士だ。まさかアウトサイドピープルにに入っていたとはな」
「入っていた? ちょっとちがうな。これは俺が作った組織だからな……。
ゲートさえなければ、俺は軌道エレベータの開発者として富と名声を手に入れるはずだったんだ。それが、横から出てきたゲートによって、開発は立ち消え……。多大なる不利益を被ったわけだ」
「そんなしょーもない理由がこの騒動を起こした原因なのか? がっかりしたな。もっと面白い理由かと思っていたが」
「簡単だったぜ。発展途上地域に住む人間とか、他にもゲート社によって仕事を奪われた人間とかそういうやつらの不幸に憎しみって名前を付けてやるだけでよかったからな」
「そういうやつがなるべく出ないように作ったのがゲート社だったんだけどな。乗っ取られてからは私にもアンコントローラブルだったからな」
「ふん、なんとでも言える。おい、そこのお前。トロッコ問題を知っているか?」
「トロッコってなんですかー?」
トロッコ問題では今時の人間はピンとこないだろう。さすが現代っ子シュリヒト。だいたいトロッコどころか列車もないのだから……。僕も書籍で見たことがあるだけだ。
「そもそもトロッコから説明しなければいけないのか? 面倒だな。簡単に言えば、多数の人間を助けるために少数の人間を犠牲にするのは正しいことかどうかって話だ。確かに多数の人間の関係者からは感謝されるだろうが、犠牲になった者の関係者はどうだ?」
「そんな前時代から答えの出てない問題を持ち出すなよ。お前のはただの逆恨みだろう?」
「よくそんなことが言えるな。ポブレの現状を知らないとでもいうのか? お前がポブレに追いやったせいで死んでいった者たちや、戦闘に巻き込まれた者、テロにあった者、そういう犠牲者が実際にいるんだぜ?」
「話をすり替えるなよ。確かにゲートができたせいで実害を被った人々がいることは認めよう。だが、お前の軌道エレベータだったらどうなんだ? あんな大それたもの世界中に何本も建てられない。それこをもっと戦々恐々とした世の中になっていたかもしれないだろう?」
「おっとこれは御高名な解釈だな。自分の技術の方が優れていると言いたいのか?」
「どっちの技術が優れているなんて話はしていない。ただ結果的に私が作った技術が社会に受け入れられただけの話だ」
「結果的にお前が分岐点のスイッチを押したことに変わりはない」
「その覚悟はあったさ。だが、科学の発展とはそういうものだ。この技術がなかったとしても分岐点はいくつも存在している。このまま水掛け論を展開しても無駄ってものだ」
「フンまあいい、どのみち、お前の作ったゲートは俺たちが無効化させてもらうからな。さあ、このドアも開けてもらおうか……」
こいつらこのドアも僕達に開けさせようとしているのか。最深部のドアはなにをしてもびくともしないはずだけど。
「このドアは開けられないな。お前たちアウトサイドピープルがここにいるならなおのことだ。さて、そろそろ地下に潜って何時間になる? マシンの身体の活動限界って知ってるかい?」
「何のことだ? 広域送電システムによって活動限界何て昔の話だろ」
「そう、昔の話なんだけど、この施設、昔に作ったものなんだよな。地下には送電システムなんてないんだよな」
「なん……だと……」
『エネルギー危険域に達しました。生命維持モードに入ります』
「もしかしてファインさん、これを狙って……」
「ああ、適当に会話を引き延ばしてた。他のアウトサイドの奴らもマシン派だったようだな。全員ここでおねんねだ。まあ、生命維持モードなら2、3日は余裕だろうしな。
後でちゃんと助けてやるさ。もちろんこの事件の犯人として手錠をかけてもらった後でな」
アウトサイドピープルの5人はその場で動けなくなってしまった。そういえばシエンは大丈夫なのか? シエンが動かなくなるのはかなりまずい。システムへのインタフェースを今失うわけにはいかないし……。
そういってシエンを見つめると……
「私は最新のエネルギー高効率システムを使用しているので、まだ活動可能です。ですが、持ってあと2時間程度かと推測されます」
「もともとここはマシン派の奴らが入る予定はなかったんでね。昔のままの設計が役に立つこともあるもんだ。でもまあ、奴が言っていたことも事実っちゃあ事実なんだよな」
「お前は昔っから気にしーやな。もっと楽天的に考えーや。だいたいゲート技術のおかげでどれだけの命が救われているか……」
「お前はいつも楽天的すぎるんだよ。ゲートができた時だっていきなり通るやつがあるか。一歩間違えば死んでたんだぞ。余剰次元の中に取り込まれたまま出てこれなかったかもしれないのに……」
「じいちゃん達、そのくらいにして……
先に進もう」
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