1:遠い世界に生きる人
「フェルナンド様っ。再来月わたくしの誕生日パーティーを催す予定ですの。ご予定が合うようなら、是非いらしていただきたいですわ」
「お誘い感謝致します、レディ。招待状が届きましたら、秘書とスケジュールを相談してみましょう」
「フェルナンド様、父がまたタウンハウスへご招待したいと申しておりましてっ」
「それは光栄ですね。前回の情報交換は実に有意義な時間でしたから。お父様にどうぞよろしくお伝えください」
「あのっ、フェルナンド様は歌劇場の新しい演目をもうご覧になりまして? よろしければ今度……」
ひとりの貴公子を取り囲む、多数のご令嬢方。
気合の入ったパーティードレスやその身を飾る装飾品が目にも眩しい。彼を射止めようとするその熱量は時と膨れ上がり、見ているこちらが息苦しくなる程である。
けれど囲まれている当の貴公子は、疲れた様子など微塵も見せなかった。
ゆるくウェーブのかかったハニーブロンドの髪に、紺碧の双眸。すらりとしたバランスのよいスタイルと甘い顔立ちは、彼の資産や身分を差し置いても女性から熱い視線を向けられるだろうに、それを与えた神様は彼のことをよっぽど愛していると思われた。聞くところによると、性格まで明るく朗らかな紛うことなき好青年らしい。
実際こうして観察していても、彼の振る舞いには文句のつけようがなかった。入れ替わり立ち替わり近寄ってくるご令嬢方を、微塵も揺らがぬ爽やかな笑みで捌き続けるあの技量。並大抵のものではない。
「エイリーンも声をかけに行くかい?」
感心して見入っていると、横から声をかけられた。
「まさか。研究施設の開設にお力添えいただいく件もあって、一度ご挨拶したかったのは確かだけれど、あの様子を見ると到底無理ね。お父様だって、あの集団の中には入っていけないでしょ?」
「そうだねぇ。お嬢さん方に恨まれてしまいそうだ」
のほほんと言う父と一緒に、なんとなく華やかな一角を眺め続ける。
「あのカーディス伯爵家の次男で才気あふれる美貌の貴公子ともなれば、皆があれだけ必死に縁を繋ごうとするのも当然かも。私にとっては遠い世界に生きる人って感じだけど」
産業技術が発達するとともに、貴族の在り方にも変化が訪れた。
その変化に対応できなかった貴族は困窮し、逆にうまくその波に乗ることのできた貴族は爆発的に富を増やした。カーディス伯爵家はまさに後者で、他国から輸入した鉄道技術をさらに改良し、自領を手始めにこの国全域に鉄道を張り巡らせ巨額の富を築いたのだ。
今や人や物の移動は、カーディス家の手のひらの上と言っても過言ではない。さらには鉄道を手始めにさまざまな事業へも手を伸ばし、多くを並以上の成功へと導いていた。
そんな時代の最先端をいくカーディス家とは対照的に、時代遅れと言われる伝統薬事業に力を入れるのが我がミドレ家である。
華やかな集団から自分のドレスへと目を移し、ひっそりとため息をついた。
着古されたそれはシンプルで時代に左右されにくいと言えば聞こえはいいが、つまりは流行には乗れていない。流行りのドレスを買う余裕はありませんと、宣伝しながら歩いているようなものだ。
つまるところミドレ家は、困窮までとはいかないものの胸を張って「貧乏です!」と言える経済状況ということで、あの集団に参戦しても勝ち目なんてまったくなかった。
ぼんやり遠くから眺めるだけで、相手はこちらを認識さえしていない。
それが私エイリーン・ミドレと、フェルナンド・カーディスの関係だった。
そのはず、だった。




