6話 当たり前の時間
朝。
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火は消えている。
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冷たい空気。
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トールは目を開ける。
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(……朝か)
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体を起こす。
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軽い。
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昨日より、明らかに。
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立ち上がる。
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バラガン「起きたか」
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トールは頷く。
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バラガンはすでに動いている。
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薪を割り、水を汲む。
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火の準備。
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無駄がない。
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トールも動く。
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薪を運ぶ。
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火をつける。
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言葉はない。
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だが——
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流れは同じ。
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■ 水
川。
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トールは水を飲む。
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冷たい。
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「……うまい」
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バラガンが言う。
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バラガン「腹は減ってるか」
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トール「……減ってる」
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バラガンは立ち上がる。
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バラガン「なら行くぞ」
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それだけ。
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トールは自然に後ろに付く。
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■ 狩り
森。
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牙獣。
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トールが前に出る。
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糸。
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絡む。
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止める。
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踏み込む。
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ナイフ。
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ズンッ。
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終わり。
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(……簡単だ)
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振り返る。
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バラガンが頷く。
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バラガン「いい」
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■ 解体
血を抜く。
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関節から外す。
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肉を分ける。
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バラガン「刃を立てるな」
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トールは力を抜く。
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滑らかに動く。
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バラガン「そうだ」
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■ 調理
火。
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肉。
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バラガン「そこじゃ強い」
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ずらす。
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焼く。
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バラガン「まだだ」
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待つ。
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バラガン「今だ」
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返す。
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食べる。
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「……うまい」
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(……違う)
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いつもより。
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柔らかい。
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深い。
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バラガン「いいな」
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トールの胸が動く。
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■ 繰り返し
同じ朝。
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同じ流れ。
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水。
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狩り。
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解体。
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調理。
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食事。
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火。
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それが続く。
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一日。
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二日。
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三日。
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(……当たり前だ)
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体が覚える。
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手が覚える。
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考えなくても動く。
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やがて——
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それは“日常”になる。
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■ 2週間
同じ時間が続く。
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狩る。
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食う。
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強くなる。
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繰り返す。
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トールは動く。
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迷いはない。
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バラガンも同じ。
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言葉は少ない。
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だが——
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十分だった。
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■ 夜
火が揺れる。
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トールは肉を食べる。
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「……うまい」
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バラガンがわずかに笑う。
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バラガン「そうか」
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それだけ。
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それでいい。
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トールは火を見る。
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(……いい)
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この時間。
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この場所。
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この流れ。
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それが——
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“当たり前”になっていた。
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■ 違和感
その夜。
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火が揺れている。
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トールは肉を食べる。
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「……うまい」
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自然に出る。
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バラガンも食べる。
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何も言わない。
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静かだ。
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いつもと同じ。
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同じはずなのに——
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(……なんだ)
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少しだけ。
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違和感。
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風が弱い。
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音が少ない。
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それだけ。
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それだけなのに——
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(……まあ、いいか)
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トールは肉を食べ終える。
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体が温かい。
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眠気がくる。
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トール「……寝る」
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バラガンは小さく頷く。
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バラガン「ああ」
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短く。
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トールは横になる。
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火の近く。
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目を閉じる。
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(……明日も)
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同じだ。
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狩って。
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食って。
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強くなる。
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それでいい。
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意識が落ちていく。
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すぐに——
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眠りに落ちた。
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静寂。
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火だけが揺れている。
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バラガンは動かない。
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座ったまま。
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森の奥を見る。
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その目が——
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変わる。
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鋭く。
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深く。
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そして——
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わずかに、息を吐く。
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(……来たか)
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誰にも聞こえない声。
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立ち上がる。
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音を立てない。
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トールを見る。
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小さな体。
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眠っている。
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無防備に。
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バラガンは少しだけ目を細める。
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(……巻き込ませない)
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短い決意。
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迷いはない。
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再び森を見る。
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空気が違う。
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風の流れ。
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匂い。
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気配。
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全てが——
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“敵”を示している。
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バラガンは静かに立つ。
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火を少し弱める。
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気づかれないように。
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ゆっくりと。
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トールを起こさないように。
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そのまま——
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森の奥へ、視線を戻す。
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動かない。
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ただ、待つ。
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その目は——
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覚悟を決めた者のものだった。
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“当たり前の時間”は、
静かに終わろうとしていた。




