第22話 司教マルクスの加護
前回のあらすじ
ポーラ地区・シャルシャワ街を訪れたのだが、街は既に魔物によって滅ぼされ人の死体が転がり死臭を漂わせていた。
エラブも死んでおり、ハーブ園も大半が枯れていたものの、あばき草を手にすることはできた。エラブが書いていた日記から、目指していたアテン地区も魔物の手に落ちてしまったようだ。
レスト街に残るもう1匹の魔物を倒したのちブルチョア地区を目指す。
※※※※※※
朝を迎えると1階から大きな声が聞こえてくる。
「ふぁー...でけぇ声出してどうしたんだ?」
「薬ができたのかしらって...ノストラダムスさん一睡もせずに作ってたんじゃないの!?」
1階にいるマドレーヌが大きな声を上げながら、バタバタと勢いよく階段を駆け上がってくる。
「完成しましたよー!これで人間に化けている新成獣を討てますー。早く準備してください!!」
「急かすなよ!」
シエルたちはマドレーヌに急かされるように部屋を出て、ノストラダムスが待つ部屋へ向かった。
「完成したのぞい。芳香爆弾じゃ。これを空に向かって爆発させ街全体に香りをばらまくのじゃ!」
「その匂いで新成獣が姿を現すのね!」
「実際には新成獣には戻りはせん。戻っては困るじゃろ?苦しんだ人間が新成獣じゃ」
「それって人間の姿のまま殺すってこと?」
「そういうことじゃな」
ノストラダムスの一言は強烈であった。
魔物っていっても人間の姿で殺すことに躊躇するのが当然だ。この過酷な任務を誰がするのか?
皆は顔を見合わせる。
牽制するように目を見ては逸らす。
そしてシエルが声を上げる。
「俺がやるよ。ルミやアレスにさせるわけにはいかない」
「こんな大役を任せてしまい申し訳ないですー」
「いいよ。誰かがやらなきゃいけない。ならなきゃ誰かが傷つく。その前に殺さないとな」
シエルたちは街の広場へ向かって準備を始めた。ノストラダムスが何をしようとしているのか、街の人たちは興味を示すようにゾロゾロと集まりだした。
「先生何してんだ?」
「おもしろいものでも見せてくれるの?」
「花火というものじゃ」
ノストラダムスは筒の中に芳香爆弾を入れて空へ向けて放った。芳香爆弾は空高く上がり、爆発を起こすと街中にいい香りが漂う。
「すごーい!先生、いい匂いがしますよ」
街の人々はいい香りにテンションが上がる。
だが——。
ある人物には悶え苦しむほどの激臭がするのだ。
「いやぁぁぁ...苦しい...何をこの匂いは...」
「おい!どうしたんだ!?」
別の場所で騒ぎが起きる。その騒ぎを聞いてシエルたちは急いで向かった。
「オルトロさん!どうしたの?」
「やめて...この匂いは...」
「匂いって...いい香りじゃない」
「そいつから離れろ!」
シエルが大きな声で叫ぶ。
「誰?」
「そいつは新成獣だ!この街の襲っていたもう1匹だ!」
「新成獣ってどう見ても人間じゃないの!?」
「いいや、その女性は新成獣じゃ」
「先生まで...」
「この芳香には魔物が嫌う匂いを混ぜてある。それに反応してるのが証拠じゃ」
「そんな...オルトロさんが」
「クッソ...爺め...やってくれやがったな」
オルトロが本性を現した。
姿さえ変えれないもの目からは殺意が満ちている。
「新月さえ来れば…お前たちなど!」
「お前は一体何処でその力を手に入れた?」
「答えるものか。しかしこの地にも多くの流血はあった。私の役目もここで終わりでいいわ」
「言えないということは魔神が関わっているのか?」
「さぁね。自分たちで謎を解明するのね。その前にお前たちは死ぬことは間違いないわ!救世教の名の下に!」
意味のわからないことを並べるオルトロをシエルは躊躇なく斬り捨てた。
こうしてレスト街を襲い続けていた新成獣は死んだ。
※※※※※※
ノストラダムスからの依頼を全て終えブルチョア地区に向かうための準備をしていた時、街にボロボロの服装をした爺さんが現れたことで騒然としていた。
「次は何だ!?」
「なんかお爺さんが来たみたいだよ」
「しかもボロボロの服装でよ!ただ事じゃないわ」
「行ってみようぜ」
シエルたちは駆けつけ老人に問う。
「おい!何があったんだ?」
「我々に力を貸してくださらぬか?」
「おいおい…何なんだよこの爺さんは?」
老人はそのまま気を失って倒れた。
「気を失ったみたいね。どうするの?」
「とりあえず、ここでほっておくワケにもいきませんね。ノストラダムスに見てもらいましょうか」
気を失った老人をノストラダムスに診てもらうことにした。
老人を見てノストラダムスは驚く。
「この方は精霊教会・風の本部の司教様じゃ!」
「誰だよ!?」
「司教様は風の本部で1番偉い方ですー」
「その偉い人がここに来て、助けを求めに来たって...」
老人が目を覚ます。周囲を見渡してから記憶がないような台詞は吐いた。
「…おぉ…ここはどこなのじゃ…」
「意識が戻ったのか?」
「…私は生きてるのか…そして救いの手を差し伸べられている…」
「司教様。お体の方は大丈夫でしょうか?」
「おぉ...そなたらがワシを助けてくれたのか?」
「助けたっていうか爺さんが倒れたから運んだだけで、特に何もしてねぇよ」
「あのどうしてそんなボロボロの格好なんですか?」
「説明の前に自己紹介せねばなりますまい。ワシは精霊教司教・風の精霊様を担当する名をマルクスと申す」
老人は自分の事をそう紹介した。ボロボロになった服には大きな紋章が縫われている。おそらくこの紋章は精霊教のものだろう。
マルクスは細身で痩けた頬をし、お世辞にも立派とはいえない伸びきった髭は汚れていた。司教という大層な職に就いてる感じはしない。どうみても浮浪者である。
「ワシは助けを求めてやって来たんじゃ」
「助け?」
「そうじゃ!ヴァン様が危ないのじゃ!」
「危ないってどういうことですか?」
「我々は今ブルチョア地区の野営拠点で魔物と交戦を続けておるのじゃ。街に被害を出すわけにはいかぬ。これ以上は後退してはヴァン様も街も危険なのじゃ」
「それでこの街まで助けを求めに来たってわけか」
「街の皆も手助けはしてくれてはおるが、食料も底を尽きる...戦える者も少ないのじゃ」
「なら急ごうぜ、爺さん!俺たちが手助けしてやるから!」
「お主らのような若造を巻き込むわけにはいかぬ!」
「大丈夫だ!俺たちは光の加護者なんだ。風の精霊にも会わないといけないんだ」
「何じゃと!?本当に光の加護者なのか!?ではヴァン様がお探しになっていた人物とは...」
どうやらヴァンもシエルたちを探していたようだ。
「では早速来てくだされ!」
「マドレーヌも連れてていってくだされ!疲弊した兵士の役に立てると思うのじゃ」
思いがけない出会いによって、風の精霊ヴァンのいる場所まで連れて行ってくれることになった。
だが、ブルチョア地区では魔物との長い交戦を続けているようだ。危険な場所へと足を入れることとなる。
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