プロローグ
初投稿です。
魔法より人間の道具が好きな、少し変わった魔法使いのお話です。
よろしくお願いします。
「……マナト。それ、本当に全部持っていくつもり?」
「え? 何か変かな?」
母さんの声に、俺は床いっぱいに広げた宝物を見回した。
で、結論は変わらないな。
「全部必要だよ」
床に並べたのは、懐中電灯、古い携帯電話、小型ラジオ、乾電池、ドライバー。それから壊れかけの腕時計やシャープペンシル。
どれも人間が作ったものだ。
「これ、全部学校に持っていくの? 何の学校に行くつもり?」
「何の学校ってそりゃあ、」
俺ははっきりと答えた。
「魔法学校でしょ?」
「ええ。そうよ。国内に三校しかない魔法学院、その中でも御霊代に入るのよ?」
「うん」
「魔法を学びに行くのよね?」
「……うん」
「それで、そのガラクタは何?」
「だって魔法学校だよ? 全員が魔法を使う場所で、魔法を使わない道具を試せるんだよ?」
「それの何が嬉しいの?」
「比較できるじゃん」
「何を?」
「全部」
「全部……?」
母さんが額を押さえた。
「その理屈、お母さんには全然分からないわ」
え? どうして?
何せ、今日から俺が入学するのは魔法使いを育てるための学校。つまり周囲は魔法だらけになるんだ。
火をつけるなら火魔法。
暗闇を照らすなら光魔法。
遠くに声を届けるなら通信魔法。
重いものを運ぶなら浮遊魔法。
便利だ。確かに便利だ。
でも……。
「懐中電灯なら、魔力使わなくても光るんだよ?」
ほら、スイッチ一つで光った。
「ちょ、ちょっと! こっちに光向けないで!」
「ああ、ごめん」
そういえば懐中電灯って人に向けたらいけないんだっけ。
スイッチを切って、じゃあこっち。
「ほら。ライターなら魔法使わなくても火が出せるんだよ!」
すごいよな! しかもこうやって、燃料が続く限りずっと火が出ているんだぜ!
それなのに、母さんは完全に無表情だ。
「……知ってるわよ」
「え、何その反応? すごくない?」
「もう百回くらい聞いたわ」
母さんは言うや否や、俺の鞄に手を伸ばす。あっという間に、乾電池を二本取り出していた。
「あっ」
「これだって、こんなにいらないでしょう」
「いるよ!」
「何に使うの」
「そりゃあまだ分からないけどさあ」
「じゃあいらないじゃない」
「だからこそ必要なんだって!」
「その考え方で物を増やし続けた結果が、このゴミ屋敷でしょう」
ビシッという効果音が響きそうなほど、母さんは俺の部屋を指差した。
そんなにおかしな部屋かなあ。俺の部屋……まあ、人間の道具をぎっしり詰め込み過ぎて、若干倉庫みたいになっていることは認める。
空き缶、壊れたゲーム機、カセットテープ、小さなネジ、漫画雑誌等々。
意味は分からないけど格好いい外国語が印刷された食品の箱。
もちろん全部宝物だ。一つ一つ、結界の外――俺たちが「表」と呼んでいる人間の街へ出て、かき集めてきたものだ。当然それぞれに手に入れた時の思い出が詰まっている。
本当は全部持っていきたいけど、荷物の都合で泣く泣くお留守番になってしまった我が友たち。
「でも、ちゃんと片付いてるだろ?」
「床が見えれば片付いてると思ってるの?」
「違うの?」
「違います」
そんな……! そんな新事実、十五年間生きてきて初めて知ったよ。
固まっていると、母さんが呆れたように言い足した。
「それで、いつまでそうしているつもり? 遅刻するわよ」
「あ、ああ。そうだった」
忘れていた。
人間製のリュックサックを背負う。中に入っている宝物たちがしっかりと肩に重みとして圧しかかってくる。
うん、やっぱりこっちの方がいいな。魔法は鞄の容量を大きく増やしたり、軽量化したりできるけど、俺は今の物理的な感覚がある方が好きだ。
「よし。……後は」
準備完了。……最後は。
机の一番下の引き出しへ手をかける。
ここだけは、他の場所とは違って物が少ない。
ここにあるのは、一本のボールペンだけだ。当然これも人間製。
青い軸はところどころ傷つき、透明な部分の奥にあるインクは、とっくに空。ボディだってあちこち傷だらけで、綺麗な状態とはとても言えない。
しばらく目を落としていたけど、俺はペンに触れることなく、引き出しを閉じる。
これは駄目だ。
学校に持っていって万一失くしたら、多分三日は立ち直れない。
「マナト?」
「今行く!」
本当に時間が無くなってきたな。
部屋を出て、そのまま階段を駆け下りる。
「それじゃあ、俺もう行ってくる!」
「気を付けなさいよ。他の人たちにも迷惑かけちゃだめよ」
「何だよ、かけないよ」
そうして、俺は歩き出す。
家を出ると、山と森に囲まれた魔法使いの居住区が広がっていた。俺たちにとってはごく普通の住宅地だけど、結界の外から見ればただの山林にしか見えないらしい。
そんな、ごく普通の魔法使いの一般家庭を、俺は出た。
「マナト! 待ちなさい!」
今度は何だよ。
「何だよ、遅刻しそうなんだから止めな……」
「そうじゃない! 忘れ物よ! 忘れ物!」
血相変えて走ってきた母さんは、それを取り出した。
魔法学校……いや、魔法使いとして命の次に大事なもの。
細くて長い、クヌギの木でできたそれは。
「杖を忘れる魔法使いがいますかっ!」
「いや、これがあるから大丈夫で……」
「あなたは魔法使いでしょうがっ!」
これが、俺の御霊代魔法学院一日目が始まる、ちょっと前の出来事だった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
人間の道具を宝物扱いするマナトですが、これから入るのはちゃんと魔法学校です。




