第一章 王を喰う
魔物の骨を人体に移植し、異能の兵を作る世界。
骨には屑・兵・牙・将・王・災の六つの格があり、強い骨ほど大きな力を得られる一方で、拒絶反応や異形化の危険も跳ね上がる。
国家は罪人や貧民を処刑兵として使い潰し、魔物との戦いに投げ込んでいた。
雪ではなかった。
谷の斜面に積もっている白は、全部、骨だった。
獣の肋。人の腕。何年も前に折れて乾いた脛。砕けた頭蓋の欠片。
踏むたび、ざり、と軽い音がした。土より軽い。肉が抜けて、白さだけ残った音だった。
レグは列の最後尾で、その音を聞いていた。
前を歩く処刑兵たちの背中は広くも頼もしくもなく、ただ重かった。
骨を入れられた人間の歩き方は、だいたい二種類に分かれる。
馴染んだふりをしているやつと、もう馴染まないのを諦めているやつだ。
この隊にいる連中の大半は後者だった。
「止まれ」
前から声が飛ぶ。
列が止まる。
真ん中にいた監骨官ロアが、革袋から黒い針を取り出した。人差し指ほどの長さ。艶のない鉄色。先だけ白い。
骨鳴針。
魔物の格も、骨の濃さも、近ければこれでわかる。
ロアはしゃがみ込み、針を地面へ立てた。
細い針先が、ぶるりと震える。
屑。
兵。
牙。
小さく跳ねて、将で止まるかと思った。
だが止まらない。
針がさらに震え、甲高い音を立てた。
王。
隊の空気が、一段沈んだ。
誰も口には出さなかったが、その場にいた全員が同じことを思った。
聞いていた話と違う。
ロアは眉一つ動かさなかった。
「進め。反応は前方」
「王級を三百で進めってか」
吐き捨てたのはドグだった。
大盾を背負った巨体が、顎を鳴らす。ぎち、ぎち、と歯ではない音がした。下顎に埋められた鉄顎骨が、苛立つたび勝手に擦れる。
ロアは振り返りもしない。
「命令だ。処刑兵に選択肢はない」
「便利な言葉だな」
ドグが笑う。
笑った拍子に、顎の端から白い欠片がひとつ落ちた。増殖した小骨だった。
列の先頭で、隊長ガロウが振り返った。
「黙れ、進むぞ」
低い声だった。
怒鳴っていないのに、皆が従う。
その声には、処刑兵には珍しく、人を人として数える重さがあった。




