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【書籍化&コミカライズ】双子の妹に殺された姉、二度目の人生は初恋のイケおじ王弟にフルベットします!  作者: 黒猫ている
5章:激動の時代

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91:王弟は潜入する

「おいお前、こんなところに居たのか」


荒々しい声と共に近付いてきたのは、みすぼらしい衣服を纏った大柄な男だった。

薄汚れた肌にボサボサ髪、伸び放題の髭。

一目見ただけでスラム街の住人と分かる風体だ。


「あ? なんですか、旦那方。こいつに何か用で?」

「あ、あぁ……」


男が近付いてくるにつれて、兵士達が後退る。

周囲には、酒気と体臭の混じり合った、鼻を突くような臭いが漂っていた。


「すいやせんねぇ、こいつぁ口が利けねぇんですわ。でもまぁ、この通り図体はでかいってんで、雑用をやらしてんですけどね。こいつが、なんかしでかしましたか?」


男が豪快に笑いながら、アランの背を叩く。

そのあっけらかんとした様子に、兵士達は顔を見合わせた。


「……なんでもない。行くぞ」

「お、おう」


気まずそうな表情を浮かべながら、兵士達が歩き出す。

スラム街の住人、それも酔っ払いなんかに絡んでも、ろくなことがない──そんな様子が、ありありと見てとれた。


へらへらと笑みを浮かべていた男の顔が真顔に戻ったのは、兵士達の姿が完全に見えなくなってからのことだった。


「こっちに来な」


アランを促すようにして、男が歩き出す。

足を止めたのは、大通りから外れた路地──薄汚れた裏通りの一角だった。


「……助かった、ありがとう」


フードを目深に被ったままで、アランが礼の言葉を口にする。


「別にいいってことよ。……あんた、反乱軍の人だろう?」


男の言葉に、アランは黙り込んでしまった。

恩人に嘘を吐く気にはなれないが、そうと認めることも、また躊躇われた。


「ああ、別に確認しようなんてつもりはねぇんだ。ただ……」


薄汚れた男の顔に、柔らかな笑みが浮かんだ。


「なんでも、その反乱軍……ってのは、ガザード公爵家の人達だって言うじゃねぇか。俺達ぁ、あの人に恩があるんだ」

「ガザード公爵家に、恩……?」


アランの言葉に、男が頷く。


「王家も、他の貴族達も、誰も助けちゃくれねぇ……そんな中、あのお嬢ちゃんだけが、俺達に手を差し伸べてくれたんだ。こんな薄汚れた街で、綺麗なおべべを着た嬢ちゃんが、自ら汗水垂らして働いてな」


蘇るのは、王都に流行り病が蔓延し始めた頃の記憶。

前世で命を落としたウェズリーを救う為に、ディアナは自ら率先してスラム街に赴き、事態を収束させる為に動いた。


(あの時の──)


当時のディアナは、必死だったのだろう。

だがその行動によって変わったのは、ウェズリーの運命だけではない。

スラム街に住む彼等もまた、ディアナによって救われたのだ。


(俺はまた、ディアナに助けられたのか……)


そう思えば、アランの口元には自然と柔らかな笑みが浮かんでいた。


「俺等にゃ、難しいことは分かんねぇよ。ただ……あの嬢ちゃんがやることなら、助けてやらねぇとな」

「ああ、そうだな」


彼等を助けることが出来なかったのは、アランも同じだ。

ディアナだけが、彼等に手を差し伸べ、病の流行を抑えることが出来た。

未来を知り、それを変える為に迷わず動けるディアナだからこそ、成し得たことだ。


「ありがとう。君達がディアナの恩義に報いてくれたように、俺もまた、君達に報いよう」

「なんでぇ、照れ臭いじゃねぇか」


アランの言葉を、男が豪快に笑い飛ばす。


「でもまあ、感謝してるってんなら、今度酒の一杯でも奢ってくんな」

「ああ、必ず」


男の差し出した手を、アランが強く握りしめる。

再び歩き出したアランの顔は、力強い決意に満ち溢れていた。




目指すは、王城。

城内に潜入するならば、複数人で動くより、単身忍び込んだ方が人目に付きにくい。

そう考え、皆の制止を振り切って、一人ここまでやって来たのだ。


ラトリッジ王城は、アランにとっては生まれ育った我が家だ。

王となるべく教育を受けてきた兄オスニエルとは違い、長年放置されてきたアランにとって、王城は庭同然の場所だった。

幼心に好奇心を覚え、広い敷地内を幾度となく探検したものだ。

複雑に入り組んだ王城内に設置された、王族のみが知る隠し通路。

その幾つかは、幼いアランにとって、城から抜け出す為の通り道であった。


兵士の目を避け、裏通りを縫うようにして進むこと暫し。

アランが足を止めたのは、王都の外れにある、誰も立ち寄ることのない小さな祠だった。


「さて、と」


敷石をずらせば、下に続く階段が現れた。


地獄へと繋がるかのように、ぽっかりと口を開けた暗がりへ、一歩、また一歩と降りていく。

幼い頃は不気味に感じていた暗闇も、今となっては何も感じない。

迷うことのない足取りで、アランは真っ直ぐ王城に続く秘密通路を歩いていった。


秘密の抜け道は、王城の庭園にある庭師の作業小屋に通じていた。

出口を塞ぐように積まれた麻袋をなんとか押し退け、小屋を出る。


色とりどりの花が咲き誇る、ラトリッジ王家自慢の庭園。

その華やかな庭園さえも、戦の気配が立ち込める今は、色褪せて見えた。


王城への侵入は、当然警戒されている。

だが、その為の人員の多くは、城門を守るように配置されていた。

まさか総大将自らが単身乗り込んでくるなどと、誰が想像しようか。


人に出くわすより先にと、アランが庭園を走る。

目指すは、オスニエルの居室。

使用人用の通用口から城内へ滑り込み、薄暗い廊下を進む。

歩き慣れた居城を進む内に、人の気配を感じて、アランは思わず足を止めた。


アランとて、誰にも出くわさずにオスニエルの元まで辿り着けるなどとは、考えていない。

多少の血が流れることは、覚悟の上だ。


(やるか……)


気配を押し殺し、腰の剣に手を掛ける。

王城の一角に、張り詰めた空気が漂っていた。

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