第一話「魔術師」F
「あら、その程度でヘバってしまうのですか?戦いは此からと言いますのに」
なんて女は笑って。
いつの間にか異形の陣が宙に無数、風の勢いが強まる。対峙する男は相変わらず佇むまま。
両足の幅を広げエリスは再び手を翳した。そしてこう紡ぐ。「ゆけ」そんな一言と同時、
無数の円形から波のように膨らむ透明色が現れた。
ヴェーシャへ行く度、風音の勢いは増すばかり。
対するヴェーシャに然したる狼狽は無く、その時口元が綻んだ。
ようやく動き始めたと、大胆に体を仰け反らせその勢いで大爆転宙に一回転した。
ヴェーシャは着地時に下がる左足がバネのように地面を蹴り10m程の宙を飛び越える。
破砕音と共にコンクリートの砂礫が飛び散り辺り一面を煙が包んだ。
無論、攻撃は避けられた。
エリスから数10歩離れた場所。宙に舞うヴェーシャがエリスに急降下する。
途中で炎獄が揺らめく。重力と全体重を駆使してまで、突き抜ける素早さで加速する。
光速を越えた炎獄が完封されたと解れば、まるで愉快そうに間合いを詰めてきたらしい。
こんな状況にたたされたというのにも関わらず海斗の感覚は大体を捉えていた。
しかし、その時も女の笑みは変わらずだ。
「察知が早いわね。しかし、近距離も嗜んでいましてよ。」
もう目の前にヴェーシャが居る所で、女の周りに仕掛けられた異形の陣が淡く光った。
周りから暴風が吹き荒れる。小さな竜巻のように何千もの数で渦巻まく。
男の急降下は更に加速し続け、炎に纏われた拳を強く握りしめ大きく降りあげた
「何を出すかと思えば、ちんけな木枯らしか! 嬢ちゃん、あめぇよ!! 」
周りには、加速を続けたヴェーシャ別の風音が高鳴っていた。
そして振りあげた拳を振り下げると同時、風を突き抜けるような甲高い音響を奏でた。その勢いに難無くと小さな竜巻を貫かれる。
確かにあれだけの勢いをつけたヴェーシャにとって、エリスのそれはチンケな木枯らしも同然だったのだ。
「へっ、何だい何だいもう終わり……――? 」
直後の粉砕音なった直後、エリスが居た場所には当然の如く もはや穴の次元を越えた巨大なへこみが現れる。
一面に広がったコンクリートも此では湾曲に反られた瓦礫の集まりとしてただ飛び散ったばかりで、此を喰らえば死ぬのは当然。寧ろ、肉片が残るかさえ儘ならない程だ。しかし、竜巻を破ったあの瞬間 ヴェーシャの声と勢いは確かに「躊躇」があった。