第一話「魔術師」D
「しっかし、俺の攻撃を感知すっとはねぇ。」
その男は蜃気楼から現れたのは声の印象と合致するほどの中年のイメージがあった。体格は一回りも大きいが何処か華奢であって引き締まっている。
服装はグレーのYシャツに伸びきったネクタイ、ボタンは二つほど外れ胸が露出している。
顔に皺が目立つも堅苦しいよりは何処か慣れ慣れしそうな印象がある。
今風に髪をグレーに染めオールバック、俗に言うチョイ悪親父に該当する男だ。
「しかし癪だな。チェリーボーイ。光速を越えた俺のマグナムをこうもあっさりと避けられるとは」
「はっ?チェリーボーイ?」
睨みつける男に海斗も睨み返す。背中に隠した拳を震わせながら。
強気を取り繕っておいて、実は怯えている。
そして違和感を感じる。魔術師でも無い海斗が光速と呼ばれた炎を事前に察知し避けた事。
「にしても、かったりぃ。一般人を巻き込んであの『艶笑の暴風』エリス・フォン・シュトレーゼの不意を突けば、一瞬で片を付けられると思ったが。」
女の名前はエリス・フォン・シュトレーゼ。
魔術師の中では「妖艶の暴風」と恐れられるほど有名な風魔術の使い手。それ以上は異界人である男も知らない。
しかしもう一つだけ。海斗が巻き込まれたのが必然的であると言うこと。
「やはり貴方でしたか……。しかし、驚きましたわ。炎獄術の破壊魔と恐れられた”ヴェーシャ・クロレッツ”ともあろうお方がこんな卑劣で愚劣な策に出るとは―――。」
「やはり、地獄の異界者方は、程度の低い方しか居らっしゃらないないのでしょうか?」
エリスのご挨拶は軽い揶揄から始まった。相手のチャラ男は『ヴェーシャ』と言う名前、彼女が海斗に勘違いしていた『異界人』。最初の攻撃の通り炎獄の使い手として恐れられる男
変な形でエリスの勘違いが解消されたみたいだ。
「へっ、綺麗な薔薇には棘があるなんて言葉聞いたけど―――正しく、あんたに相応しい言葉だな。」
「しかし、冗談も止してほしい所だ。アンタのような奴と真っ正面で戦いを挑む奴なんてほんの一握り。その中の六割は命知らずな馬鹿なのは知れた事。」
男は冗談紛いにも言う。
妖艶の暴風エリスとは其れ程までに恐れられている存在。
「なら……貴方もその馬鹿の一人なのですね?」
「どうだろうな?それとも……熱い愛でも交わしながら、試してみるかい?」
「愛は抜きで……しかし上等ですわ。」
風と炎獄の火花




