第一話「魔術師」C
海斗は謎の存在「異界人」とは何なのか解らない。
しかし、『異界人』だったら死ぬ可能性がある事は解っていた。
(そんなんで死ぬつもりはねぇんだよ。)
心の中で泣き叫ぶが、当然女には通用しない。
そう思うと、瞬時に閃いた策で英断に出る。
「その結界が見えるのは多分、あんたも俺と”同じ”だからだと思う」
「同じ?」
彼女と同じ立場を演出した。こうすれば結界に入れた理由も適当に繋がる
「そう、同じ……。本来一般人には届かない力を認識できたって事は、あんたは俺と近い力を持っていたからかもしれない。」
「ええ、しかし……。」
淡々と冷静に語る海斗。女はどっちか、と困惑する。
「異界人というのが敵なら……、俺は違う。」
「それに、あんたも思っただろ。攻撃を仕掛けるならもっと良策があったはず……と」
「ええ、確かに。」
海斗の言葉に女は頷いた。
そもそもこんな高校生を装ってまで行く必要性が無いのだから、と海斗は思考した。
「ああ、良策だ。別の場所から狙撃を仕掛けてくるとかあるいは背後から―――!?」
直後「背後から攻撃を」と頭が浮かんだ時。
彼女の背後に火炎音が聞こえる。あの曖昧だった蜃気楼が赤い煌めき。
火吹きのような音を上げながら、近づいていく。
ボオオ、と。
あれが何なのか海斗には解らない。
しかし、衝撃同様あんなのが直撃すると考えれば
「あら、そんな表情を浮かべてどうしたんですか? 」
「―――馬鹿かお前は!? 避けろ!! 」
海斗の右手は彼女の肩にまで伸びた。
掌の風は海斗に不意を付かれたため消滅、驚くように女の方も体勢を崩した。
海斗は彼女へ飛び込み地面へ伏せる為に飛び込むと、熱風が伝わってきた。
避けても蒸し焼きにされるほど暑い。
更に、上では夜景を灯すには充分すぎた強大な炎が、避けなければ一瞬で溶けていただろう。
『痛いわね……。服が汚れるじゃないの。』
はぁ、と女はため息をこぼすが驚きの様子は無い。
「あれは炎獄系の異術。それも私でも感知出来ない速さ……。」
女の碧眼には過ぎ去った炎が映し出されていた。
そして心当たりで在るようで、思い出すように思索した。
それは確かな心当たりだった。
「おいおい、俺を抜きで随分と”お熱い事”をしてるじゃねぇかぁ? 」
と、そこで不意に蜃気楼の方から男の声が響きわたる。