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1/2のプリンス&プリンセス  作者: マツモトコ
私の部屋とキミの世界編
20/98

20、國境

「そうだな、玄関先での立ち話もなんだし、中に入って待っていて下さぶぁ!!」

「ワルサー!お待たせ!!」


 うん…この乱暴な横殴りの風はウーターニャの仕業だとわかってる。

 他の2人は無事かと見ると私と同じく突風に耐えきれず2人とも転がり倒れている。

 無様に転けたのが私だけではなかったことに安堵しつつ起き上がり、ウーターニャに2人を紹介する。


「ウーターニャちゃんを訪ねてきた人達だよ。お知り合い?」

「あ…イサナの方だったのね」

『一目瞭然だろうが。ウーターニャには錯視魔法を使用している意味がないな』


 慌てん坊なところもウーターニャのかわいいところなんだから勘違いされたくらいでそんなにプリプリ怒らなくても。


 ウーターニャにワルサーが男になったという報告はとうに済ませたのだが、彼女は男になったワルサーをまだ一度も目にしていない。

 時間を停止したことで完全なる独りだけの世界となった地球を気に入り、ワルサーが全くこちらの体を使おうとはしないからである。

 ワルサーの小指を使った呼び出しにようやく彼が男になった姿を見せてくれる気になったのだと思い込んでしまったのだろう。


「ごめんね、ワルサーの通話魔法を借りたの」

「…ううん、いいのよ」


 ウーターニャの取り繕う笑顔が切ない。

 一方、城を訪れた2人はウーターニャの翼を見て、深く被っていたフードを脱ぎ捨て(ひざまず)き懇願する。


「天使様…!!私の友人を、教え子を、お助けください!」




 この城を現在の拠点としている天使がいるという噂を頼りに助けを求めに来た2人は南隣に接した『質実の國』からやって来ていた。

 ウーターニャは速やかに2人に天女の羽衣のようなものを渡し、要救助者の元へ道案内をするように言い付け、私には腕にしがみつくようにと言う。

 私も2人と同じ羽衣がいいと言ったのだが、ダメだの一点張りで理由は教えてくれない。

 ワルサーの記憶から理由を探っても該当する答えはなく、天使は羽衣を3枚所有しているはずなので貸してもらえない理由がわからない。

 しかしあまりごねている時間もなさそうなので早々に諦める。

 羽衣は天使が羽ばたいて起こす風を受けて初めて舞い上がるようにできており、ウーターニャが3つ羽ばたくと2人が空に浮く。

「こちらです!」と藤の花の髪の青年が方角を指し示し、その案内に従い緩やかに空を飛ぶ。


 …あれ、私が付いて行っていいのかな?


 と疑問に感じたときには南に向けて飛行を開始していた。

 羽衣を使う2人の為に程よい風を起こす必要があるのか、服を買いに出掛けたときのような滑空飛行ではなく緩やかな速度での飛行移動に安堵する。

 9000mに近い高度に吹き荒ぶジェット気流の影響も一切受けずに、天使の羽の風にだけに従う羽衣の従順さを可愛く感じるのは私だけだろうか。


『人間以外にもそのような感情を抱くのは情緒的で風情があるのではないかと思いますよ』


 意外にも肯定してくれたワルサー。

 自分でも変なこと考えてしまったかもと思っていたことだから肯定してもらえたことが嬉しい。


 ワルサー、ありがとう。

 なんか初めてワルサーとくっ付けて良かったなって感じたかも。


『初めて、ですか』


 不満そうな口振りの中に、ふっと漏れる軽い吐息が混ざっていたことから口振りとは異なる別の感情が含まれていることがわかる。

 こういう駆け引きではない、なんてことない会話がもっと沢山出来るようになるといいんだけどな。


「あ、汽車だ。なんて綺麗な煙…」


 ヘプタグラム城がある『頂点の國』と私達が今から向かう『質実の國』はこの星を一周する『龍の背』と呼ばれる大山脈の中でも一際鋭く尖り、氷河を有する『龍の(たてがみ)』という山で分け隔てられている。

 眼下を走る黄金色の煙を吐く汽車は私達と同じく質実の國へと向かうため、龍の鬣に潜って進み行く。

 羽ばたきに押し流されるように私達の上空を舞う藤の花色の髪の若い男と氷砂糖色の髪の少女の2人はこの汽車を利用してヘプタグラム城の城下町を経由し、そしてあの山道を登って城へと訪れたようだ。

 龍の鬣を越え、辿り着いたその地は頂点の國の城下町よりわずかに高い標高の山の上。

 人里から離れた低木が覆い広がるその地に人集りができている。


「いすず!天使様を呼んできたよ!!」


 地に舞い降りるなり、氷砂糖の髪の少女が人集りを掻き分けて走り出す。

 いすずと呼び掛けられたミントグリーンの髪を小さなお下げに結わえた子供に少女が近付こうとすると磨りガラス状の壁が現れ、ぼおんと鈍い音を立てて2人を隔てる。


「もしかして…」

「はい、天使様のお察しの通りです。…友達が國を越えてしまったんです」


 なに?

 密入國したってこと?


 疑問に思うと答えが浮かぶ。

 この世界では南北に並ぶ國の移動は自由だが、東西に國を越えてしまったら世界を一周しなければ戻って来る事が出来ないようにできているのだ。


「なんとかしていただけませんか?」


 氷砂糖の髪の少女の懇願にウーターニャが絶句しているとワルサーが『無理だな』と断言する。


「阿呆だなぁ。なんでお前無性別のままでいたんだよ」

「性別をまだ選べなかったんです!怖い、動物の気配がたくさんしとる!くうも先生!とおる!たすけて!」


 知り合いなのか、それともただの野次馬か。

 中年の男の馬鹿にした物言いに半泣きになり必死に助けを懇願するミントグリーンの髪の子供のことを私の瞳を通してワルサーが一瞥すると、この子が何故この様な状況に陥ってしまったのかが私にも把握できた。

 友人たちと153年ぶりに高くなったというヘプタグラム城を見に行こうとしている最中に、この子が苦手とする動物の気配を感じてパニックを引き起こし、逃げ回っているうちに意図せず國を越えてしまったのだ。


「…誰も助けに行かないの?」

『質実の國の人間は魔法を獲得せずに生活をしているため世界旅行を好まないのですよ』

「天使だろ!?『最期の移動』を今使っていいからこの子を連れて帰ってきてやってくれよ!」


 くうも先生と呼ばれた藤の花の髪の青年がウーターニャに取り繕うことを忘れて懇願する。


「…消失開始してないんだからそれは無理です」

「こんなちいせぇやつ1人くらいなんとかなるだろ!?」

「体格も年齢も事情も関係ありません。東西の國境を越えてしまうと5年間は再通過できないという世界の理を越えることはこの子が生きている限り不可能なんです!」


 くうもがウーターニャにならいすずを連れ戻すことができると考えたのには理由がある。


 この世界で東西に國を越えてしまうと逆戻りすることはできない。

 それは時間を巻き戻すことが不可能なのと同じ理屈であり、この世界では超自然なこと。

 しかし医療を担う天使だけは自由に國を越えることが許されているのだ。

 そしてこの天使達は死に逝く者を準天使に任命し『最期の移動』をさせてやることができる。

 この『最期の移動』は消失を開始した人間を世界が『人』と認めなくなったからこそ実現可能となる、世界の理の穴を利用した超越行為。

 もちろんそれは【終極の願い】を叶えたか、【禁忌】を犯してしまったかのいずれかの理由で消失を開始してから24時間以内に天使に出会うことが必須であり、國を越えている最中にタイムリミットを迎えてしまい希望の地へ行き着くことが叶わぬことも多々起こる。

 なので、くうもは『最期の移動』というものがあることは知っていても、『最期の移動』を利用できた人を見たことはなく、利用できるのが消失を開始した人間のみという条件を知らなかったのだ。


「…ワルサーは転移魔法とか持っていないの?」

「それは禁術よ」

「そっか。…ねぇ、魔法のある世界でも世界一周って皆が躊躇するくらい大変なことなの?」

「そんなことはないわよ。ワルサーと私は10歳で旅に出たもの。子供だけでも世界旅行は可能なくらい気軽なものだわ」

「それは…いいね」


 にやりと笑う私の考えを察したのかワルサーが制する。


『イサナには無理ですよ。性別を持つ者は國境を越えることができません』

「まずは東廻りルートか西廻りルートを選ぶの。この子は西に國を越えちゃったから西廻りルートが確定ね」

『説明しなくていい、ウーターニャ』


 ワルサーの声が聞こえないウーターニャは説明を続ける。


「例外的に居を構えた南北に隣接する國には性別問わず自由に行き来ができるんだけど、それ以外の國を越えるためには必ず無性別である必要があるわ。性別変換期は10歳から20歳、次が25歳、その次が30歳で以降は10年起きにやって来るものなのよ。その時に無性別を選択していれば年齢を問わずいつでも世界を旅できるんだけどね」


 あー、だからマリルドやナナツヤは無性別だったのか。

 ん?

 ということは遊戯の國からやって来ていたユングーも本当は無性別だったってこと?

 髭を生やした無性別者…。

 私の想像力が乏しかっただけで男性ホルモンに関係なく髭を生やすことは魔法を使えば可能ってことなのかもしれない。

 事実、私の左半身は本来ならば男性であるはずなのに女性に見えるようになる魔法がかけられているのだから。


「國を越える為には其々の國で『出國の星』を手に入れる必要があるんだけど、これも大して難しいことではないわ。出國の星は訪れた國の國民の誰か1人にでもいいから来訪を欣喜(きんき)してもらうことで出國の星を手に入れられるの。ほら、イナサの薬指にも質実の國の出國の星が宿っているでしょう?」


 促されて右手を見ると『質』という文字が中央に浮かぶきらきらと瞬く小さな星が確かに薬指の爪の中を泳いでいる。


「綺麗…」

『天使を呼び出したことでそこのとおるという背の高い女性から感謝の念を込めて贈られたのでしょうね』

「でもウーターニャちゃんを呼べたのはワルサーがいたからこそできたことで私が感謝されることではないような…」

『俺だったら追い返してお仕舞いでしたよ』

「ふふふ、そっか」


 毎回同じ人情味ゼロの対応案を耳にしているとワルサーの酷い言葉に笑いが込み上げてきてしまう。


「質実の國へ戻れるように全行程に付き添ってあげたいけれど、長期に渡って1人にだけ掛かり切りになると天使の称号を剥奪されてしまうから私にはできないわ…ごめんなさい」

「やることないし、行けるものなら私が付き添ってあげたいけれど」

『イサナは通れないんですからね?』

「そうなんだよねー、私は女だもんね」


 そんなに何度も言わなくたって壁を越えることは不可能だってわかってるよ。

 とは口にせず、國境の不思議な壁に弾かれてみようと体をぶつけてみる。

 が、なぜか私の体は壁を通過することができてしまった。


『!?』

「は?なんで!?」

「えっ!?イサナってば何をやってるの!!…あれ?女の子のイサナが國境を越えられるはずが…あ!もしかして今、イサナ達は両性具有の状態になっているから…!?」

「ウーターニャちゃん、きっとそれだわ。私は悪くないな、うん」

「國境に突進するのは悪いことよっ。あぁもうイサナ…悪ふざけが過ぎるわ!めっ!」

『こんな形で世界の理に抜け穴を発見するとは…』


 突然國境を越えた私に周囲がざわつき、とおるが歓喜する。


「6代目様がいすずと共に旅をして下さるのならば安心です!」

「え、私は6代目ではないけれど…」

『國境を越えてしまったのならば、どこかの國に定住するか、先に進む以外ないですよ』


 そうだね。

 なら先に進もうか。

 いすずが質実の國に帰れるよう協力をしよう。

初めてブックマークとポイントを頂きました。

もっとずっと先のことかなぁと思っていたので嬉しくてドキドキしています。

ありがとうございます!


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