第6章2 力行
ナビアは薪と食料調達に来ていた、以前調達していた分があったのだが数日体調を崩しており他に入り用の物が出てきた為あの女性のためにも色々買い込んでおこうという算段である、体調も戻り買い込んだは良いがやはり小屋へ帰る道は荷車の重さもありだいぶ疲れが出てきた、体調が戻っていないというのもあるが1番は年齢なのだろう、いかに体の丈夫な武人であっても老いには勝てないところがある
ようやく小屋が見えたがここでも安心してはいられない、荷降ろしがあるのだ、今回は特別重いものは無いが量が量である、やっと食料は荷降ろしの終わりが見えてきた時あの女性が見かけぬ物を持って土間に立っていた、会釈はするが余りこちらには余裕が無い、とりあえず手に持っている食料を置いて女性には居間で暖を取ってもらおうと足を運ぶと
「あいおずろぬんしも?」
と言いなんの意味かと考える暇もなくナビアの腕から食料を2つ3つほど取っていた、手伝ってくれるのだろう、余裕の無いナビアにはとてもありがたい行動であった
「…ありがとう」
続けて手伝ってくれるという雰囲気を感じ取り薪の場所を教えて分担して運び出す、横目で女性を見るとその周りにはすでに精霊が舞っているようで光が見える、このような女性が嫌な顔をせずに手伝ってくれるのだから精霊に愛されるのも納得する、精神的にはどれだけ鍛えられようとも身体はそういかないもので、追放されてすぐの頃はこれ以上に重い買い物をしてもほぼ息を切らさずに来れたものだ
「助かった」
「すさ」
お互い少し息が上がっているがこのままだと身体が冷えるため火鉢を起こしに行くが女性の持っていた物が上がり口にあり気になる、なにか物を入れるのだろうがこちらの籠とは見た目が似ても似つかない火を起こしたあとで女性はその物をあさり小さい四角い物を取り出した
「もも゛る」
「もも゛る」
小さいため何かわからず覗き込むと周りが反射してうつる、鏡なのか、そしてその鏡越しには精霊は映らないらしい
ビクリと隣の女性が動いた、精霊がこの女性にも見えたのだろうか、それとも何かあったのか
「大丈夫か?」
「とす」
顔を縦に振る女性の顔は少し赤らんでいるようにも見えたがそれはナビア自身の主観かもしれないとも思う、ふいにわざとらしく女性は四角いいつもの書き留める為の物を出す
「鏡」
「か、が、み?」
発音がしにくいのだろう、だが向こうの世界での鏡の発音はこちらもしにくい、書き留めておくために机へ少しの時間向かったあと女性の方を見ると女性は外を見ていた
外にはキツネが獲物を狩っていた、傍から見たら可愛らしい行為に見える、そしてその様子を見ている女性はとても美しく見え、ひとときの間みとれてしまった、それを悟られないようにキツネを見ながら
「キツネ」
「きつね?」
一瞬の思案の後で言葉について言っているとわかったのだろう
「むいか」
「むいか」
言葉を交わしたあと、しばらくお互いにキツネを見ていた、いや、正確に言えばあの女性だけがキツネを見ているのだろう、女性のほんの少し後ろに座っているが昼間にもかかわらず眩しかった、それは精霊のしわざだけでないのは薄々気付いている、若いであろうこの女性の心根の優しさがナビアには眩しすぎた、自警団に居た時ナビアも同じように他者のためにと思っていたが現実はそう甘くない、村は小さいがそれ故の悪い部分も見つかる、金銭的な融通は親族に通りやすく他者には排他的であるし気に入らぬ者は村八分にされやすくある、それがナビアであった
女性が身震いをした、今はもう寒さが厳しく火鉢があっても居間を開け放していては意味がない、扉を閉めると暖かさが緩やかに増し同時に女性の方から軽やかな甘い香りが漂ってくる、しつこくもなく作られたものではない、この女性自身の香りなのだろう、そろそろ夕餉の支度をしても問題のない頃合い、また暖かな食事を作って共に食事をするのも良いと思いながら身体を休めていると女性が鏡を出した物を持って頭を下げる、帰るのだろう
帰って欲しくないと考えてしまう、しかし女性の帰るべき世界を閉ざしてはいけない、ここは女性にとって居場所のひとつであれば良い、頭を下げ女性が揺らぐ、精霊の光はそっとナビアの隣をすり抜ける時、残り香を感じた、しばらくナビアは目を閉じた後、暖かな食事を作り始めた、だがナビアにはそれを暖かいと思えなくなってしまう、ひとりとふたりではこうも違う、そう考える中でナビアはあの女性の姿を追っていた




