25.「一流メイドを偵察せよ!? そして始まる『魔王探し』」
――そして、夕食後。
すっかり人が居なくなったテーブルには、料理を食べ尽くされ空っぽになった食器たちが、乱雑に並べられていた。
そしてユリティアさんが一人、それらを片付けていたのだが……。
……その様子を、僕は物陰からコッソリと観察していたのだった。
なぜ僕が、ユリティアさんを『観察』なんかしているのか。それは一流美人メイドであるユリティアさんのストーカー……ではなく、(ゴホン)、偵察の為である。
僕たち三人は、何者かに命を狙われている。そして今のところ、その相手について、何も手掛かりが掴めてはいないのだ。
戦場で生き死にを左右するのは、情報の有無だ。そして何よりも重要なのが、敵の情報である。
とにかく、情報が欲しい。そして現状、最も怪しいのは……まず間違いなく、あのユリティアさんだろう。
刺客をメイドに偽装して送り込み、背後から命を狙わせる……いかにも貴族連中がやりそうな手口だ。だからといってユリティアさんがそうだと決まった訳では無いけれども、警戒しておくに越した事はない。
だから僕は、陰からコソコソと様子を窺っていたのだが……
見た所、怪しい素振りは見えないな……どこからどう見ても、仕事熱心なメイドにしか見えなかった。
ぎこちない所は一切なく、手慣れた手つきで仕事をこなしていく。
やっぱり、そう簡単にボロを見せる訳はないか……。だったら、もっと近くで揺さぶりをかけてみるしかない。
そして僕は物陰から出ると、ユリティアさんに近づく。
ユリティアさんは一瞬、僕の方を見る。そして近づいてくるのが僕だと分かると、露骨に嫌そうな視線を向けるのだった。
くっ、相変わらず、まるで畜生でも見るような視線だ……けど、負けるな、トーヤ・アーモンドっ!
そして僕は最大限の笑顔で、ユリティアさんに声を掛けるのだった。
「お疲れさまです、ユリティアさん」
「……何の御用でしょうか」
相変わらず、ユリティアさんの声は冷たい。
常人ならば、思わず「な、何でもありません……」とスゴスゴと引き下がってしまうような、そんな『圧』がそこにはあった。
確かに、恐ろしい……けれど僕は、これ以上の修羅場を経験してきたのだ。
これしきのことで、怯んでなんかいられない……!
そして僕は、果敢に声を掛け続けるのだった。
「いえ、用というほどでもないんですけど……その、一人だと大変じゃないかなーって思って。僕で良かったら、お手伝いでも――」
「いいえ、結構ですわ。これはメイドの仕事ですので。それとも、私から仕事を『盗む』つもりですか? ……相変わらず、盗人猛々しいお方」
決死の覚悟で、手伝いを申し出た僕だったのだが……あえなく撃沈。ユリティアさんは、心底蔑むような眼で見つめてくるのだった。
――こ、これは、駄目だっ……!
好感度で言ったら、最低のドン底。これはもう、引き下がるしかないっ……!
そして僕は、取りつく島のないユリティアさんの態度に、早期撤退を判断。
平謝りすると、急いでユリティアさんの前から立ち去るのだった……。
◇
そして、結局ユリティアさんからは情報を得られなかった僕は――
潔く諦めると、リゼたちがいるテントの方に戻るのだった。
……敗戦濃厚の戦場に居続けても、ただ傷口が広がるだけ。
とにかく、他の手を考えないと。そして僕はテントの入り口をめくるのだった。
テントの中に入ると、レオ……ではなく、エレナと目が合う。
あれから僕は、一度エレナと話し合ったのだけれど……その時のことを、僕は思い出すのだった。
「私のことは、今まで通り接してくれて構わない。ただ……二人きりの時だけは、私のことを『エレナ』として扱ってほしい……」
そう言うエレナは、とても真剣な表情で……僕は静かに頷くしかなかった。
エレナの置かれている『複雑な事情』の全てを知っている訳ではないけれども……だからといって、僕がエレナの友人であることに変わりはない。
そして何より――彼女の秘密を知ってしまった責任が、僕にはあるのだ……!
エレナがそう望むなら……僕も、真正面から全力で応えるしかない。
それに、リゼからもお願いされてしまったことだし……なんだか完全に退路を塞がれてしまったみたいだけど、こうなった以上、仕方ないか。
…………。
とにかく、今は差し迫った問題を解決するのが先だ。
ユリティアさんの件が不発に終わった以上、もう一つの件を進めるしかない。
そして僕は、テントの奥で何か本を読んでいるらしいリゼに声を掛ける。
――夜がふけるまでには、まだ時間がある。
そして僕は二人に、女神さまから聞いた話を打ち明けるのだった……。




