表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Re:sou〜超現実拡張妄想変換装置(仮)改〜  作者: 西ノ圭吾
第二章 開幕
6/22

# Re:sou 第六話「関わってはいけないもの」

昨日は色々あって忘れてた、冒険者登録をすませにギルドに来た。

あと、ジェスが制服は目立つからとお古の服を貸してくれた。

昔ジェスもあの屋根裏に間借りしててタンスの中には昔のが残っているからいつでも使っていいとのこと。


変えの服などなかったしありがたく使わせてもらい、ギルドへ。

 

「はい、こちらが冒険者証になります」


受付さんがカウンターに置いたのは、掌に収まる木の札だった。焼き印で紋章と、例の筆記体。端に小さく嵌め込まれた魔石が、本人確認の証らしい。

どこに持ってもいいが基本なくさないように首から下げるみたいだ。

あとでそうしよう。


「Gランク、カイさん。ようこそ、冒険者ギルドへ」


木の札一枚。だけど俺にとっては、この世界で初めての「身分」だ。「ないです」三連発の男、ついに社会的存在になる。じわ、と来るものがあった。


「で、新人さんには講習の受講義務があります。あちらへどうぞ」


受付さんが指した先、ギルドの隅の小部屋には、既に新人らしいのが二人座っていた。そして教壇には、左目に傷のある禿頭のおっちゃんが、分厚い教本を片手に立っていた。


挿絵(By みてみん)


   *


講習は、実務の話から始まった。依頼の受け方、報告の仕方、薬草の等級、魔物素材の剥ぎ方。眠くなった頃、教官のおっちゃんは教本を、ばん、と閉じた。


「ここからが本題だ。よく聞け。——この世界には、関わってはいけないものが、三つある」


部屋の空気が、少し冷えた。


「一つ。大魔王」


教官は指を一本立てた。


「魔族の頂点だ。大砲などマナのコモっていない物理は効かん。剣と魔法と拳でしか傷ひとつつかん——と言われてるが、傷つけた奴の話は聞いたことがねぇ。遭ったら終わりだ。もっとも、北の魔族領から出てくることは滅多にねぇがな」


「二つ。魔王ども」


指が二本。


「魔王の座は十あるといわれてるが、今確認されているのは五つだ。ひと柱ひと柱が、国の軍を単独で相手取れる。戦争で前線に出てくることがある。軍務に雇われた時は、旗印をよく見ろ。魔王の紋章が見えたら、依頼料なんぞ捨てて逃げろ。誰も責めん。」


(レイドボス図鑑だ……)


俺は内心でメモを取った。大魔王=討伐不可。魔王=十席中おそらく五席稼働。ゲーム後半のコンテンツって感じだな。で、三つ目は?


教官は、そこで初めて教本を開き直した。ぺら、ぺら、と頁をめくる。目当ての頁で手が止まり——おっちゃんは、少しだけ嫌そうな顔をした。


「三つ目。……こいつは、名前がねぇ」


「名前が、ない?」新人の一人が聞き返す。


「教本の項目名は『その他』だ」


その他。


「呼び名は土地ごとにばらばらだ。神人と呼ぶ土地もありゃ、亜神と呼ぶ土地も、歩く厄災と呼ぶ土地もある。五十年前、東の山がひとつ消えた。三十年前、旱魃の村に四十日雨が降り続いて村が救われた。どっちも同じ『それ』の仕業だと言われてる。姿の証言も食い違う。ボロの旅人だった、光る貴人だった、美しすぎて目が潰れた——全部あてにならん」


「……で、遭ったらどうすれば」


教官は教本を、俺たちに向けて掲げた。その頁には、たった三行しか書かれていなかった。受付さんの代筆で覚えた俺にはまだ読めないが、教官が指でなぞって読み上げた。


「『戦うな。逃げるな。祈れ』——以上だ」


「攻略情報、薄っ!」


思わず声が出て、教室中の目が集まった。すみません。でも薄いだろ。対処法が「祈れ」って、公式攻略本が匙投げてるじゃん。


「薄くて結構」教官は真顔だった。「対処法が書けるうちは、天災たぁ言わねぇんだよ。台風の頁に『台風と戦うな』と書いてあるのと同じだ。……ま、安心しろ。一生遭わん奴が九割九分だ」


   *


午後は、宿の裏庭が道場になった。


「いいかカイ、身体強化はな——体ん中のあったかいのを、ぐっ! と集めて、バッ! だ」


「擬音しかない……」


「ジェスの講義は毎回それだ。諦めろ」


縁台で本を読みながら、クラインが言った。その隣で、クーリが干し果実をかじりながら見物している。今日も店の手伝いと称して入り浸っている。


まあ、やってみるか。あったかいのを、ぐっと集めて、バッ。


視界が、沈んだ。


正確には、俺が跳んでいた。宿の屋根が、下にあった。


「「「は?」」」


三人の声が揃うのを聞きながら、俺は重力に思い出されて落下し——干してあったシーツの群れに、豪快に突っ込んだ。洗濯紐ごと巻き込んで、庭に転がる。


「い……ってぇ……」

これは、痛みは通常使用か、無茶できんな。


「あっははははは! シーツおばけ!」クーリが腹を抱える。


「お前、今、二階の屋根越えたぞ……」ジェスが呆れ顔で俺を掘り出した。「ぐっとやりすぎだ。もっとこう、ちょっとだけ、ぐぐっとだな」


「その説明で加減できたら苦労しないんですよ!」


出力調整が、できない。ゲームで言えばアナログスティックの感度設定が最大で固定されてる感じだ。五パーセントの力、と念じても、俺の中の「五パーセント」の基準がそもそも分からない。


その後も散々だった。素振り用の木剣は、握った瞬間、みし、と嫌な音を立てて罅割れた。踏み込めば庭に足跡が抉れた。ジェスに「軽く」打ち込んだら、受けたジェスが三歩下がった。


「はー……お前、伸びしろしかねぇけど、伸びしろが崖すぎんだろ」


そして剣そのものも、うまくいかなかった。この世界の剣は幅広で重い、叩き斬る剣だ。剣道の、面を打つ軌道が乗らない。振るたび、手の内で剣が暴れる。


と——不意に、横から手が伸びた。


ヤンさんだった。買い出し帰りの荷を縁台に置いて、無言で俺の両手首を掴み、柄の上で位置を、ほんの指二本分、ずらす。それから俺の右肘を、軽く、押し下げた。


振ってみろ、と目が言った。


振った。——剣が、暴れなかった。重さがそのまま、刃筋に乗った。


「……っ、今の、なんか、通った!」


ヤンさんはもう背を向けて、荷物を担ぎ直していた。


「型は悪くない。剣が違うだけだ」


それだけ言って、店に入っていく。ジェスが、ぽかんと口を開けていた。


「……ヤンさんが稽古に手ぇ出すの、初めて見た」


「へえ」クラインが本から目を上げる。「——お前は良い師を持ったな、カイ」


その声が微妙に面白がっていることに、俺はまだ気づいていない。


   *


その夜、ナナが妙なことを言い出した。


「カイさま。ステータス表示を一部復元しました。ご確認ください」


言われて白い枠を開くと、見慣れない項目が増えていた。


 錬度:2


「れんど?」

「創生人標準の錬度記録機能です。あらゆる達成を計上し、可視化します。達成の可視化は、士気の維持に有効と判断しました」

「レベルだ! やっぱゲームじゃん、これ!」

「……回答を、拒否します」

「上がるとなんかあるの?」

「気分が良くなります」

「実質経験値システムだよ、ありがとうな!」


   *


翌日から、俺の冒険者生活が始まった。Gランクの受けられる依頼は、掲示板の一番下の段。いわゆる、お使いだ。


一件目、倉庫掃除。


商家の古倉庫、埃十年もの。箒を借りて——やめた。だってこれ、ゲームだし。


風で埃を巻き上げて、一箇所に集めて、霧状の水でくるんで固める。転がり出てきたのは、灰色の巨大な埃団子だった。所要時間、小一時間。


「……あんた、ひと月は掛かると思うとったのに」


依頼主のばあちゃんは、腰を抜かしかけ、それから山ほど芋をくれた。ギルドの受付さんは報告書を三度見した。


錬度:3。


「掃除で上がった!」

「計上対象です」


二件目、薬草採取。


「はいはい、指導役のクーリちゃんですよーっと。……で、指導料は?」

「クーリ。新人の指導は先達の義務だ」

「兄さんはすーぐ正論言う!」


ぶーたれながらも、クーリの薬草知識は本物だった。葉の裏の色、茎の折れ方、群生の癖。すらすら出てくる。


「……詳しいんですね」

「べ、別に? 兄さんの本、読んでただけだし」


なんでちょっと照れるんだろう。そして俺の襟元では、ナナが超小声で仕事をしていた。


『対象、ヒール草。適合。左、三歩』


言われた通りに三歩進むと、岩陰に、艶のいい群生があった。無傷で、根ごと、丁寧に。


「……ちょっとあんた、なんでそこ分かるのよ」

「か、勘です」

『勘ではありません』

「今なんか聞こえた!」

「腹の音です!」


夕方、ギルドに納めた薬草は、最高等級の判定を受けた。受付さんが、また三度見した。


錬度:5。


   *


そんな日が、しばらく続いた。


水路の詰まり直し(水魔法で一瞬)。井戸の水質改善(同じく)。迷子の山羊探し(ナナの探知で一瞬)。荷運び(身体強化の練習台に最適だった。二回、荷車ごと持ち上げて怒られた)。


十日目。受付さんが、木の札を差し出した。焼き印が、ひとつ増えていた。


「Fランク昇格です。……最短記録ですよ、これ」

「な? 言ったろ」ジェスが自分のことみたいに胸を張る。

「異常だ」クラインは静かに言った。褒めてるらしい。


Fの次はE。Eになれば——討伐依頼が、受けられる。


掲示板の中段、討伐の段に、俺はずっと目をつけている一枚があった。


【深緑の森周辺 フォレストウルフの群れ 間引き依頼】


待ってろよ、初日の借りは返す。枝一本の雪辱戦だ。


   *


その夜。屋根裏で寝転がりながら、俺はふと、講習のことを思い出した。


「なあナナ。『名前のない天災』って、知ってる? 山消したり、雨降らせたりする——」


ナナは、いつもより長く、瞬いた。


「照合。……該当情報、存在します。閲覧権限——」

「レベル足りない、だろ。はいはい」

「——いえ。権限以前の問題です」


光球は、困っている、ように見えた。初めて見る挙動だった。


「当該存在は、本端末の記録開始以前から『例外』として登録されています」

「例外って、何が」

「回答:……分類できません」


超高性能なはずの管理端末が、ギルドの教本と同じ結論に達していた。項目名、その他。


「……会うこともないか。九割九分、遭わないって言ってたし」


俺は寝返りを打った。明日も依頼だ。Eランクまで、あと少し。


そのフラグが世界で一番よく回収されるやつだということを、この時の俺は、まだ知らない。


(第六話・了)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ