人の気持ちにチートは効かない
この作品……面白いか……?と不安になってなかなか筆が進みませんでした……更新が大変遅れてすみません。よくよく考えたらブックマークしてくださる方がいるので、読めるものではあるのではないかと思います。ありがたい限りです。この先も面白くなる自信はありませんが、完結だけはさせようと思います!
あらすじ シルカ(自分をゲームの主人公だと思ってるちょっとやばめな子)が、ロードラーザ(色々チート気味の変態。シルカを気に入っている)とキーラ(本作の主人公。婚約者の王子のことしか頭にないが今回は落ち着いている)の口論を聞き、何故か二人が特別な仲だと勘違いして逃げ出す。それを追うロードラーザ。ついに彼らの仲は進展するのか!?ちなみにキーラは魔力盗難事件を解決するときに魔力切れを起こしている。
一応、協力者であるので放っておくわけにもいかず、私はロードラーザ様の後を追うことにした。
しかし、主にシルカの事に関して様子がおかしくなる彼だ。明らかに焦ったあの状態で、何とかすることは出来るのだろうか。
多分にある不安を脇に置いて、彼らが消えたほうへと足を向けた。
その後ろ姿はすぐに見つかった。
丁度、シルカに追いついたところのようだ。
私は手近にあったベンチの後ろの茂みにそっと屈む。
魔力は切れているので、姿隠しの魔法は使えなかった。
「……待ってください!……シルカ!」
ロードラーザ様の手がシルカの肘のあたりを掴んだ。
シルカはパニックを起こしているようで、青ざめた顔で必死にその手を振り払おうとする。
「いや!離してくださっ、わたし……っ」
「話をさせてください!何故突然逃げるのですか!」
常にないほど焦った表情でロードラーザ様は叫ぶように問う。
その声に気圧されたのか、シルカは怯えたようにびくりと震える。
シルカが固まったことで、その場に静寂が訪れる。
ロードラーザ様は、軽く呼吸を整えて、今度はゆっくりと質問し直した。
「……教えてください。あなたは、何に怯えているのですか」
おそらく、見当はついているのだろう。
それでもあえてシルカ自身の口から説明させるためにいかにも真摯そうな顔をしているあたり、性根が腐っていると思う。
シルカの、どこか焦点の合わない彷徨うような視線が、ロードラーザ様にぴたりと合わさる。
「……わた……しは……」
シルカは震える声で囁くように言った。
「貴方のことが……わかりま……せん……」
「……シルカ?」
迷子のような顔をして、シルカはゆっくりと言葉を紡ぐ。
「貴方は……いつも私を助けてくれて……優しくて……強くて……頭も良くて……でも」
シルカの言葉がどう続くのか、それを見極めようとするかのようにロードラーザ様は彼女を見つめる。
「でも……貴方はどこか、遠い……本当の自分を、隠してるみたいに」
私はすぐにロードラーザ様の表情を伺った。
案の定、「まずい」という顔をしたロードラーザ様はやや引きつった口元を緩めようと苦心していた。
「分かってます……分かってました……私じゃ、だめなんですよね。あの子の隣にいるあなたはすごく自然で……とても、お似合いだと思います」
「ま、待ってくださいシルカ」
「ぴょん太くんも、お返しします。私がこれ以上触れていたら……汚れちゃう」
『ぴょん太くん』と呼ばれたいつかロードラーザ様が魔力を注いでいた魔物が、震える手で差し出された。
そういえばどこへ行ったのかと思えば、シルカに預けていたのか。
魔物はシルカを見上げ、戸惑うような様子を見せたが、やがて大人しくロードラーザ様の足元に座った。
「シルカ!」
ロードラーザ様はそんな魔物を見もせずに、シルカの腕を掴む。
その表情には、もはや余裕も取り繕った笑顔もなかった。
「違います!全ては貴女の勘違いで……隠していてすみませんでした。私、私は……貴女のことを」
彼が何を言おうとしているのかは、当事者でない私にも分かった。
ついに、言ってしまうのか。
一人固唾を呑んだ私をよそに、彼の言葉は彼女に強く遮られる。
「だめ!」
シルカは、青ざめた唇を震わしロードラーザ様にすがりつく。
「だめ……です……違います……今は、なんで、だめ……!」
「シル、」
「だめ、やめて、なんで今、効かないで……!」
両手で耳を塞いで首を振るシルカは、尋常ではない。いつかの、突然様子の変わった彼女を彷彿とさせる。
シルカは、揺らいだ瞳のまま笑みのようなものを浮かべようとした。
「は、ハルド様……私たち、お友達ですよね……?魔法を教えてくれて、魔物を貸してくれて、げーむじゃなくて、自分の意思で動いて……」
ロードラーザ様は、はっと目を見張った。
次いで、私も察しがつく。今の彼女に本心を伝えても、それは全て彼女の魔法のせいだと思い込んでしまうだろう。
彼は少し俯いてから、顔を上げて見たこともないほど柔らかく微笑んだ。
「勿論。大切な友人だと思っていますよ。だから、それほど自分を卑下しないで。私は人に自分の話をすることが苦手なんです。壁を作っていると誤解させてすみませんでした」
「……」
シルカはふうっと憑物が落ちたように安らかな顔になった。そしてやや口元を緩めてから、気を失った。
黙ってそんな彼女を支えた彼は、ため息をついて面倒そうに声を発した。
「……野次馬するにしてももう少し上手く隠れてくれませんかね、そこのお二人」
やっぱり分かっていたか。
渋々立ち上がりつつ、二人という言葉に引っ掛かりを覚え辺りを見回すと、振り返った先にキューズロンダ様がいた。一体どこにいたのか。
流石にその無表情に気まずそうな色が見える。
「妙な同情や気遣いは無用ですよ。……分かっていたことです」
ロードラーザ様は軽く鼻で笑うと、シルカをそっと抱き上げた。
まるで花でも扱うかのように繊細な動き。
彼女を大切に思う気持ちや執着や執念やらが伝わってきてとても気持ち悪い。
それに……捻くれすぎている。
傷ついているなら、素直にそれなりの態度をすべきだろう。
私もキューズロンダ様も、かける言葉が見つからず黙って彼らの姿を見ている他ない。
ロードラーザ様はぱちりと指を鳴らした。
シルカでも抱えられる程度の大きさだった魔物が煙めいた闇を纏い、その身をぐんぐんと大きくする。
魔物が、吠えた。
素早くその背に飛び乗ったロードラーザ様は、シルカを抱えたまま、何かを唱える。
もう一度吠えた魔物と共に、彼はその場から掻き消えるように去ったのだった。
一ミリも話が進まなくてすみません。そろそろ王子視点を書きたい。




