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鋼鐵の女豹  作者: 月野原行弥
第五章
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交差する思惑

(どうにも解せません。なんで撃ってこないのでしょうか……?)

 あの甲冑娘が斎司郎とキューベルちゃんの跡を追えないよう礼拝堂の出入り口付近の瓦礫に身を隠したパンテルちゃんは首を捻っていた。

(その気になればこんな瓦礫を粉砕するくらいソ連兵(イワン)の手を捻るくらい造作ないことのはずです。撃ってこないのではなく、なにか撃てない理由があるのかもしれません)

 瓦礫の影からそっと目だけを覗かせて相手の様子を窺ってみた。甲冑娘は床を踏み抜いたところからそのまま動いていなかった。

(さすがです。まぁ、考えてもみれば新兵なんかがあれに配属されるはずがありませんでしたね……)

 甲冑娘はこちらへ身体の真正面ではなくやや(はす)に構えて立っていた。かなり熟練している証拠だった。

(もしかしたら、もう弾切れなのでは……?)

 あの甲冑娘の正体が自分が考えている通りだとしたら主砲の砲弾搭載数は92発のはず。自分は79発しか積めないのに自分より大きな主砲弾をもっと多く積めるとはどこからどこまで手強いのかと愚痴をこぼしたくなってくる。

(しかし、わたしと同じだとしたら弾切れだという可能性はまず考えられません)

 実際に砲弾があるわけではないがなん発撃てるかは自分でわかる。そしてお腹が空くにつれて撃てる残弾数は減ってくるが、食事を摂って満腹になれば発射可能な回数も回復される。

(初めから相撃ち狙いでいけばなんとかなるはずです。今回はしろ殿を逃がすという大きな目的があります。あのときとは違ってやるだけの価値はあります)

 むざむざ撃破されるつもりもなかったが、援護もなしで無傷で勝てるような甘っちょろい相手でもない。

(こういうときはこの国では「褌を締めてかかる」というのでしたね。そういえばキューベル殿が褌姿を見せてあげたらしろ殿がきっと喜ぶといっていました。生き残れたら実行してみることにしましょう)

 斎司郎が知ったら顔を真っ赤にして否定するに違いないことを心に誓ってパンテルちゃんは相手と間合いを詰める隙を窺った。



(―――し、しまった……。撃ってきたので思わず撃ち返してしまった……)

 敵に覚られないよう努めて顔にでないようふるまっていたが、甲冑の下では冷や汗がだらだらと滴っていた。ラジエーターが壊れて冷却水が漏れているかと思ったくらいだ。

(嚇しで機銃くらいなら目を瞑るとはいわれていたが主砲は絶対に撃つなとの厳命を受けていた。―――こ、これは上官に対する明らかな命令違反ではないか!?)

 甲冑娘は内心で顔を真っ蒼にしていた。

(そうでなくとも厳しいのにどんな厳罰に処せられてしまうか……)

 考えただけでも恐ろしさのあまり身体が震えそうになってくる。V十二気筒エンジンが最大回転数を超えてベアリングが壊れるのではないかと思えるくらいばくばくいっている。

(もうじきやってくる時間だ。なんとかあいつらを追っ払ってなんとか取り繕わねばわたしの身が危うくなってしまうぞ……)

 甲冑娘は主砲を使わずにどうやって相手をここから立ち退かせることができるか必死になって考え始めた。

 

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