表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
86/89

85 転移

遅くなりましてすみません。風邪が治らず、尻が大噴火しました。しばらく溶岩がおさまりませんでした。今は二次災害でくたばっています。

 植木家現当主、植木一京の部屋。


 そこは古い紙の匂いと、インクの匂いが充満する、レトロな洋室。


 壁にある物は全て本棚で、空いている隙間はどこにもない。


 すべて、妖精や魔法に関する本で埋め尽くされていた。


 部屋の中央には執務机があり、その机の上には家族が映った写真立てが並んでいる。その写真の一つには、幼い信を抱いた、一京の姿があった。


「本当に信君を当主に据える気なのですか? 私は反対です!」


 執務机を挟んで、使用人の弥生は一京に意見していた。信を当主に据えることに対して、反発している。


「弥生。信のことはまだ分からない部分があるのは確かだ。だが、私の竜を倒したのだろう? 信が操るスライムの力は、本物ではないのか?」


「きっと何かの間違いです。当主のドラゴンがスライムに負けるなど、ありえませんです」


「しかし、あいつはスライムに負けたと言っていたぞ。ポチから念話で聞いた」


「うっ、それは……」


「別働隊の蓮からも信の報告を聞いているし、なにより、ティアと言うスライムには見覚えがある」


「ティア? あの水色のスライムですか?」


「そうだ。あれは昔、イギリスで話題になったユージーンというハンターの従魔だ。私も一度、ユージーンとは会ったことがある。その時にあのスライムを見た気がする。底知れぬ力を持ったスライムだった。どうして信と一緒にいるか分からんが、信が連れてきたのは間違いない。きっと、ユージーンと信は繋がっている」


「ではなおさら、あのスライムたちを信用するわけには!」


「ユージーンは信用できる男だ。一度しか会っていないが、奴は強く義理堅い。もしもティアを信の護衛に回したのであれば、信もハンターとしての人脈を築いているということだ。喜ばしいことではないか?」


「私にはそれが正しいこととは思えません」


「酒の席では信との仲を修復するために羽目を外したが、私は冷静だ。さすがに信をすぐに当主には据えんよ。だが、スライムたちは本物だ。あれからは、神気を感じる。分かってくれ弥生」


「…………分かりました」


 頭を下げて、一京の部屋を出ていく。


 弥生は歯ぎしりをして信を恨むが、どうにもならない。もともと、男子が当主になるのがしきたりだ。弥生では当主になれない。何らかの理由で一京が死なない限り、今の体制は崩れない。


 弥生はイライラしながら屋敷の廊下を歩いていると、信を見つけた。ポポを抱いて、別棟に向かって歩いている。


「この時間に別棟へ? やはりあのホムンクルス、何かあるのですか?」


 詳しい事情を聞かされていない弥生は、ホムンクルスのことは分からない。何か信の秘密を握れないかと、弥生は後を尾けることにした。


「ポポ、一応言っておくけど、カレンさんとは結婚しないからな。俺にはポポしかいないから、安心してくれ」


 ポポは新しく生えたタンポポを整えながら、信に向かって触手を伸ばす。信はその触手を掴んで、ムニムニと弄る。


 ポポと戯れるのは好きだし、愛してもいるが、やはりスライムだ。


 信も若い男の子。カレンと結婚する気が無くとも、あんな巨大な乳を毎日近くで揺らされるとたまらないものがある。

 

「なぁポポ。人になれる魔法って使えるか? スライムって人間に変身できないのか? ティアは出来るだろ?」


 ポポはそのセリフを聞いて、信に念話を飛ばす。


 練習中なのよ! 


「え? なに? 今なんて?」


 だから練習しているのよ! 人化の魔法を!


「なっ! れ、練習中!? 初めて聞いたよ!? もしかしてポポも人間になれるの!?」


 出来るけど、今は無理なの!


「そ、それはいつ出来るんだい!? 出来ることなら早々にお願いしたいのだけど!!」


 信の脳内はピンク色だ。ラブホテルはどこが良いだろうとか、そんなことしか考えていない。とてつもなく最低な男である。


 ポポも信の性的欲求は勘づいている。信も若い男だし、このまま独り身はきつい。下手をすればどこかの女とくっつく可能性もある。それだけは避けたい。


「ねぇポポ。いつぐらいに出来そうなんだい!?」


 年内中には出来るようになるのよ! 期待して待っているのよ!


 ポポはビシッと触手を上げて応える。


「ね、年内中!」


 信は鼻の穴を広げて喜ぶ。この男の脳内は、性行為一択しない。


 女の子に対して性行為しか考えていない信は論外だが、それでもポポは、信が好きなのである。


 どんなにエロいことをされても、ポポは耐えられる。それくらい信が好きなのである。


 ポポは触手を伸ばして信の頭をナデナデする。


 そこで信はハッとなった。


「あ、え、えーと。ご、ごめんポポ。ちょっと俺どうかしてた。今のは無しだ。ポポが人化出来たら、デートに行こう。ポポが行きたい所全部、デートに行こう」 


 信は冷静さを取り戻し、ポポを抱きしめる。性行為よりも大切なことを、信は思い出した。


 いつかの約束を、果たすのだ。


 それに気づいたポポも、触手を伸ばし信を抱きしめる。


「ありがとうポポ」


 気にしないから大丈夫よ。


 二人は抱きしめあって、ラブラブイチャイチャである。



 そこを、一人の女性が覗き見ていた。



「うわぁ。なんですかあれは。信君とあのスライム。どうなってるんですか? まさかスライムと本当に出来上がってるんですか?」 


 屋敷の通路のど真ん中。そこで恥ずかしげもなくスライムと抱き合う信。弥生は壁に隠れてその様子を見ており、ついに信が狂ったと思った。


「スライムと愛し合うなんて、どうかしてます。あんなのが当主になったら、この屋敷がスライムで埋め尽くされます」


 弥生はポポと抱き合う信を見て、恐怖する。


 何をやっているんだと呆れながらも、弥生は信の後をついていく。かなりの時間がかかって、ようやく千景の寝ている医療室に到着する。無駄なイチャイチャシーンを見せられ、弥生はげっそりである。


 信が医療室に入っていったところで、弥生も隠れて入ろうとした。


 だが。


 問題が起きた。


「い、いないぞ!! 千景がいない!!」


 ベッドの上はもぬけの殻。千景がいない。


「逃げたのか!? あんな状態で!?」


 ポポも千景の姿を探すが、どこにもない。医務室の中はそれほど広くない。大型の研究機材は多くあるが、隠れる場所はない。


「くそ! きちんと拘束しておくんだった! まさか歩けるレベルまで回復しているとは!」


 ベッドの下や機材の裏、空調設備のなかまで探すが、いない。


 信とポポは大失態を犯した。慌てて外に探しに出ようとした瞬間、千景は突然現れた。


 ベッドの上に、前触れもなく現れた。


「え!? 千景!?」


「残念ね。逃げてなどいない。ずっとここにいたわ。透明化の魔法を使って姿を隠していたの」


「は!? なんでそんなことをする必要が、って、え?」


 信は千景に腕を掴まれていた。いつの間にか、腕を掴まれていた。


「あなたのおかげで魔力が回復したわ。ありがとう。でもね。あの人は死なせたくないの。だから、一緒に来てもらう」


 掴まれた腕から、千景の魔力が流れ込んでくる。信の体が、千景の魔力に浸食され始めた。


 まずいと思ったポポは、咄嗟に触手を伸ばし、信の足にしがみ付く。ポポも一緒に千景の魔力に浸食され、そして。


「ちょうどいいわ。スライムも一緒に来てもらう。空間転移ジャンプ!」


 一瞬光り輝くと、信と千景、ポポは消える。医務室から、こつ然と消える。


 異変に気付いた弥生が医務室に突入するが、すでに信たちの姿は無い。すぐに魔力の追跡を行うが、空間転移の追跡は特定が難しい。座標を割り出すのに、時間がかかる。


「しまった!!」


 失態を犯したのは弥生も同じ。信とポポを連れ去られた。どこに連れて行かれたかは分からないが、敵のアジトだと大体推測が出来る。


 そうなると、信が殺される。確実に、生きては帰れない。


 弥生的には、信が死んでくれた方がメリットがある。それは分かっているが、本気で死ねだなどと思っていない。今は仲が悪いが、弥生も子供の頃、信と遊んだこともあるからだ。


 第一、現場に居合わせて知らないふりをしておくなど、不可能だ。鑑定魔法などいろいろ使われたら、必ず証拠が出て、バレる。


「最悪だ!!」


 弥生は頭を掻きむしると、一京の元へ走った。


   



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ