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83 エヴァのダンジョン探索

 エヴァとバネッサは、ギルドマスター俊也の直属の部下である。とくにエヴァは単独で動きやすく、ダンジョンでのソロ探索が得意だ。


 彼女たちは俊也の命令で即座に動ける機動部隊のようなものである。


 現在、俊也はクランルーム突入の捜査令状を取っている最中だ。なので、エヴァはギルドでやることが無い。ゆえに、ダンジョン探索の命令を下された。


 もちろん、やみくもに探索するのではなく、地下8000メートルを超えたデスゾーンを探索するのだ。ここは未踏のエリアが多い。危険なエリアだが、隠れるならもってこいの場所だ。


「ワイバーンの暴走に、アシッドスライムの暴走。どうやったか分からないけど、信たちを襲う、謎の組織も気になる」


 エヴァはキラーウルフという真っ黒い狼に跨り、ダンジョン内を駆け抜ける。かの魔物は空間魔法の使い手。四肢に魔力を纏わせ、重力を無視してダンジョンの通路を颯爽と走り抜ける。


 無駄な戦闘は避け、エヴァとキラーウルフは、ただただ探索を続けた。


「きっと、奴らのアジトがどこかにあるはず」


 地上は地上で聖騎士たちが動いている。推測でしかないが、敵の本拠地はダンジョンにある可能性が高い。しかも魔素濃度が高いダンジョンなら、ホムンクルスの方が動きやすい。魔素症に冒されることがないからだ。


「ふうむ。どこにもない。やはり、階層を閉じて隠したか。それとも、廃棄階層を見つけたか」


 いずれにせよ、信を襲った奴らはどこかにいる。それがここのダンジョンかは分からないが、可能性が高いのはここ以外にない。


 エヴァはキラーウルフに乗って、さらに下へ向かった。


 ダンジョンの深層はきちんと整備されていない。岩だらけで、狭い通路や入り組んだ地底湖がたくさんある。魔素が液化して沸騰し、水蒸気となって噴出しているエリアもある。まさに、地獄のような場所だ。


「キー君、大丈夫?」


 エヴァはキラーウルフに大丈夫か尋ねた。


「グルルル」

 

 キラーウルフは唸ってこたえる。まだまだ大丈夫だと言っている。キラーウルフはもともと深層の魔物だ。体力も並外れているし、この程度の環境は屁でもない。


「さすが深層に君臨する魔狼」


 エヴァはキラーウルフの背中に抱き着き頭をなでる。帰ったら、大盛りビーフジャーキー丼をプレゼントしようと思った。


「ふうむ。ここに来れるハンターはごくわずか。やはり依頼を出すのは無理があるか」


 ギルドの経費で、敵のアジトを探す依頼を出してもいい。ただし、地下8000メートルを超える場所の探索は、ごくわずかなハンターしか出来ない。莫大な経費が掛かるのは目に見えている。


「やはり私しかいない」


 エヴァはキラーウルフに魔水を与え、さらに深い場所に潜っていく。迷路のように入り組んだ洞窟を、風のように駆け抜けるキラーウルフ。探索速度は、人間の比ではない。危険な魔物をかわしつつ、下へ下へと走り続ける。


 道なりに一直線で走り続けると、突然行き止まりにぶつかった。通路が巨大な岩でふさがっている。エヴァなら岩を破壊することは可能だが、天井が崩落するかもしれない。ダンジョン内は地盤が安定していないので、破壊は危険を伴う。一旦引き換えして別の道を行こうと思ったが、下へと続く穴を見つけた。キラーウルフが入れるギリギリの大きさだ。


「行こうキー君」


「ウォン!」


 エヴァとキラーウルフは、臆せず穴へ飛び込んだ。ブラックホールのような穴に、エヴァとキラーウルフは吸い込まれていく。


 飛び込むと、その穴はとても深かったのか、一気に1000メートル以上は落下する。まるでスカイダイビングのような落下である。エヴァは急激な気圧と魔圧の変化に対応するため、魔法を使用して耐える。


「キー君! 対ショック魔法!」


 エヴァの命令で、キラーウルフは空間魔法を使用。地面が近づいてきたので、着地の衝撃をゼロにする。


 穴の底へゆっくりと降り立つと、エヴァは言った。


「空気が凍っている。すごく冷たい」


 降り立った階層は氷雪エリアで、気温はマイナス80度に達した。吐く息は瞬間的に氷になり、肺が一気に凍りつく。


「キー君大丈夫?」


「グルッ」


 キラーウルフは環境の変化に強いので、この程度の気温差では動じない。エヴァは耐久温度ギリギリだが、何とか耐えている。


「ここで生きる魔物は厄介」 

 

 氷雪エリアは大型の魔物が多いので、さすがのエヴァも手を焼く。あまり長居も出来ないので、さらに下層へ向かう穴を探していると、エヴァが一つの死体を見つけた。誰にも見つからないように、ひっそりと氷の中に埋もれた死体だった。


「遭難者?」


 エヴァは一瞬、ダンジョンで死んだハンターかと思った。


 キラーウルフから降りてゆっくりと近づいたが、それは違った。見つけた死体は全裸で、装備物はゼロ。しかも食い荒らされた形跡はなく、死体に傷はなかった。ただ、手術痕が体中にあった。


「まさか、この死体は」


 エヴァは氷の中から死体を掘り出すと、状態を確認。人形のように凍り付いていたが、エヴァには分かった。


「なぜここにホムンクルスが遺棄されている?」


 無造作に捨てられているホムンクルスを、エヴァは魔眼で解析。すると一つの事実が判明した。


「素体は人間か」


 通常、ホムンクルスの製造自体禁忌だが、人間を使った製造はさらに邪悪さを極める。


 ホムンクルスは人工の子宮を使って生み出す。エリクサーから作り出した“羊水”を使用し、命を吹き込んで創る。余談だが、ポポの頭に生えているタンポポはエリクサーの一種だ。ポポのタンポポは存在するだけで違法レベルの品だ。


「人間をホムンクルスに変えた? まさか、敵のホムンクルス?」 


 近くを見渡すが、氷柱に満たされた洞窟が広がるだけだ。青い氷が、剣山のように突き出ている。天井は高く、氷原しか見えない。生き物の姿は、今のところない。


 エヴァは何らかの理由があると思い、その死体を持って帰ることにした。キラーウルフの背中にロープでくくりつけ、落ちないように固定する。


「うーん。何もなければいいけど」


 エヴァはそのホムンクルスを見て、不安がよぎった。


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