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50%の詩  作者: オクト
14/15

終章「雨が動き出す」

雨は、まだ落ちていなかった。

境界の扉が閉じたあと、世界は一瞬、呼吸を止めたように静まり返った。

律は立ち尽くしていた。

肩に何も戻らない重さが、骨まで染み込んでいた。

灯が隣にいた。

その灰色の瞳は、淡い光を宿していた。


「終わったわけじゃない」


その声は、遠くで響いた。


「でも、選択は済んだ」


律は視線を落とした。

足元で、雨粒が震えていた。

静止していた粒が、わずかに揺れる。

その揺れが、世界の脈動を告げていた。


「……湊は」


律の声は、雨に溶けて消えそうだった。

灯は静かに答えた。


「彼が選んだ。それだけ」


律は息を呑む。


「戻ったのか、残ったのか」

「答えは、あなたの胸にある」


灯の声は淡々としていた。


「境界は、選択を刻むだけ」


御厨の影は、もうなかった。

彼が置いた未来は、光に溶けて消えた。

その代償が、境界を閉じた。

救いか、破滅か――答えはまだない。

律の胸に、湊の声が残っていた。


兄貴。

迎えに来てくれ。


その言葉が、雨に溶けて消えた瞬間を、律は忘れない。


カチ、カチ――。

メトロノームの音が、遠くで逆流するように響いた。


その音が、律の耳に崩れ込む。

時間が、再び動き出す。

雨粒が、一斉に落ちた。

静止していた世界が、音を取り戻す。

その音は、選択の余韻を刻んでいた。

律は顔を上げた。

空が、灰色に染まっていた。

その灰色が、現実の色だった。

灯が歩き出す。

その背中は、淡い光を帯びていた。


「行こう」


律は頷いた。


「……俺は、まだ分からない」

「分からなくていい」


灯の声は、雨に溶けて消えた。


「選んだことだけが、確かだから」


御厨の声は、もう聞こえない。

でも、彼が置いたものは、律の胸に残っていた。

未来を置くという選択。

それが、境界を閉じた。

その代償を、律は忘れない。

湊の影も、もう見えない。

でも、彼が選んだ瞬間は、律の骨に刻まれていた。

戻ったのか、残ったのか。

その答えを、律は探し続けるだろう。

雨が、ふつうに落ちていた。

その音が、世界の呼吸を告げていた。

進むのが地獄でも、それは救いでもある。


希望と絶望は、次の一歩の両輪なのだ――。


律は歩き出した。

雨粒が、肩に落ちる。

その冷たさが、現実の証だった。

境界の光は、もうない。

でも、その余韻が、律の胸で脈打っていた。


「灯」


律は小さく呼んだ。


「……ありがとう」


灯は振り返らなかった。

ただ、雨の中で静かに笑った。


カチ、カ…――。

メトロノームの音が、遠くで消えた。


その消失が、選択の終わりを告げていた。

律は、静かに息を吸った。

そして……雨の中へ、歩き続けた。

読んでくださりありがとうございます!

面白かったらブックマークや感想をいただけると、とても励みになります。


ラストエピローグも、ぜひご覧ください。

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