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「で、世界一の魔法使いは何処にいるの?」
暖かい応接室に通され、さらに料理長自慢の甘菓子とナッツの香のするお茶を出されて、すっかり機嫌をなおした少女は、上品に菓子をたいらげてからそう言った。
「一体どんな用で、その魔法使いに会いたいんだ?」
菓子には手をつけず、普通のお茶をすすりながら魔法使いは尋ねた。
少女は何度も『世界一の魔法使い』と言っているが、具体的なことは何も言わない。その魔法使いが誰をさしているのか知るためにも、何か手がかりが欲しかった。
「んー、それは本人にしか言わないわ」
少女はつんと横を向く。
「それじゃあお前の言う魔法使いが誰か分からないだろうが。この城には何人も魔法使いがいるが、『世界一』なんていう大それた事を言うような奴はいないぞ」
「嘘、あたしちゃんと聞いたわよ。この城には『世界一の魔法使い』がいるって」
「だから、せめて何をしたいのか言えよ。それが分かれば誰のことか分かるだろ。ここにいる魔法使いは皆力はあるが、得意不得意はあるからな」
「得意不得意って・・・」
ダンッとテーブルを打って、少女が立ち上がった。
「あたしの願いはそんな簡単なものじゃないのよ。得意不得意があるようなただの魔法使いに用はないの。あたしの願いは『世界一の魔法使い』じゃなきゃ、絶対無理なことなのっ!」
またもやその勢いに押されて、魔法使いはまたもおされ気味になった。
「分かった・・・分かったから、ちょっと落ち着け。な、名前は?」
目を血走らせる少女をなだめようと、とりあえず思いついたことを口にする。
「この城にいるってのが分かるんだから、名前くらい知ってるんだろ?」
「・・・」
少女は目をパチクリさせた。
まるでそのことに今思い当たったと言う表情だ。
「ま、まさか」
「・・・そう言えば、知らないわ。名前、聞かなかったもの」
へへへ、とさっきの勢いは何処へやら、笑顔でそう頭をかいた。
とんとソファに座り込みがっくりと肩を落とす。
あまりにもかわいそうなその姿に、魔法使いも無言になった。
しかし、いつまでもそうしている訳にもいかない。必死で言葉を捜し、口を開きかけたとき、扉がひらいた。
「王っ!」
入ってきた人物に魔法使いが立ち上がる。
魔法使いより一回りは年上だろう。風格と気品を漂わせながらも、王を呼ばれた男はにこにこと笑いながら、近づいてきた。
「今は執務中の筈じゃ・・・」
「休み時間だよ、小姑君。・・・まあ、お前に女の客が来たなんて話を聞いたら、何をしてても見に来るけどね」
面白そうに王は魔法使いを見た。興味津々なのを隠そうともしないで、こそこそと耳打ちする。
「紹介しろよ。どこでこんなかわいいお嬢さんを見つけてきたんだ?」
「そんなんじゃ・・・王じゃあるまいし」
「王っ!」
唐突に、少女が立ち上がっり、ずかずかと王に詰め寄った。
落ち込んでいたはずの少女は、さっきの勢いをすっかり取り戻している。
さすがの王も一歩後退さった。
「な、何かね?」
王はひくつきながらも、ようやくそう尋ねた。
少女は襟首を掴まんばかりにさらに近づいて、瞬き一つせず王を見つめる。
そして、一言。
「貴方の魔法使い、あたしに貸してくださいっ!」