~天使は舞い降りた~
「貴方が魔法使い?」
それは、北国の冬には珍しく春のような日差しが降り注ぐ日だった。
煮詰まった頭を冷やそうと庭に出た魔法使いは、少女の声に辺りを見回す。
「上よ、上っ!」
少し怒ったような言葉の後、パサリという音とともに魔法使いの頭上を影がよぎる。
驚いて空を見上げると、何かが頭の上を飛び越してゆったりと舞い降りてくる所だった。
背後に降りた何かを追って魔法使いも振り返る。
「よいしょっと」
肩にかかった腰まである茶の髪を払って、少女は微笑んだ。
どこかの宝石のように青い大きな瞳がきらきらと輝き、整いすぎた顔立ちをほんの少し柔らかな印象に変える。
いまだかつてない程綺麗な少女の登場に、魔法使いはただただ見とれていた。
「何? 何か顔についてる?」
まじまじと見つめる魔法使いに、少女は眉をよせて一歩踏み出す。
迫力に思わず後退りしそうになるのを、魔法使いは必死にこらえた。
まだ子供の域を出ていない少女に気おされるなんてプライドが許さなかった。
「貴方が世界一の魔法使い?」
少女はそう首をかしげた。
魔法使いも首をかしげた。
世界一の魔法使いなんて、聞いたことがなかった。
「・・・にしては若いわね。もっと年寄りよね、きっと。なんてったって世界一の魔法使いって話だもの。・・・ああ、貴方、お弟子さんね。なら、取り次いでくれるかしら、世界一の魔法使いって方に」
少女はさらに瞳を輝かせて、魔法使いにつめよった。
世界一の魔法使いが誰のことなのか、魔法使いにはさっぱり分からなかった。
城には確かに数人の魔法使いが存在しているが、『年寄り』に見えるような者はいないはずだ。皆見た目と同じとは限らない。
実際年齢を尋ねれば確かに『年寄り』といえる者もいるだろうが。
「それにしても、世界一の魔法使いっていうから、どんなに凄いかって期待してたのに、私みたいなのも入れる結界しか作れないなんて、がっかりだわ」
少女の突然の出現に声も出せずにいた魔法使いも、さすがに内心ムッとした。
結界を貼ったのは少女の前にいる魔法使いなのだ。悪意ないものには害なきよう細心の注意を払って作り上げた結界なのに、そんな風に言われてはこの王城の最高位を頂いている魔法使いの面子は丸つぶれだ。
魔法使いは、少女に聞こえないよう鳥寄せの魔法を呟いて、よそゆきの笑顔を顔にはっつけた。
「わが王の害にならないものは遮る必要がない」
その言葉の間に小さな鳥が数羽現れて、2人の周りをくるくると飛び回り始める。
魔法使いはゆっくりと片手を天へ持ち上げて、小鳥を1羽その手に呼び寄せた。
小鳥は、白い羽を嬉しそうに羽ばたかせて黒い衣装に舞い降りる。
小鳥が手の上ですっかり寛ぐのを待って、眉を寄せ唇をかむ少女を見た。
どうやら嫌味は通じたらしい。
魔法使いは上機嫌に、さらに微笑んだ。今度は心からの笑顔だ。
「君は、この鳥と同じで、まったく害がないだろう?」




