旅行2日目
宿泊地を出たボクたちは、今日の目的地へ。
目的地はダイフク城です。
ダイフク城までの道中、バスの中、メイドさんがダイフク城についてを教えてくれました。
「歴史の街の防衛の要として作られたダイフク城は、今では軍事的な側面を失い、立派な観光地として街に君臨しています!」
メイドさんの説明は少しだけ早口です。
「最初のお城が作られたのは、メドフ国王の時代、約1500前です! そこから増改築が繰り返され、今の姿になったのはサツキ女王の時代、410年前です!」
さすがは歴史の街の象徴であるお城、長い歴史があります。
おかげで、メイドさんの解説も長く続きました。
メイドさんの解説がようやく800年前に差し掛かった頃です。
ボクたちはバスを降りました。
バス停から見えるのは、白壁が美しい4つの塔。
それこそがダイフク城です。
「「おお~」」
「尖塔から眺めたときも大きいと思いましたが、こうして目の前で見ると、とても荘厳なお城ですね」
「早くお城の中に行こうよ~」
「はい! ご主人様、行きましょう!」
メイドさんと魔術師さんに引っ張られ、ボクたちはお城の中へ。
元は軍事用に作られたお城です。
兵士が攻め込みにくいようジグザグに作られた廊下を、ボクたちは進んでいきます。
廊下を抜けると、大砲が置かれていたであろう広場が。
広場に面したお城の正面玄関は、カラフルな旗と、各時代の甲冑で飾られていました。
「見て見て! 大昔の魔法の杖だよ!」
「これは400年前のメイド服ですね! かわいいです!」
「大昔の各領主の日記があります。内容は……他人事とは思えません」
観光地として整備されたお城は、まるで博物館のようでした。
ボクたちは飽きることなく、お城を巡ります。
国王の部屋、玉座の間、食堂——。
家具や王冠、食器類に古文書——。
貴重な品の数々に、ボクたちは心を奪われていました。
数時間は経っていたでしょうか。
お城の見学に夢中だったボクたちは、気づけばお城の地下にやってきています。
「なんだか暗いですね」
「もしかして、観光ルートから外れた場所に迷い込んじゃったのでしょうか?」
「そうかもしれませんね」
「じゃあ、急いで戻らないと——」
そう言ってメイドさんが踵を返そうとしたときです。
魔術師さんが地下の奥を見つめます。
「向こうに誰かいるよ」
「あ! 待ってください魔術師さん!」
駆け出した魔術師さんを追うボクとメイドさん。
お城の暗い地下は、意外にも汚れひとつありません。
綺麗な地下を、ボクたちはどんどんと進んでいきます。
しばらく進むと、広い空間に出ました。
「いた!」
足を止めた魔術師さんの言葉。
広い空間には、2人の人影がありました。
1人は黒いマントを、もう1人はボロボロの甲冑を着ています。
「この吸血鬼野郎! ここで叩き斬ってやる!」
「落ち武者の分際で我輩を斬るだと!? フン! 笑わせてくれる!」
どうしたことでしょう。
真っ白な顔をした吸血鬼さんと、長い髪を乱雑に垂らした落ち武者さんがケンカをしています。
落ち武者さんはよほど怒っているのか、折れかけた刀を振り回していました。
対する吸血鬼さんは、ヒラヒラと刀を避けています。
刀を避けられ、落ち武者さんはさらに激昂。
ケンカが収まる気配はありません。
ここで、優しいメイドさんが叫びました。
「ケンカはストップです!」
「「ああ!?」」
「ふわわ、ごっ、ごごご、ごめんなさい!」
吸血鬼さんと落ち武者さんに睨まれ、ボクの後ろに隠れるメイドさん。
ついでに魔術師さんもボクの背中に隠れました。
仕方がありません。
「あの、何かあったのですか?」
メイドさんたちに代わって質問するボク。
すると落ち武者さんは、堰を切ったように話し出します。
「聞いてくれや! この吸血鬼野郎、拙者のカメラに傷をつけやがったんだ! そのくせ、謝りもしねえんだぞ! たった一言、ごめんなさいとも言わねえんだ! ふざけてやがる!」
迫る落ち武者さんに、ボクは思わず仰け反ってしまいました。
さて、落ち武者さんの背後では、吸血鬼さんが両手を持ち上げます。
「やれやれ、カメラに傷がついたのは不幸な事故だ。我輩が謝る必要はなかろう。それに、修理代は我輩が払っても良いと言ったではないか。なおも不満か?」
「なんだと!?」
吸血鬼さんの言葉に、落ち武者さんは怒り爆発。
「てめえと肩がぶつかって、その衝撃でカメラを落として傷がついたんだ! 謝れ!」
「肩がぶつかったことは謝っても良いが、カメラについては知らんな」
「ふざけんな! 謝れ!」
「カメラの修理費を出す。それで良かろう」
「よくねえよ!」
困りました。
吸血鬼さんも落ち武者さんも、自分の主張を譲りません。
魔術師さんは小声で言いました。
「なんだかめんどくさそう。ペペロッペ卿、あの人たち、ほうっとこうよ~」
その方が良いかもしれません。
メイドさんも魔術師さんに賛成なのか、何も言いません。
だけど、ボクは一歩だけ前に出ました。
続けて口を開きます。
「吸血鬼さん、落ち武者さん」
「「ああ!?」」
「カメラはまだ使えるのですか?」
「まあ、機能的には問題ねえよ」
「ではカメラの傷は一旦忘れて、2人で一緒に写真を撮りに行ってみてはどうですか?」
「「はあ!?」」
面を食らったような2人。
ボクは続けます。
「これは単なる提案です。受け入れられなければ、無視してくれても大丈夫です」
言いたいことはここまで。
後は踵を返し、お城の地下を去ります。
お城の大広間に戻ると、メイドさんが心配そうに言いました。
「さっきの2人、大丈夫でしょうか? またケンカがはじまってしまっていたら……」
「そのときはそのときです。彼らが自分たちで決めることです」
正直、そうとしか言えません。
それで良いと思います。
「さあ、観光を再開させましょう」
ボクたちはボクたちの旅行を続行です。
ダイフク城見学はまだ終わっていません。
そこでボクたちは、ダイフク城の見学を再開させました。
結局、ダイフク城見学は日が沈むまで続きます。
見学を終えれば夕ご飯です。
夕ご飯が終われば宿泊地に戻ります。
こうして、旅行2日目は静かな楽しみの中で終わりました。
めでたしめでたし。