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第四十八話 初クエスト・採取編

 あの後アイリーンに見送られた俺達は、薬草採取の依頼をするためにアッサムの近くにある森に来ていた。

 この森は『アッサムの森』と呼ばれているようで、危険な魔物が殆どいない事が有名であるらしい。


「さて、無事に着いたわけだが……」

《……すかー》

「まだ眠っているのですね」


 そう告げるとクリスティアは呆れたようにため息をついた。

 まあ、クリスティアの気持ちもわからないでもない。

 宿屋に寄ってツバキを取りにきたのは良いのだが、肝心の本人は起きていなかったのだ。

 一応ベリシュヌを布で包んでいるので、見た目が目立たないとは思うが……。

 何故クリスティアは俺を生暖かい目で見ているのだろうか?


「ツバキが寝言で声を上げなきゃいいけどな」

「あの、春……シュン様」

「どうしたティア?」


 首を傾げて俺が問い返すと、クリスティアは生暖かい目をしたまま背負っているベリシュヌへ目を向ける。


「シュン様はツバキが寝言を言わなければ目立たないと思っているのですよね?」

「まあ、そうだな。あの鮮やかな紅色の剣を見られたら大変だからな、布を巻けば大丈夫だろ?」

「……そもそも、謎の物体を背負っている時点で目立っていると思いますよ」

「ん? ……あ」


 改めて言われてみればそうだ。

 確かに布を巻いたお蔭で、ベリシュヌそのものを隠す事はできただろう。

 しかし、長剣サイズの物体を背負っている人として、逆に目立つ形になっている。

 あれ、じゃあ街で視線を感じたのはクリスティアを見ていたのではなく、意味不明な格好をしている俺を見ていたという事か?


「その様子だと気が付かなかったようですね。街の方々はシュン様へ怪訝そうな視線を送っていましたよ」

「ティアは気が付いていたのか!?」

「もちろんです、シュン様を観察するのが私の趣味ですので」


 そう告げると誇らしげに胸を張るクリスティア。

 そのドヤ顔が微妙に腹が立つとか、意味がわからない趣味をしているとか、色々と突っ込みたい事はあるけど。

 とりあえず俺としては、クリスティアの言葉からどうしてもジト目を向けざるを得ない。


「なんで教えてくれなかったんだ?」

「シュン様が抜けている場面を見るためです!」

「ぬ、抜けてないから!」

「普段の凛々しい姿も好ましいのですが、私としては偶にやらかす失敗に羞恥を覚えるシュン様が好きなのです! これがシュン様の世界で言う『ぎゃっぷ萌え』ですよね! ああ、シュン様の世界にいる『おたく』人と共感できます」


 そう呟いたクリスティアは、うっとりと頬を染めて熱い吐息を漏らす。

 ちょっと待て! 俺が抜けている──本当は認めたくないが──事は認めよう。実際に冬海や千秋に指摘された事もあるし。

 抜けている事に喜ぶクリスティアも充分納得がいかないが、なによりオタクと通じあっているのがまずい。

 というより、クリスティアがオタク化するのは嫌だ。

 ……リュックサックを背負って秋葉原へ向かうクリスティアの姿が目に浮かぶな。


「頼むからティアはそのままでいてくれ」

「そんな、ありのままの私を貪りたい等……頑張ります!」

「そんな事一言も言ってないだろ!?」

「そうですか、残念です。でも、私はいつでも『ばっちこーい』ですから!」

「……はぁ、薬草採取に行くぞ」

「依頼『でーと』ですね!」


 クリスティアが満面の笑みを浮かべると、そのまま軽快な足取りで森の奥へ向かっていく。

 その傍から見てもわかる上機嫌な背中を追いかけながら、クリスティアの横文字の応用力に人知れずため息をついてしまう。

 確かにクリスティアには俺の世界での言葉を教えているけど……使いこなすのが早すぎる。

 しかも、バッチコイやオタク等と微妙に使い道に困る言葉を使っているし。

 今は横文字を言う時は言葉に若干詰まっているが、その内使うのにも慣れていきそうだ。

 クリスティアに横文字を教えるのは早まった気がする……。


「お、薬草発見」

「こちらにもありました」

「これで薬草は全部集め終わったかな」


 そんな感じでクリスティアの発言内容を考えている間に、俺達は無事に薬草を二十束採取する事に成功した。

 そのままクリスティアから受け取った薬草を袋に仕舞った後、森の一角へ目を向ける。


「ゴブリンですよね?」

「ティアも気が付いたか。ゴブリンが三体に……ん?」


 俺と同じ方向を見ているクリスティアを尻目に、俺は新たに感じた気配に首を傾げてしまう。

 新たに感じた気配は二つで、どうやらゴブリン達を追いかけているらしい。

 ゴブリンを追いかけているという事から、その人達は初心者冒険者だろうか。

 そんな事を考えていると、森の茂みからゴブリン達が飛びだし、それに続いて二人の冒険者も出てきた。


「こらーっ! 逃げるなー! 大人しくあたしに斬ら──って、あんた達こいつらを止めて!」

「も、もう少し落ち着いてよエイミー!」


 ゴブリン達を追いかけていたエイミーと呼ばれた子……というより、先ほど出会ったばかりの彼女は、長剣を振り回しながら俺達へ叫んだ。

 後から息を切らして追随しているユアンを尻目に、俺は腰に靡いている武器屋で買った長剣を抜いて一閃する。

 脚を斬られて倒れ込むゴブリンを見てからクリスティアへ目を向けると、彼女は残りの二体の脚にナイフを投げて、地面へと縫いつけていた。

 動けなくなったゴブリン達を見たエイミーは満面の笑みを浮かべ、そのまま手に持つ長剣で首を刈り取っていく。


「うはははは! あたしから逃げた罰が当たったのよ!」

「エ、エイミー……」

「なあ、あいつって」

「先ほどの冒険者ですね。それにしても……随分と残念な表情になっていますね」


 さり気なくエイミー達から離れながら、俺達は小声で言葉を交わす。

 若干表情が引き攣っているクリスティアの言う通り、ゴブリンの死体に脚を乗せて長剣を天に掲げているエイミーの姿は、なんていうか凄く痛い。

 脳筋にアホの子に痛い子……あれだな。関わりたくないランキングがあればトップになりそうだ。


「すみませんエイミーが意味不明な行動をして。ゴブリンを代わりに足止めしてくれてありがとうございました」

「あんた達には助かったわ、ありがと!」


 ユアンが俺達に頭を下げると、エイミーもそれに続き無邪気な笑顔をこちらに向けた。

 どうやら少し頭が残念なだけで、根は素直ないい子のようだ。


「特に労力を使っていないから気にするな」

「次からは魔物を逃がさず、その場で仕留めてください。他の冒険者の迷惑になりますので」

「は、はは……すみませんすみません!」


 俺は特に気にしていないのだが、どうやらクリスティアは納得がいっていなかったらしい。

 他の冒険者……というより、俺の手を煩わせた事にご立腹なのか、普段の怜悧な眼差しが一層冷えきっている。

 それを見たユアンは愛想笑いを零していたが、やがて徐々に顔色を青くすると何度も頭を下げてきた。


「おいティア。俺は気にしていないからそう威圧するなよ」

「……申し訳ありません、少々感情的になっておりました。貴方にも深く謝罪を」

「い、いや僕は大丈夫ですから! 貴女の言っている事が正しいのはわかっています──」

「あたしの名前はエイミー。エイミーって気軽に呼んでちょうだい! あたしの夢は師匠の弟子になる事!」


 申し訳なさそうな表情を浮かべたクリスティアを見て、ユアンが慌てて首を横に振っている。

 まあ、気持ちはわかる。クリスティアみたいなクールビューティーに謝罪されると、どこか落ち着かない気持ちになるし。

 そして、そんなユアン達のやり取りが一段落着いたと思ったのか、エイミーが唐突に自己紹介を始めた。

 そのまま聞いてもいない夢を語って満足そうにしているエイミーに対して、ユアンは頭を抱えている……うん、大変だな。


「そ、そうか。その師匠が見つかるといいな」

「応援してくれるの!? あんたっていい奴ね!」

「エイミー……僕もう疲れたよ」


 ユアンの諦観が篭った呟きを聞いたエイミーは、俺に向けていた笑顔から一転、眉尻を吊り上げていく。

 そのままエイミーはユアンへと駆け寄り、八重歯を光らせながら言い放つ。


「何よだらしないわね! ユアンももっと素振りをして体力をつけなさい! じゃなきゃ師匠に顔向けできないわよ!」

「違うよエイミー。違うんだよ」

「男ならもっと堂々としていなさい! 大体ユアンはいつも──」


 どうやら、エイミー達は自分達の世界に入ってしまったらしい。

 二人が気が付かない内に逃げるために、俺はクリスティアへと目配せをする。

 それにクリスティアが頷いたのを確認してから、俺達はゆっくりと足音を立てずに後退していく。


「エイミーだっていつも先走っているじゃないか!」

「だってあたし考えるのが苦手なんだもん! 敵なんて斬っていれば倒せるのよ!」

「む、無茶苦茶だよぉ!」

「ふふん、それがあたしだから……って、どこ行くのよあんた達」


 まずい、気づかれた。

 二人は言い争っていたのだがエイミーの直感でも働いたのか、不意にこちらへ目を向けたのだ。

 とは言っても、結構エイミー達からは離れたし、問題はないんだけど。

 怪訝そうに俺達を見つめるエイミーに、俺は振り返って笑みを浮かべる。


「俺達はもう行くから」

「夫婦喧嘩する時は場所を選んでくださいね」

「ふ、夫婦喧嘩なんてしていませんよ!?」

「よくわかんないけど、またね! 師匠を見つけたらあたしに教えてねー!」


 全く正反対の対応をする二人に苦笑いが漏れつつ、俺達は無事にこの場所から離れる事に成功した。

 そして、そのまま俺達はクエスト完了報告をするべく、アッサムへと戻るのだった。


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