第四十七話 ギルドカード
「──こちらがギルドカードになります」
エルフ嬢から渡されたギルドカードを受け取り、目の前に掲げて見た目を観察してみる。
どういう原理なのかわからないがギルドカードは半透明になっており、触り心地も不思議な感覚だ。
大きさはクレジットカードより一回り大きいほどだろうか。荷物の邪魔にならなそうで良かった。
「これがギルドカード……お揃いですね」
「そりゃそうだろうな」
俺のギルドカードと見比べて嬉しそうに微笑むクリスティアに、思わず苦笑いしてしまう。
エルフ嬢の話によると、ギルドランクによってギルドカードの枠の色が変わるらしい。
登録したてでFランクな俺達は枠の色がない透明で、ランクが上がると色が着く。
とりあえず、当面は目立たない程度にEランクを目指すって所かな。
「ギルドカードに不都合はありませんでしたか?」
「えーと……うん、全部合ってます」
「私のも問題ないです」
エルフ嬢に促され、改めてギルドカードに書かれている項目を読んでいく。
ギルドカードに書き込まれるのは、名前や性別に年齢といった基本的な事で、本当に簡素な身分証といったものだ。
こんな簡潔で良いのかと思いエルフ嬢に聞いてみれば、どうやら専用の魔道具で読み込めば問題ないとの事。
しかも、いつの間にか持ち主の指紋等も読み込まれているらしい……中途半端に地球より文明が進んでいるな。
「問題ないようでなによりです。では改めまして、『シュン様』『ティア様』。当ギルドは新たな冒険者を歓迎いたします」
営業スマイルから親しみを感じさせる笑顔に変わったエルフ嬢は、そう告げると恭しく頭を下げた。
その姿に笑みを返しつつ、内心では無事に偽名登録できた事に安堵していた。
現在行方不明なクリスティアはともかく俺は魔道具で偽装しているので、この姿で登録するのに本名だと困るのだ。
まあ、俺の考えすぎだとは思うけど、念のために偽名用の名前を使った。前の異世界の時もこの名前を使っていたしな。
それに、クリスティアは変装をしていないので、最悪ギルド登録の名前と見た目でバレる可能性がある。
名前が違うなら別人だと言いはれると思うし……いや、流石に無理があるか。後でクリスティアの変装も考えておこう。
「こちらこそよろしくお願いします」
「ふふっ、随分と丁寧な言葉遣いですね」
「つい癖で……変でしたか?」
「いいえ、少し珍しいと思っただけです」
「なら良かったです。あ、二つほど質問いいですか?」
「構いませんよ」
登録したからか少し砕けた雰囲気になったエルフ嬢に、気になった事を尋ねるべく声を掛けた。
その言葉に快く頷いてくれたエルフ嬢に感謝しながら、俺はカウンター奥に貼られている掲示板へ目を向ける。
「後ろにある掲示板は、依頼のやつですか?」
「はい、そうです。当ギルドでは冒険者の方々を手助けするべく、私達が依頼を選定しています」
「自分では選べないのですか?」
「ある程度は冒険者の方々から意見も聞きますが……正直、依頼の難易度を見誤られるのは困るのですよね」
「あー、なるほど」
そう呟くとエルフ嬢は表情を曇らせてため息をついた。
まあ、エルフ嬢の言いたい事もわかる。
例えば、先ほどの大男のように自分に自信がある人が依頼を受ける時、依頼内容を過小評価して失敗するかもしれない。
そうすると、その依頼を送り出した冒険者ギルドの責任となってしまうので、この黒い考えをしているギルドとしては困るという事だろう。
つまり、受付嬢には冒険者達の戦力を見極めて適切な依頼を勧める……そういう能力が求められているという事か。
「その様子だとご理解いただけたようですね。シュン様は優秀で今後に期待できます」
「当然です、シュン様は素晴らしいのですから」
恐らくリップサービスであろうエルフ嬢の言葉に、ドヤ顔をして胸を張るクリスティア。
いや、クリスティアが誇ってどうするんだ。エルフ嬢も目を瞬かせて困っているし。
「ははは、彼女は少しズレているのですよ」
「ズレている……」
「そうなのですか? 良い仲間だと思いますよ」
「ありがとうございます。それでもう一つの事なのですが、現在話題になっている冒険者はいますか?」
「ええ、いますが。何故知りたいのですか?」
「冒険者になったからには、目標となる人物を知りたいので」
苦笑いしながらそう告げれば、エルフ嬢は納得したように頷いた。
と言っても、エルフ嬢が考えているような事とは違うだろう。
話題になってる冒険者を知りたいというもの間違ってはいないが、正確にはその人達と出会うのを回避するためというのが理由だ。
話題になっているという事は、他の冒険者達に注目されているという意味でもある。
つまり、そいつ等と会わないように気をつければ、俺の存在がバレるリスクが減る筈。
俺の言葉にショックを受けたように固まるクリスティアを尻目に、そんな事をつらつら考えていると、思い出し終わったのか顎に手を当てていたエルフ嬢が笑顔で頷く。
「確かここ最近ですと、『流星天眼』や『虚無剣聖』。それと『紫電怠慢』辺りが話題になっていますね」
「ぶ、物騒な名前ですね」
「二つ名がある事は冒険者にとって名誉ですからね。目立つ名前にしているのです」
苦笑いしてそう告げるエルフ嬢。
二つ名に関して詳細を尋ねてみると、どうやら今後に期待できるルーキーには冒険者ギルド自ら二つ名を着ける場合があるらしい。
もちろん、自分で名前を着けたいという冒険者ならそれを尊重するようだが、基本はギルドが考えた二つ名を採用する、と。
それに、二つ名を貰うとギルドカードに記載されるので、それを見せる事で自分の強さを証明する手段にするという使い方もできるようだ。
「シュン様ならば瞬く間に高名な冒険者になれる筈です!」
「ティアは少し黙っていようか」
「ティア……」
やたら俺を持ち上げてくるクリスティアを睨みつければ、何故か嬉しそうにこちらを見返してきた。
いや、偽名を使うために省略しただけなので、渾名としてつけていないのだが。
「質問は以上でしょうか?」
「あ、そうですね。ついでに今から依頼を受けたいと思うのですが、依頼の選定をお任せしても?」
「構いません。少々お待ちください」
俺の問いに笑顔で頷いたエルフ嬢は、立ち上がり後ろにある掲示板の方へ向かっていく。
意外と高身長なその姿に驚きつつ、俺は勧められる依頼の予想をするために、クリスティアへ顔を向ける。
「やっぱり最初は街の雑用とかか?」
「親しい間柄での渾名呼び……これは結婚秒読み」
「それはないわ」
「……っは! そうですね、雑用かあるいは近場での採取依頼とかもありえますね」
「あー、採取依頼か。魔物討伐依頼とかの可能性は?」
「ゴブリン辺りならありえますが……」
「ゴブリンって俺の世界で言うあいつみたいなものだからな」
台所等に出没する黒光りするあいつ……それぐらいゴブリンは繁殖力が強いらしい。
それは置いといて、ギルドランクでは最低ランクの俺達では、魔物討伐等はまだ受けられない可能性がある。
登録したてはFランクで、そこからEランクにDランクにCランクと、順番に上がっていく。
まあ、俺にとってランクは大して重要ではないので、特に気にする事でもないか。
そんな事を考えながらクリスティアを話している間に、依頼の選定が終わったのかエルフ嬢がこちらへ近づいてくる。
「お待たせしました。Fランクであるシュン様達にお任せできる依頼はこのようになっております」
「どれどれ……広場の掃除に店番に家の解体の手伝い」
「料理の味見に孤児院での遊び相手、後は薬草採取等もありますね」
途中で不穏な言葉を聞いた気がしたが、大体俺達が予想した通りの依頼だな。
冒険者ギルドは一種の便利屋の側面もあり、街の住人から届けられる簡単な依頼を低ランク冒険者へ振りわけるようだ。
それにしても、冒険者ギルドへ依頼するのが可笑しいのも多い……なんだこの【憧れのアイリーン様へ告白するための手伝い】ってのは。
「どれになさいますか?」
「そうですね……とりあえずは薬草採取の依頼を受けます。それでいいよな?」
「そうですね。街の依頼は土地勘を身につけてからの方が良いでしょう」
「了解しました。薬草採取の依頼ですね……確認します。シュン様、ティア様が受ける依頼は【アッサム森での薬草採取・二十束】ですね。間違いありませんか?」
「問題ありません」
「ではギルドカードを」
「はい、どうぞ」
エルフ嬢の言葉に頷き、ギルドカードをカウンターの上に置く。
俺達のギルドカードを受け取ったエルフ嬢は、カウンターにある機械のようなものにギルドカードを差し込む。
そのまま暫く経つと立方体の機械から音が鳴り、ギルドカードが吐きだされた。
「依頼選定完了しました。ギルドカードを確認してください」
エルフ嬢に促され返されたギルドカードを見てみると、カードの右端が緑色に光っている事に気が付く。
光っている部分を指でなぞってみた瞬間、カードの画面が切り替わり俺達が受けた依頼の項目に変化した。
どうやらこのギルドカードを使えば、現在自分が受けている依頼を確認する事ができるらしい。
「問題ないです。ティアはどうだ?」
「こちらも問題なく依頼を受けられています」
「大丈夫なようですね。……当ギルドは新たな新鋭冒険者を歓迎します。冒険者ギルド・アッサム支部の受付担当である私、『アイリーン』も心から歓迎いたします。ご武運を」
俺達を見回した後、エルフ嬢──アイリーンは椅子から立ち上がってそう告げた。
そして、本心から俺達を案じている事がわかる表情を浮かべると、そのまま気品を感じさせる綺麗な礼をするのだった。




