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閑話 第一話 ネリアの初体験

 俺達が召喚されてから一週間が経ったある日の事。




 今日は訓練が休みだったので部屋でのんびりしようかと廊下を歩いていると、遠くの方からネリアがこちらへきている姿が目に入った。


「おーい、ネリ──」

「お兄様! こちらへ!」

「──アーって、おい!?」


 挨拶をしようとするのだが、ネリアが俺に気が付くと目を輝かせて近くの部屋へ俺を連れ込んできた。

 連れられた部屋は俺達と同じ間取りの客室で、ネリアはそのまま俺と一緒にクローゼットへ無理矢理入ろうとしている。


「お、おいネリア? 何してるんだ?」

「しぃー! 少し静かにしてください!」

「お、おう……」


 ネリアの不可解な行動に問い掛けようとするが、ネリアが凄い迫力で黙るように告げてくる姿に思わず閉口した。

 クローゼットは広いといっても流石に人間二人で入るのには狭く、俺とネリアは身を寄せ合っている。


『おい! プルネリア様を見つけたか!?』

『いや、見つからない。この近くにはいないのか?』

『探せ! 向こうの方へ行くぞ──』


 複数の声と足音がバタバタと忙しなく行き来している内に、やがてその音が聞こえなくなった事からここから移動したようだ。

 もう大丈夫だと思いそっと扉を開けてクローゼットから出て、部屋の中で身体をほぐしながら安堵の息を漏らしているネリアへジト目を送る。


「彼等が探してたぞ、ネリア。何故逃げてるんだ?」

「ぅ……話しますから、その目は止めてください!」


 俺の視線にネリアは決まりが悪そうに暫し目を泳がせていたが、ジーッと見つめると耐えられなくなったのかがっくりと項垂れて説明をした。


 どうやらネリアは稽古が嫌で逃げ出したらしい。

 今までは疑問に思わずしていた稽古だったのだが俺達と接している内に、もっと動き回りたいと思いはじめて室内でする稽古がとても味気なく感じたようなのだ。

 稽古の内容を聞いた所によるとテーブルマナーや帝王学、生け花に綺麗に文字を書く練習等。

 聞けば聞くほど確かに息詰まるような内容ばかりで、ネリアが逃げ出したいと思うのも頷ける。

 俺なら三日で飽きる自信があるからなおさらだ。


 俺に事情を話したネリアは連れていかれると思ったのか、不安そうな眼差しを送ってくる。


「お、お兄様……」

「うーん……よし、街へ行こうか」

「……へ?」


 ネリアの視線に暫し考え込んでから、俺は笑みを浮かべてそう告げるのだった。











「──わあ! お兄様、これが街なのですね!」

「ネリアは街へ来た事がないのか?」

「はい!」


 あの後こっそりネリアの部屋へ向かい動きやすい服に着替えさせ、ネリアを連れて俺達は街へ向かったのだ。

 多種多様な人達が生き生きと動き回っている空間に、ネリアは目を輝かせてあちこち見回している。

 どうやらネリアは今まで城から出た事がないらしく、外にいるのがとても新鮮なのだろう。

 今にもネリアが走りはじめようとしているので、慌てて俺はネリアの腕を掴みはぐれないようにする。


「ほら、ネリア。ちゃんと周りを見ろよ」

「お兄様! 私あちらへ行ってみたいです!」

「お、おい!」


 俺の言葉に全く耳を傾けずネリアは、俺の腕を抱えるとそのまま引っ張り歩きだした。

 その事を注意しようと思ったが、ネリアの楽しそうな笑顔を見て暫く好きにさせようと思い、内心でため息をつきつつ自然と俺も笑みが浮かぶのだった。






 あれからネリアと様々な所を回った。


『お兄様! お肉が刺さってます!』

『ああ、これは串焼きと言うんだ』

『こ、これがあの串焼きですか!? お手軽で安くて美味しいと語り継がれる伝説の!?』

『で、伝説って……』


 屋台の串焼きに大いに慄きながらもしっかり堪能したり、


『凄いですお兄様! あの方口から火を吹いていますよ! もしかして原始属性なのでしょうか!?』

『ああ、あれは大道芸人だよ。そういう芸をする仕事なんだ』

『口から火を吹く仕事ですか? 凄いですね! わぁ、今度はボールを操る原始属性でしょうか!?』

『違うと思うが……』


 大道芸人の芸に目を輝かせて尊敬の眼差しを送っていたり、


『お兄様お兄様! ここは社交場なのでしょうか!? 皆様お酒を持って席に着いています!』

『ああ、ここは酒場だ。主に酒を飲むための食事所だ』

『え! お酒専門とはあの一本白金貨十枚はするワイン等もあるのですか!? これは私も負けていられません! すみませーん! 私にもワインを──』

『何言ってるんだ!? 行くぞ!』

『──ああ! 私にはワインの味を調べる義務が!?』


 酒場に高級なワインもあると勘違いして場違いな注文を頼もうとしたり。




 色々とネリアの無知さ等疲れる事もあったが、ネリアが終始楽しそうなので良かった。

 しかし、ネリアのはしゃぎっぷりには疲れたな。

 もし次があるとしたら事前にネリアに街の知識を教えておこう。


 現在、俺達は俺の部屋の前で別れの挨拶を交わしている所だ。

 今日の出来事がよほど楽しかったのか、ネリアは先ほどから満面の笑みを浮かべている。


「今日はありがとうございました、お兄様!」

「街巡りは楽しかったか?」

「はい! どこも楽しかったですけど特に──」


 改めて告げられたネリアのお礼に感想を尋ねると、両手を広げて身振り手振りで具体的にどこが楽しかったのか教えてくれる。


「──それでですね……あ、そうだ!」

「ネリア?」


 暫しの間ネリアの楽しそうに話す言葉に笑顔で耳を傾けていたら、不意にネリアが何かを思いついた様子で顎に手を当てて考え込みはじめ、その姿に俺は疑問を感じて首を傾げた。


「お、お兄様……目を閉じてください」

「ん? なんでだ?」

「とにかくです!」

「わかったわかった……」


 やがて、ネリアはもじもじしたかと思えば唐突に変な要求を告げ、意味がわからず聞き返すも再度強い口調で要求したので俺は仕方なく目を閉じる。


 暫く目を閉じてネリアの言葉を待っているとネリアの気配が段々と俺の方へ近づいていき、やがて頬に何かを押し当てられ思わず目を開けてしまう。

 そこには、頬に手を当てて顔を真っ赤に染めているネリアが目の前におり、何をされたか理解して俺が目を白黒している内に、ネリアはそのまま振り向き走り去っていく。


「こ、これは今日のお礼です! 兄妹のスキンシップでしゅ!」

「は、はあ……」

「か、勘違いしないでくださいね! わ、私はお兄様が好きなだけでしゅから!」


 途中で振り返ると勢いよく指を俺に突き付けて噛みながら叫ぶも、何か盛大に自爆している気がしないでもない。


「ぅ……お兄様素敵いぃぃぃぃ…………」


 ネリアは指を突き付けたままぷるぷると震わせ、涙目で俺を睨みつけるとそのまま罵倒しようとしたようだが、悪口をいいたくなかったのか結局褒め言葉を叫びながら走り去ってしまった。


 怒涛の展開にネリアに口付けされた頬を手で抑えるのと同時に、ネリアの言葉の真偽に暫し頭を悩ませる。


 ──うーん、あれは兄としての好きだよ……な? 多分そうだと思うのだが、確信がないな……保留にするか。


 ネリアの慌て具合から感情が昂ってつい洩らしたのだろうと思い、とりあえず確証が持てるまで問題を未来の俺に丸投げする事にした。

 未来の俺ならネリアと上手くやっていけるだろ。うん。

 ネリアの意外と大胆なスキンシップに思わず俺は遠い目をするのだった。




 ちなみに、あれから数日間はネリアと顔を合わせる度にネリアが顔を真っ赤にして逃げ出すので、千秋達に疑念の眼差しを送られた事は全くの余談である。


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