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第十九話 後悔と街巡り

「──ぅ……ここは?」

「あ、目が覚めた?」

「千秋……?」


 龍牙が無事に目を覚ました事に千秋はホッと安堵の表情を浮かべていて、万が一のために静かに身構えていたロドリグも緊張を解いたようだ。


 龍牙は自分が森の中ではなく医務室のベッドで寝かされている事に疑問を感じているのか、俺達の顔を見回している。


「どうして僕はここに……?」

「それは俺が説明するよ、実は──」


 千秋の後ろでいつでも動けるように待機していた俺が近づき、代表して龍牙に事の顛末を話しはじめるのだった。











 あの後、冬海の【石の茨】に拘束されている龍牙を包囲しながら、俺達はどうやって龍牙の暴走を止めるか話し合っていた。


『どうすれば良いのでしょう……?』

『冬海の【石の茨】は軽い魔力阻害があるから魔法は使われないと思うが……』

『破られるのも時間の問題だしな』

『り、龍牙君!?』


 各々が現状を整理しながら意見を交わしあっていると、先ほどまで暴れていた龍牙が唐突にがっくりと項垂れたのだ。

 俺達は武器を構えていつでも迎撃できる体勢をとり、確認のために龍牙へ近づいていくロドリグを見守る。

 暫く龍牙の周りを歩きながら観察していたロドリグは、おもむろに龍牙の顔を覗き込んだ後に俺達へ振り向き表情を少し緩めながら口を開く。


『どうやら気絶しているようだ。息も規則正しいし、当面の危機は去ったと見ていいだろう』

『よ、良かったぁ……』

『千秋さん?』

『い、いやー……腰が抜けちゃって……あはは』


 ロドリグの言葉に構えていたベリシュヌを納刀していると、視界の端で千秋がへなへなとその場に座り込むのが目に入った。

 どうやら初めての実戦が終わった事で緊張の糸が切れたようで、冬海の問い掛けに乾いた笑いを零している。

 確かに、デビュー戦で自分の仲間と闘うのはかなり精神的負担も掛かっただろう。

 しかも、何故か龍牙は光属性を使うし、動きがどこか機械的で不気味だったというのもある。


『とりあえず、今回はこの辺りで帰るぞ。龍牙の事もそうだが、千秋は切り札の『風の加護』を使ったからもう戦えないだろう?』

『は、はい……すみません』


 ロドリグの言葉に千秋は杖を支えに立ち上がるが、脚が産まれたての子鹿のようにぷるぷる震えている事から明らかに無理をしているのがわかる。


『いや、実際千秋の魔法で助けられたのは事実だから。もっと誇ってくれ』

『春斗……うん、ありがとう』


 千秋へ近づきながら告げる俺の言葉に皆が大きく頷き、それを見た千秋は少しの沈黙の後清々しい笑みを浮かべる。

 そのまま俺は千秋を背負い、ロドリグが龍牙を抱えて、冬海に辺りを警戒して貰いながら俺達は城へ戻っていったのだった。











「──って事があったんだ」

「……そう、なんだ」


 龍牙が俺達を殺す気で攻撃した事は隠して、それ以外の出来事を掻い摘んで語ると、龍牙は一言呟いた後は俯いてしまった。

 龍牙の暗い雰囲気に千秋達も掛けるべき言葉が見つからないようで、何とも言えない表情で戸惑っている。

 すると、ベッドのシーツがポタポタと染みができ始めたのだ。


「……僕は自分が情けないよ……! 皆の足手纏いになって……迷惑を掛けるだけじゃなくて暴走までするなんて……僕は……僕は……うぅ!」

「りゅ、龍牙──」

「止めておけ、千秋」


 そのまま強くシーツを握り締めたかと思えば顔を埋めて嗚咽を漏らし始めた龍牙に、千秋が励ましの言葉を掛けようとするが俺が肩に手を掛けて止めた。

 何故と批難の眼差しを送ってくる千秋に首を横に振って答え、ロドリグへ目配せをしてこの場を任せる事を伝える。

 俺の意図が伝わり真剣な顔をで頷くロドリグを視界に入れつつ、千秋と冬海に外へ出るように扉を指さす。


 龍牙の様子を気にしてチラチラ横目で心配そうに見ながら、千秋達は渋々と俺と一緒に退室したのだった。






「──ねぇ、どうして止めたの?」


 龍牙のいる部屋から離れて暫く廊下を歩いていると、遂に痺れを切らしたのか千秋が眉間に皺を寄せながら声を掛けてきた。

 冬海は何となく俺の意図が読めたようで、苦笑いをして静観する体勢を取っている。


「男は見栄を貼りたい生き物だからな。下手に慰められると逆効果になるんだ……特に女に慰められるとなったらな」

「え、そうなの?」


 俺の言葉がよほど意外だったのか、千秋は素っ頓狂な声を上げてキョトンとした表情を浮かべている。


「そうなの。とにかく、龍牙の事はロドリグに任せたから……ん?」

「どうしたの、春斗?」

「いや、何か聴こえないか?」


 ロドリグに任せたから後は安心だろうと伝えたようとしたが、どこからか音が聞こえてきて咄嗟に耳を済ます。

 途中で止めた俺の言葉に疑問を感じた千秋の問い掛けに答えると、千秋達も耳を傾け始めた。


「…………まぁ…………」

「本当だ、私も聞こえたよ!」

「そうですね……あ、あそこ!」


 微かに聞こえた音に俺達が揃って首を傾げている間に、弓を使うからか目が良い冬海が何かを発見したようで廊下の先を指さす。

 冬海の指を追って俺達が目を向けると、遠くから何かが高速でこちらへ近づいている事がわかった。


「…………さまぁ………!」

「な、何かがこっちに来てるよ!?」

「あれはなんだ、冬海?」


 俺達が冬海の方へ振り向き声を掛け、その問い掛けに冬海が目を凝らしてあれが何か理解した瞬間、


「えーと……ああ、あれは──」

「お兄様! ……あぅ!」

「おっと」

「──ネリアさんですね」


 背後に更に速度を上げた見知った気配が近づいてるのに気が付き、横に躱すと金色の物体が俺が先ほどまでいた場所を高速で通り過ぎて床に激突していった。

 千秋はまさか正体がネリアだとは思わなかったようで目を白黒させていて、俺は王族だというのに、こんなはしたない行動をしている事に頭が痛くなる。


「はぁ……何してるんだよ、ネリア」

「お、お兄様! 何故私の抱擁を受け止めてくれないのですか!?」

「いや、危ないだろ」

「お兄様なら大丈夫です!」


 俺の言葉にガバリと飛び起きると興奮しながらまくし立てくるネリアに無理だと伝えるも、俺なら平気だと謎の理論を振りかざして全く聞いてくれない。


「──お兄様なら何故平気かというと皆様のフォローをする賢者のような頭脳に巧みに武器を操る手腕に伝説の魔導師のような素晴らしい魔法に──」

「はぁ…………ほら、落ち着けネリア」

「ふにゃぁ……」


 そのままフンスと両手を胸の前で握って俺の素晴らしさを熱く語りだしたネリアに内心で頭を抱えながら、近づいて軽く抱き締めて頭を撫でてやると途端に閉口して蕩けた表情を浮かべ、俺の胸に顔を押し付けはじめる。

 初日の王族らしい威厳のある雰囲気を微塵も感じさせないネリアの残念な姿に、千秋達も微妙な表情でネリアを見ていた。

 ちなみに、ネリアの話は殆ど誇張が入っているので、話半分に聞いておくのがこの城での暗黙の了解になっているようだ。


 そんないつの間にか間違って覚えてしまった兄妹コミュニケーションをしてくるネリアの行動に、内心でため息をついて上手く逸らしつつ俺達は実戦の疲れを癒すために浴場へ向かうのだった。











 ──あの出来事から数日が経った。


 ロドリグとの間に何があったのかはわからないが、あれから龍牙は積極的に訓練に取り組んでおり、休みの日などにも自主的にロドリグから教えを請っている。

 龍牙の行動に触発されたのか冬海も、「あの時は春斗さんに迷惑を掛けましたし……私の夢のためにも頑張ります!」等と呟きながら新たな技の開発をしているので、この日の休日は俺と千秋の二人で過ごす事になった。






「──ねぇねぇ、春斗! あっちには何があるのかな?」

「あんまりはしゃぐなよ、千秋」


 現在、俺達は城下町へ降りて千秋と街をぶらぶらと歩いて見物している。

 今いる所は市場で、露天商達が商品を見せて客を呼び込みそれに釣られた住人達が店を覗いたりしていた。

 いつ見ても活気のある街並みに千秋は楽しそうに周囲を見回し、そんな子供みたいな姿に俺は苦笑いしてしまう。


「ほら、ふらふらするとはぐれるだろ」

「あ……手」

「ん? 手を握ったのは嫌だったか?」

「へ? う、ううん。なんでもないよ!」


 街道から逸れないように千秋の右手を握ると千秋が繋いだ手を見たので、何か拙かったと思い尋ねるも慌てて否定され誤魔化されてしまった。

 それに首を傾げつつ露店巡りを再開していると、繋がれた手が握られる感触がしたので目を向ける。

 そこには俺の手を何度も握りながら頬を緩めている姿が目に入り、それを見て千秋が何故慌てていたのか思い至る。


「千秋……お前手を繋げて嬉しいのか」

「ふぇ!? ちちち違うよ春斗。そんな久しぶりに手を繋げて嬉しいなんてちっとも思ってないから!」

「千秋……」

「……は! またやってしまったー!」


 俺の指摘に盛大に自爆した千秋は、俺の生暖かい眼差しに自分が何をいったのか理解したようで、俺から手を離すと頭を抱えてしまった。

 そういえば、昔の千秋は何をする時も手を繋げと煩かったな。

 まあ、中学生ぐらいから恥ずかしがって手を繋ぐのは止めてしまったのだが。

 代わりに最近はネリアに甘えられる事が多くなったな。


 幼い頃の千秋を思い出しながら周囲を見回していると、不意に露店のある商品が目に付く。

 未だに頭を抱えている千秋を放置して露店へ近づき、店主の中年のおじさんに声を掛ける。


「なあ、これは幾らだ?」

「いらっしゃい、それは七百スードだよ。あのお嬢ちゃんにプレゼントかい?」

「そんな所だ、ほい。銀貨一枚な」

「お釣りは三百スードね、まいどありー」


 店主から商品と小銀貨三枚を受け取り千秋の所に戻る途中で、小銀貨をポケットに仕舞い込みつつ、アルヴァニオンでの貨幣について改めて思い返していく。


 アルヴァニオンでは当然地球と貨幣が違っており、その貨幣単位は『スード』で統一されている。

 貨幣の種類は価値が下なものから順番に『銅貨』『小銀貨』『銀貨』『小金貨』。

 そして、『金貨』『白金貨』となっていて、銅貨の『十スード』から十倍毎に貨幣が変わるようになっているのだ。

 一般的な平民の月収が小金貨三枚で、平均以上の宿屋に一泊する値段が平均銀貨一枚となっているらしい。

 つまり、俺が買ったものは露店に並ぶ商品としてはそこそこ高かったという訳だ。


 そんな取り留めもない事を考えながら、商品へ少々細工(・・)を施してから千秋の元へ行くと、どうやら立ち直ったようで頬を膨らませて俺を待っていた。


「もうっ! どこ行ってたの春斗?」

「悪い悪い、ちょっとこれを千秋に渡したくてな」

「私に……? これってネックレスだよね?」

「そう、ネックレス。ほら、着けてやるから後ろ向いて」

「う、うん……」


 唇を尖らせ怒る千秋を宥めるのと同時に買ったものを見せると、千秋は表情に疑問を浮かべて首を傾げた。

 俺が買ったネックレスはシンプルな銀の羽でできている。

 これを見た時、何となく千秋なら似合いそうだと思ってつい衝動的に買ってしまったのだ。

 千秋の濡れ羽色の髪を前に掛け、腕を首へ回してネックレスを着ける。


「わぁ……どう、かな?」

「うん、良く似合っているぞ」

「ほ、本当!? ありがとう春斗!」


 髪を後ろへ戻してから千秋が振り返り、胸元のネックレスを弄りながら上目遣いで尋ねてくるのでそれに頷いて答えると、目を輝かせて微笑みお礼を告げてきた。


 ──気分転換にはなったかな。


 今回は直接ゴブリンを殺す事はなかったが、やはり初めての実戦は千秋にとって心に大きな負担になっていると思い、気が晴れればと俺は今日千秋を連れだしたのだ。

 本当は冬海や龍牙も誘いたかったのだが……二人は訓練に励んでいるため邪魔をするのは悪いと思ったので声を掛けるのは止めておいた。

 まあ、幸い千秋の気分転換にはなったようで良かった。


 そんな事を思いつつ千秋の笑みに俺は笑顔を返して、その後は機嫌が良くなった千秋と街を巡るのだった。


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