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親子兄妹

 生足との戦いに敗北した放課後。駅方面へ続く歩道。その並木道。

 メイドふたりと一緒に歩く男子学生という絵面は、どうあがいても人目を引いた。


「おふたりといると、相変わらず視線がすごいですね……」

「あぁン? おれ様たちのなにが不満だよ。恥ずかしがる理由がねぇだろ、智ちゃんよぉ」

「いや、奈留ちゃん。恥ずかしいとかじゃなくてですね」


 ぎろりと睨まれる。部室を出てから手を繋いでもおり、骨がみしみし鳴っていた。

 有事に備えての手繋ぎらしいが、周りから見ればただの兄妹である。


「姉さん。両手に高嶺の花は自分の身に余る、と。そういうことですよ」

「ですです。さすが恵千佳さん」


 小さい姉の嶋澤しまざわ奈留――奈留ちゃんが部長並のサイズ感なのに対し、大きい妹の嶋澤恵千佳――恵千佳さんは、180以上あるので普通に俺よりも高い。


 性格や言葉づかいも含めて、とても極端な姉妹だった。


「なにぃ、オメェ。自分のこと卑下にして、ミジンコだと思ってやがったのか」

「……まぁ、そういうことでもいいですけど」

「ちっ。しゃあねぇ、ちょっとそこしゃがめ? こら」


 素直に従えば、「ん」と短く促されたので頭をちょこんと差し出した。すると、


「よしよーし、よしよーし。智ちゃん、今日も生きててえらいねぇ。いい子いい子」

「え、あの――」


 そっと抱き寄せられる。続けて頭にも触れられ、わしゃわしゃされてしまった。

 声色はもちろんなのだけど、このレベルの豹変ぶりはもう一種の才能だと思う。


「まあまあ。お昼時ですよ、姉さん」


 恵千佳さんは母親のように見守っており、止める気配はなさそうだ。さすがに恥ずかしい。


「智ちゃん、人間はお水がないとダメになっちゃうの。だからね? みじんこさんはみんなが飲むお水をよごしちゃう植物ぷらんくとんを、がんばってやっつけてくれてるんだよっ!」

「そ、それと俺に一体、どんな関係があるんですか……?」

「大ありだよっ! だってなるちゃんが今日も生きてるのは、ぜーんぶ智ちゃんのおかげってことなんだよ? いつもありがとう。智ちゃんががんばってること、なるちゃんはちゃーんと知ってるから。だいじょうぶ! なるちゃんがついてるからね、いっしょにがんばろうね」


 ミジンコの良いところを前面に出した超理論で、ひたすら甘やかしてくれる奈留ちゃん。

 段々となんだか、自分がすごい存在のような気さえしてくる。そうして、数分後。


「――元気でたかよ? こら」


 言葉は不要だった。満たされて身体を起こし、普段よりも背筋を伸ばして歩き出す!

 聞こえてくる拍手喝采! とてもありがとう! うれしい! 謎の達成感があった!


「それにしても、罰ゲームがお菓子の買い出しなのは拍子抜け感ありますね」

「おぉー」

「まあ」


 ふたりがなぜか驚く。そんなにヘンなことを言っただろうか? ……不安になる。


「な、なんですその意味ありげな」

「菫ちゃんの言ったまんまだなぁーあって」

「げっ」

「はい。菫様が〝言質取ってきてー〟と仰っておりましたので、この通り」


 恵千佳さんは、胸元から超小型のボイスレコーダーを取り出して微笑んだ。

 カチリ。余計な一言が一字一句そのまま再生されていく。つ、次の罰が恐ろしい……。


「ご安心ください。あまりに度を越したものは、わたくしどもで却下させて頂きますので」

「そうだぜ、智ちゃん。お嬢様だけだと普通に私情、挟みまくりでいやがりますからなぁ」

「べつに疑ってなんかいませんよ。いつもありがとうございます」


 素直にお礼を言うと、ふたりが対称的に謙遜して笑う。

 ただ現場レベルでの不安は消えない。部長や里奈がストッパーとして機能しない場合、千雪先輩ひとりでは、たぶんさっきの言質が女心的な許す理由になってしまうだろうから。


 ともあれようやく駅前に着き、近くのスーパーへ。真っ直ぐお菓子コーナーに向かう。


(なに買おうかな……部長が好きなガトーレーズンは切らしてたよな、たしか)


 ふとふたりの様子をうかがう。すると、お菓子が次々にかごへ入れられていた。

 部室の残りや皆の好みを把握しているのだろう。完璧に無駄のない動きである。


「あっ、前から聞きたいとは思ってたんですが。食費ってどこで抑えるべきでしょう?」

「あぁン? 成長期の食いしん坊かよ、オメェ」

「俺より里奈ですよ。地味にめっちゃ食うんですよね、最近は特に」


 身体作りの一環らしいが、来月くらいにはやせなきゃ! とか言ってそうだ。


「……そうで御座いますね。不肖メイドであるわたくしが考えますところ、とにかく買い物の回数を減らし、不要なものは買わない。結局はこれに尽きるのではないかと思いますよ」

「おれ様、超同意。んじゃそのためには、なにが必要よ?」

「ざっくりでもいいから週ごとの献立を決めてまとめ買いする、ですよね……」

「わかってんならやれコラ。献立なんざ作ったことないもん作れば、余裕じゃねぇか!」


 軽めの正論キックで小突かれ、長いスカートがふわりと浮いていた。


「あとはなるべく週ごとで冷蔵庫の中身を空にする意識をつけつつ、もやしや豆腐、えのき、はんぺん、厚揚げなどで一品あたりの量を増やしていくのがよいと思われます」

「なるほど。何事も計画性と工夫ってことですね……頑張ります」

「うむ。精進して日々を励めよ、智ちゃん。当然、おれ様を見習ってなぁ!」

「――とか言いながら。さりげなく自分用の蜂蜜太郎をかごに入れないでください、姉さん」


 背中越しで恵千佳さんが釘を刺し、奈留ちゃんが「ちっ」と舌を鳴らす。

 けれど諦めた様子もなく、奈留ちゃんは人目も気にせず瞳を潤ませて駄々をこね始めた。


「えぇ~! やだやだ~、ママ買って買ってぇ~!」


 よくもまぁ、そういう声が出る。そう思った瞬間だった。すぐに視線で「オメェもやれ」と促される。やりたくない……やりたくないが、一方で恵千佳さんは期待の眼差しだった。


「んんっ。マ、ママぁー、なるちゃんにっ、か、買ってあげて欲しいなぁ……なんて」

「まあまあ、ふふ。なら仕方ありませんね。きちんとお礼を言いましょうね、なるちゃん」

「うん! お兄ちゃん、ありがとう! なるちゃん、お兄ちゃんのことだぁいすきっ!」


 奈留ちゃんが満面の笑みで上目づかいに抱きついてくる。こわい。

 さすが千雪先輩が作る同人ゲーで各キャラボイスを担当しているだけあった。


「ではその代わり、帰り道はわたくしが智成様とお手を繋がせて頂きますね?」

「「えッ!」」


 ふたりして驚く。奈留ちゃんはこっそり蜂蜜太郎を棚に戻そうとしたが、すぐ恵千佳さんに止められて――帰り道では、俺たちの後ろでずっと文句を言う奈留ちゃんだった。



 ――以下、おまけ。


 里「…………」

 千「どうかしたの、りーちゃん」

 里「あ、いえ。そういえばその、菫先輩は恵千佳さんのことはなんて呼んでるのかなぁって」

 千・菫「ははぁーん?」

 由(うわー、りーぽんもばかだなぁ。危機管理がなっちゃいねー、南無三!)

 菫「りなりなはー、なんて呼んでると思うー?」

 里「あ、へっ? えー、あー、そのぉ――…………ぇち、かと?」

 千・菫「えぇっ、なんだってぇーっ!?」

 由「――えちえちだとっ、思いますッ!! これで満足ですか! 満足でしょうねぇっ!?」

 菫「まー、ちかちかなんだけどねー」

 瞳「……そんな風に呼んだら失礼だと思わないの、波瀬さん? 先生、引いちゃうかも」

 里「ブクブクブクブク――……」

 由「りーぽんがブクブク言いながらしんだっ!? す、すげぇ白目……写真撮っちゃお」

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