第49話 自称魔王
このダンジョンは1つのエリアがかなり広い分、階層自体は6階と少ない。セーフティエリアを出てからは風魔法と魔力感知により霊廟内の位置情報を取得して俺たちは順調に階層を降りて行った。
特に階層を隔てる結界のある場所までは最短ルートでも半日は掛かると言われたが1時もせずに辿り着いた。
「う〜ん、強力なアンデッドの出現はあながち嘘じゃないのかも? 〈ターンアンデッド〉」
「それはこんなにも湧いているからですか? 〈ターンアンデッド〉」
定期的に騎士団が間引いていると聞いていたが、出てくる数があまりにも異常だ。
その為、神聖魔法以外を使うとその音に反応して魔物たちが集まってくる。
「てっきり噂の元凶はあのグループだと思ったんだけどね」
「確か、連続殺人鬼に強姦魔、奴隷の売人等の称号持ちなんでしたっけ?」
「そうそう。特に声を掛けてきた冒険者は、悪事の称号塗れでかなりヤバいね。横領と人身売買だけの神官がまともに見える位には。だから、襲って来るように色々したんだけど……」
金持ちに見える様に大銀貨を出したし、付き添いに見える様に許可証はノアに持たせた。
お金を回収する為にも早く襲って欲しいものだ。
それなのになかなか襲ってくる気配がない。大銀貨に纏わせた俺の魔力は辿ると、未だにセーフティエリアから動いていなかった。
「帰りに襲われるとか嫌なんだけどなぁ……」
知ったからには見逃すつもりはない。潰すのは決定事項なので、余裕のある内に来て欲しいものだ。
「ヨクゾキタ。ボウケーー」
「〈ハイヒール〉」
「アァァーーッ!?」
ボス部屋の様な広間に入るとリッチがいたので〈ハイヒール〉で消滅した。
道中で気付いた事だが、生身が無い場合は専用魔法よりは回復魔法の方が早く倒せる様だ。
実際、リッチは何かを言い掛ける前に倒してしまった。
「ここからが最下層の様です」
「コレが階層を隔てる結界……」
「それでは開きますね」
部屋には下へと降りる階段が有り、そこが結界によって塞がれていた。
ノアが許可証を持って触れると結界が歪み、人が通れる程の穴が開いた。
「それじゃあ、サクッと行きますか」
中に入ると結界の穴が閉じた。再度開くには許可証持ちが触れる必要があるらしい。
「ワレハエルーー」
「〈エリアハイヒール〉」
ノアによって、スペクターの集団が広域回復魔法で浄化された。
「我が前に立つか、冒険者ーー」
『〈ホーリーカノン〉!』
ミュウによって、デュラハンは光の奔流飲まれて消失した。
「デュラハンを退けたか。しかし、奴は単体!我の軍勢をーー」
「〈聖域〉」
「「「「ウォオォォォォッ!?」」」」
エリートリッチ率いるスケルトンナイト軍は聖域に包まれて浄化された。
ちょっと休憩。テーブルを出して、皆でオヤツタイム。今日のデザートはプリンです。
「ソノクビヲダーー」
『「〈ホーリーノヴァ〉!!」』
突然現れたデスリーパーにプリンを落としそうになる。
ノアとミュウはすかさず、神聖魔法で撃退。オヤツを邪魔する奴は敵だと言わんばかりのオーバーキルだった。
そして、辿り着いたのは最下層でもっとも広い部屋。魔王の部屋を思わせる場所の玉座には魔法使い風のアンデッドが座っていた。
名称:マオウ
種族:エルダーリッチ(自称魔王)
危険度:SSS
……魔王がいた。自称だけど危険度MAX。
流石に竜王国で魔王はないよね。本物の魔王なら魔国にお帰り下さいしてる所だよ。
つまりは倒しても良い相手だって事だよ!俺の経験値になれ!!
「良くぞ来た。〈召喚〉」
人が召喚使うのは禁止されているが、悪魔同様魔物も使えるらしい。それとも禁止される前から取得していたタイプか?
「先手は譲らぬぞ。既にお前たちの手は知れているーー」
「〈聖域〉」
部屋中に展開した魔法陣からアンデッドの軍勢が現れ、聖域に包まれさよならバイバイ。
部屋には俺たちと自称魔王のエルダーリッチのみが残された。
しかも自称魔王さんが消滅するのも時間の問題だ。身体の端々から煙が登り、どんどん魔力が減っていた。
「………(まともに戦う気はないのか?)」
「………(なんかごめん)」
開幕早々に潰すやり方にエルダーリッチが目で訴えてきたので素直に謝罪した。
俺としては経験値が欲しいだけなので、殺したかったけど死んでほしくはなかったのだ。
まさか、神聖魔法で攻撃すると特攻で瞬殺する上に、リポップしなくなるなんて知らなかったんです。
「〈デスハンド〉」
周りの敵が居なくなったのでエルダーリッチに近付くとその身体から突然黒い手が生やし襲ってきた。
『危ない!〈アースバレット・拡散〉!!』
「ふん、甘いわ!」
黒い手が土の弾幕をすり抜けて迫りーー。
"パシッ"
『「「えっ?」」』
咄嗟の事で掴んでしまった。というか、掴めた。黒く透けているし、ミュウが出した土塊が当たってもすり抜けたから掴めるとは思わなかった。
「……何で?」
困惑するエルダーリッチにこっちが聞きたい。俺も困惑している。
「影……魔法だからか?」
良く見るとこの手は影魔法だった。影魔法は闇魔法からの派生なので、闇の魔力を纏った手なら干渉する事が出来る。無意識に対応出来たのは、魔法お手玉で鍛えられたお陰だろう。
「えぇ……?」
「あっ、この手って魔法陣とかじゃなく、直接身体から出てるんだ!」
影の手を揉み揉みしたり、軽く引っ張ったりするとエルダーリッチがくすぐったそうにしたり、身体が引っ張られたりする事に気付いた。
「〈蘇生〉」
「……解せぬ。だが、我の負けよ。続きは第二第三の私に任せーー」
「魂への干渉なので無理だと思います」
敗北を悟ったのか、素直に浄化されるエルダーリッチ。そんな彼にとどめを刺す。
現世の楔を解いて、輪廻の輪に没シュート。次はまともに育ってね。
「………」
なんとも言えない表情?のまま、エルダーリッチは消え去った。
「ふう〜っ、これにて一件楽ちゃーー」
『大変!? 帰り道にアンデッドが大量召喚されてるよ!?』
ミュウに言われて急ぎ確認すると帰りのルートに沿う様に魔物の気配が大量にあった。
「ん? 玉座に何か落ちてーーこれはっ!? ミヤビさん、コレを読んで下さい」
「どれどれ……」
玉座に落ちていた紙を渡されたので読むと。
『なんか、最後の決着が気に食わなかったので置き土産を残す事にした。帰り道に私の支配下にあったアンデッドたちを配置した。道先案内だと思って頑張りたまえよ、聖職者諸君。
by エルダーリッチ』
「てめぇのせいかよ!!」
とりあえず、急ぎアンデッドたちを狩る事にした。
「二人共、魔力量は大丈夫? 足りなかったら言ってね。何時でも魔力を分けるから」
杖の魔力貯蔵に加えて、魔力回復量が増えているので、最後の戦いで〈蘇生〉を使った分も殆ど回復しているので余裕は十分ある。
『全然余裕!』
「私も大丈夫です。もっとも粘液接種による魔力譲渡がしたいなら何時でも歓迎です」
『あっ、私も私も!』
遠回りなキスのお誘いだった。今やると戦いの熱もあって、スイッチが入ってしまう可能性があるので遠慮願いたい。
「夜の楽しみに取っておきます」
それよりも道先案内とは良く言ったものだ。
最短ルートにしっかりと配置されている。迂回しても遭遇率はそんなに変わらない絶妙な配置だ。
俺たちは作ったマップも最短ルートの物なので、必然的に全てのグループと遭遇する事になる。
帰るまでが冒険だよ!行きより帰りがきついとは思わなかった。
「〈ターンアンデッド〉!」
「〈エリアハイヒール〉!」
『2人と共危ない!〈エアハンマー〉!!』
しかも面倒くさい事に混成アンデッドによるトレインだ。相性の良い魔法だけ使うと効果の効きが遅い魔物が直ぐに接近してしまう。
なので、新しい魔法を考えた結果、光の攻撃魔法に神聖魔法を足すことで効果を底上げした。
「〈ホーリージャッジメント〉」
その結果、生体にも精神体にもダメージを与える事が出来る様になった。
「「〈ホーリージャッジメント〉」」
効果範囲も広いので、一撃で通路を制圧できる。ノアと交互に使いながら進み、漏れた魔物はミュウに討伐して貰った。
一気に移動スピードが上がった事であっという間に結界の外まで辿り着いた。
「おいおい、上の階も同じかよ」
魔力感知を行うと通路の向こうから今までの倍もの魔物がこっちにやって来るのを見付けた。
「数が今までに比べて多いし、その先に集団はいないからこれで最後だと思う。俺とノアで攻撃するからミュウはタイミングを測ってくれ」
『了解』
魔力を留めて何時でも放てる様にしながら指示を待つ。
『今よ!』
「「〈ホーリージャッジメント〉!」」
「おーい、魔物のーー」
『「「あっ」」』
魔物たちと一緒に例の犯罪者グループが魔法に巻き込まれた。
魔物のトレインを意識するあまり、彼らの存在を完全に忘れていた。
まぁ、犯罪者だし、大丈夫だよね。たぶん。
「「「「「………」」」」」
結果から言うと例の犯罪者たちの命は助かり、大銀貨以上の金も回収できた。
でも、魔法の効果で半日は燃え尽きた状態になる様だ。口からヨダレを垂らし焦点は合わない。
とりあえず、縛って衛兵に付き出す。コイツらはわざと魔物をけしかけ、トレインにしてぶつける気だったらしいからね。
『称号:魔物の擦り付けは犯罪です』
という名のユニーク称号が増えていたから直ぐに判明したのだ。
「これ、対人で便利そうですね」
「まぁ、一時的にアホになるみたいけど」
無傷で制圧できるのは確かに便利だと思った。




