061 約束
「僕はあなたを護りたい! 理由なんてなくてもいい! 護りたいんです!」叫ぶようにルキウスは、思いの丈をステラにぶつけた。
「まだ」
「お嬢、よろしいですか?」
それまで黙って成り行きを見守っていたジョルジョが、ステラの言葉を遮った。
「お嬢、俺はルキウス君に一緒に来てもらうのがいいと思う」
どうして? ジョルジョの言葉を聞いたステラの顔が驚きで強ばる。
「お嬢の気持ちはわかります。俺も……本当ならそうしたい。彼を巻き込みたくない……。だけど状況を冷静に判断して欲しい。俺は、アリアを死なせたくない」
ジョルジョの目は真剣だ。ステラの目を正面から見据え、訴えている。
「でも……しかし……」
アリアを助けたい。ジョルジョの気持ちは痛いほどわかる。ステラも同じだ。親は違えど大切な妹なのだ。
「お嬢、俺はこの前のルキウス君とジーノたちのプグナを見ていた。あのときのジーノたち四人はそれほど強くはなかった。四人のうち二人はそこそこできそうに見えたが、それでも警戒するほどのレベルじゃない。でもそれは、ジーノが竜眼主になる前です。いまはもう、他の三人は衛士になっている可能性が高い。もし三人がやっかいなウラ・リュウオンシを得ていたら……アリアを人質にとられている俺たちは、分が悪い」
「……」ジョルジョの言う通りである。戦闘に素人のステラでも、それはわかる。
「なあルキウス君、俺は君とフェリシアさんに来て欲しいと思っている。だが、そのために一つ約束をしてほしい。俺とグレタが倒されたら、君たち二人は他をおいて逃げてくれ。この約束が守れないなら、連れてはいけない」
「……なぜです? そんなことできるわけないでしょう」
ジョルジョの言っていることが、ルキウスには理解できなかった。
「さっき俺たちのことを守りたいと言ってくれたのは嬉しいが、俺とグレタは君よりも強い。俺は元聖騎士だ。そして、グレタは五歳から十年間、聖兵の訓練所に通った元予備役だ。俺は当然だが、グレタも訓練兵への臨時召集や予備役召集で何度か戦場に出ている。その俺たちが殺られるぐらいなら、君らには勝てん。命は無駄にするな」
(そう……だったのか……)
竜眼主のステラを守ってハギオスドラコーンから来たのだ、戦闘がなかったなどあり得ない。
どうやって無事にここまで辿り着けたのだ、とルキウスは不思議に思っていた。だが、納得した。元聖騎士と元聖兵の予備役ならば強い。二人とも間違いなく、自分よりも強い。
一緒に暮らすようになってから、ジョルジョやグレタが戦闘訓練をしているところを見たことはなかったが、恐らく隠れてやっていたのだろう。
だが、だからといって……
「……いや、やっぱり。それでも、できません」
ジョルジョの目を真っ直ぐに見て、拒否をするルキウス。
「あの、すいません。ちょっとよろしいですか?」そう声をかけるとフェリシアは、ジョルジョに向けて話しを始めた。
「『戦場とは即ち死地。死地を共にするは友。友を見捨てる者に命なし』。わたしは父からこの言葉を教わりました。共に死地に向かう以上、友を見捨てる選択肢はありません。あなたも戦士ならば、この言葉の意味が理解できるはずです」
フェリシアの言葉にジョルジョが怯む。知っている。よく知っているのだ、その言葉を。
随分と昔の話だが、フェリシアの父であるオスカーとルキウスの祖父ウィルフォルティスは、ハギオスドラコーンの聖竜軍で臨時の訓練教官をしていた。
現在の聖竜軍の訓練課程は、当時の二人の指導と訓示をもとに作られている。
フェリシアが言った言葉は、訓練所で何度も何度も繰り返される『戦士の心得』の一箇条で、聖竜軍の兵士ならば誰でも知っている。
そしてこの言葉の意味は、一度でも戦場の狂乱にさらされた者ならば誰でもわかる――戦友がいたからこそ、死線を越えられたのだと――
「お願いです。わたしたちも一緒に連れて行って下さい。アリアを救いたい気持ちはわたしも同じ。ジョルジョさんやグレタさんが倒れないよう、いや誰も倒れずに一緒に帰れるようサポートをしてみせます」懇願するフェリシア。
「お願いします!」フェリシアに続き、叫ぶようにルキウスも請う。
「一緒に行ってもらいましょう、お嬢さま。ジョル、大丈夫よ。私もあなたも、ルキウスくんもフェリシアさんも、誰も死なない。お嬢さまとアンナ、そしてアリアと一緒に必ず帰ってきましょう」
グレタの目に宿る固い決意が、ステラとジョルジョに向けられる。
「アンナも戦う! 負けない! アリアと、みんなと、一緒に帰る!」
さっきまでの泣き顔とは違い、アンナの顔には不安も恐怖もない。
「……そうだな。ルキウス君、フェリシアさん、失礼なことを言って申し訳ない。共に戦ってくれ、頼む。お嬢、いいですよね?」
全員の視線がステラに向けられる。ステラは瞑目したまま身じろぎもしない……
……ステラがゆっくりと瞼を開く……
「……わかりました……では、皆さん。わたしに約束して下さい。……絶対に――死なないと」
「はい!」
皆の声が、心が……一つになった。




