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0123 血の海



 「うえっ、こらぉ酷いっすねぇ」口元を押さえながら吐き気を我慢していのは、治安官のトーニオ。



 「あぁ、凄えな。誰がやりやがったのか。おい見ろ、オッターヴィオの首だ」面倒なことをしやがって、という意味で顔をしかめているのは、トーニオの上司ラウル。



 ここは、王都のモスターノ地区を縄張りにしているゴロツキ集団『ガラムーア』の根城である。



 今日の昼間、ここの連中は祭祀殿に近い通りで乱闘騒ぎを起こした。だが、通報を受けた治安局が出動しようとしたとき、突然待機に命令が変更された。なんだそりゃ、とラウルたちが治安局本部で時間を潰していると、今度はここへ行けと命令されたのだ。そして、このえげつない惨劇を見た。



 二十数名のゴロツキたちが、全員首をはねられて死んでいる。あたり一面血の海で、濃密で吐き気のする血の臭いが、換気の悪い部屋に充満していた。



 「誰がやったんすかね」とトーニオ。

 「それを調べんのが仕事だろうが」とラウルがたしなめる。



 「いやぁ、これはまた凄いですなぁ」突然うしろから声をかけられ、ラウルたちは驚いて振り返った。



 「あっ、こ、これはマスター・ランス」ラウルとトーニオが慌てて敬礼をする。



 「いやいや、そんな大袈裟な挨拶は結構ですよ。普通にしてください、普通に」と、陰惨な現場をものともせず、ニコニコとしているのはオスカーだ。



 「あ、あの、マスター、ここへはどういったご要件で……」突然現れたオスカーに、驚くやら恐縮するやらで、ラウルはちょっとビビりながらオスカーに訊いた。



 「いやね、王都を荒らすクソムシどもが大量に潰されたって聞きましてね。興味本位で顔を出してしまいました。いやほら、(わたくし)名前だけですが、王国軍の顧問をしてますから、たまには仕事らしいことをしないと陛下に怒られるのです。お邪魔はしませんから、お仕事をお続けください」オスカーの丁寧な説明に余計緊張をするラウルたち。



 オスカーは、名前だけの顧問、などと言っているがとんでもない。オスカーとウィルフォルティスはこの国の英雄である。ビタロスに戦争がないのは、この二人の活躍による。既に軍を退いてはいるが、いまでも月に数回は王国軍の訓練指導を行っている。王国軍の一部門である治安局に所属するラウルたちにとっては、局長よりもずっとずっと雲の上の存在なのだ。



 オスカーは、ラウルたちに「好きに見せてもらいますね」と言って床に転がる死体を順に検分して回った。



 (見事ですねぇ。全て一刀で首を断っています。こんなことができる人は少ないでしょうねぇ)



 「あのぉ、すいません。ちょっとよろしいですか?」オスカーが、ラウルたちのほうを向いて声をかけた。



 「はっ、なんでしょうか?」起立の姿勢で答えるラウル。まあそう固くならずに、などとオスカーは言うがそれは無理であろう。「ここにあるので、クソムシどもの仲間は全員ですか?」とオスカーが訊いた。



 「いえ、こいつらはもっとたくさんいます。いや、いた、ですか。実は今日の昼間、こいつらが乱闘騒ぎを起こしまして、そこで聖竜軍にだいぶ斬られたみたいです。なので、ここにいるのはその残党だと思うのですが、そのぉ、一人目立つのが見つからなくて、いま探しております」とラウル。



 「ほう、目立つのがいない。誰です?」とオスカーがさらに訊いた。



 「はい、このガラムーアのリーダーの弟で、ベッファといいます。自分ではベリーと名乗っています。女みたいな格好した男でして、そいつの姿が確認できないのです。先ほど祭祀殿にも人を走らせたのですが、そちらでも確認できませんでした。ですから、逃げた可能性が高いかと思われます」とラウルが答えた。



 「ほう……」(この状況から逃げた。あり得ませんねぇ。ならば、わざと逃した、か)



 「いやぁ、お仕事のお邪魔をして大変申し訳ありませんでした。では皆さん、あとはよろしくお願いいたします」オスカーは慇懃に礼をすると、現場をあとにした。



 「さて、どこを探しましょうかねぇ」そう呟いてオスカーは、王都下町の繁華街に向かった。




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