0118 集中しなさい
「はっ⁉」ルキウスが目を覚ました。動けない。(縛られてる! くそっ!)すぐに周囲を見回す。少し離れたところに意識を失っているフェリシアが縛られていた。
(ルカ? ミア?)「あっ!」
ミアは、模様のような何かが描かれた地面の上に寝かされ、その少し離れたところにルカも横になっていた。
「ルカァー! ミアー!」ルキウスが声の限りに叫ぶ。
「ルキウスさん」ステラがルキウスの視界に入ってきた。
「どこか痛いところはありませんか?」ステラが訊いてきた。
「ステラさん、あの子たちを離してやってくれ。お願いだ! やめてくれ! 助けてくれ! 僕があの子たちを連れて王都を出る。継嗣戦なんかに二人を関わらせたりしない。約束する。お願いだ!」ルキウスは、必死にステラに乞い願う。
だが、「ルキウスさん、それは約束が違うのではないですか? あなたとフェリシアさんは、ジョルジョさんとグレタさんに負けました。だから、わたしの術を信じて、あの子たちをわたしに託してください」
「負けた……だ、だけどあれは、もう戦うしか選択肢がなかった……負けたことは認めます……だけど、あの子たちの命を奪うのだけはやめてください! お願いだ!」
「命は奪いません。しばらくそこで見ていてください」そう言うとステラは、心の中で泣きながら、ルキウスに背中を向けミアたちのところに向かった。
「待って! 待て! そんなに人を殺したいのなら僕を殺せ! そんな子供の命を奪うな! ステラー! やめろー!」
「ルキウスくん! いい加減にしろ! 何度も言ってるだろ、お嬢は殺さずに竜眼主の力を奪えるんだ! なぜ俺たちが信じられないんだ! こんなことはしたくなかったが、これ以上騒ぐならやむを得ん」ジョルジョがルキウスの前に回り込んだ。
「やめろ! おまえらはみんなただの人殺しだ! や、ううっ」
ジョルジョは、ルキウスの口に布を突っ込むと、素早く猿ぐつわをはめた。
(くそ! くそ! くそ!)
縛られ、猿ぐつわをはめられてもなお、ルキウスは怒鳴り続け、暴れ続けた。そんな、ルキウスをジョルジョが後からしっかりと、押えつけ、強い口調で「黙って見てろ!」と告げた。
「みあー! るかー!」フェリシアが叫ぶ。
ルキウスが首をめぐらせてフェリシアを見ると、フェリシアと目があった。
(フェリシア、すまない……)涙を流しながら、目で詫びるルキウス。
「はなせー! 子供たちを! ルキウス様をはなせー! わたしはぜ、うあっ」
グレタが無言でフェリシアに猿ぐつわをはめ、後ろに回って押さえつけた。そして、フェリシアの耳元に口をつけ「たまには私の言うことを信じなさい。誰も殺さない。約束する。だから大人しくしてて」と強く、だが諭すように告げた。
ルキウスにもフェリシアにも、もうどうにもできない。それでもルキウスは、ジョルジョの腕から逃れようと必死にもがく、だがルキウスよりも遥かに体の大きなジョルジョは、身じろぎもしない。
(くそぉ! どうして僕はぁ!)
自らの弱さを責めるルキウス。とめどなく流れる涙の向こうに、ミアの脇に膝をついて座り、静かに集中をしているステラが見えた。
ステラの心はざわついていた。ルキウスの言葉が心に刺さって痛かった。(どうしてわかってくれないのです)悲しかった。でも、それは自分がまねいた過ち。ルキウスたちのことを慮ってのことだったのだが、それが裏目にでた。
(駄目です。集中しなさい、ステラ)
心のざわつきを抑えようと、胸に手を当て深呼吸を繰り返す。(心を無にするのです。ゆっくり、ゆっくり、深く、深く……)
ルキウスの騒ぐ声が聞こえなくなった。どうされたのかはだいたい想像がつく。だが、いまは術に集中せねば。
竜血の簒儀は、対象者を殺さずに力を奪えるが、ステラと対象者の肉体に大きな負荷がかかる。本来分離し得ないものを無理やり引き剥がしているのだ、やむを得ない。自分はまだよい、だがこんな小さな子が耐えられるのか? 正直、恐ろしい。でも、やらねばならない。既にこの子は、竜眼狩りと思しき連中に襲われた。もう、一刻の猶予もないのだ。
(この子を普通の生活に戻してあげるのです。ステラ、しっかりなさい!)
ステラの鼓動が落ち着いてきた。周りのことが気にならなくなった。心が凪ぎ、呼吸と鼓動が安定した――
「これより、『竜血の簒儀』を始めます」
ステラが厳かに宣言をした……




