0117 フェリシアVSグレタ
向き合うフェリシアとグレタ。「仕合う!」ジョルジョの声とともに二人が地を蹴った。
「エェイ!」間合いが遠いフェリシアが、突っ込んでくるグレタの左胸に向かって槍を突き出した!
だが、正面からの鋭い突きをグレタは、右肩を前に出してクルリと槍に沿って一回転をして避け、そのままフェリシアに突っ込んできた!
(なっ⁉)そんな避け方をするとは、一瞬怯むが、すぐに槍を引き体を右に回すフェリシア。
二人は、駆け寄った先程の動線とちょうど直角になる位置でとまり、対峙をする。
(あの避け方は、そのままこっちに突っ込むためだったか)とフェリシア。
(すぐに態勢を変えて近づけさせないとは)とグレタ。
「面白いわね」槍を構えグレタを睨みつけるフェリシア。
「あなたも」とグレタ。
互いにこう考えていた『ついにあなたと遣りあえた』。
フェリシアとグレタは、正直あまり仲がよいとは言えない。嫌っているというよりは、互いに意識をし過ぎている、といった感じで、つまらないことでよく揉めていた。
フェリシアは、グレタのルキウスの扱いが気に入らないだの、喋り方が上から目線だの、手足が長くてスマートなのを鼻にかけてるだの、と愚痴っている。
グレタは、フェリシアが甘やかすからルキウスの仕事が上達しないだの、料理が上手いからって威張るなだの、胸が大きいからって偉いと思うなだの、と言っている。
この子供の喧嘩のような愚痴を聞いて、鱗亭の他のメンバーは、仲がいいなぁ、などと思っているのだが、本人たちはことあるごとに衝突していた。
しかし、本音は互いに認めあっていた。だから、勝負をしたいと思ってた。誰にも邪魔されることなく、存分に。
「そんな短剣で槍に勝てると思ってるの?」
「長けりゃいいってもんじゃないのよ」
フェリシアの槍は、一と三分の一トゥカ(一メートル六十センチ)ある。それに対してグレタのジャンビーヤの刃渡りは七シーン(二十一センチ)しかない。圧倒的に間合いが違う。二人の身長はほぼ同じだが、腕はグレタの方が長かった。だが、そんなのはほとんど足しにならない。
(グレタは戦場経験があるって聞いてたけど、あの短剣で戦ってたの? もし、そうならどんな技があるのか? 甘く見てはダメよ)フェリシアは、相手の武器をナメて手を抜くようなことはしない。むしろ、警戒心を強めた。
フェリシアは、槍先を下に向けて構えた。そして、「せい!」気合いを込めると、一気に踏み込み、「槍竜!」と、下から槍を突き上げた。「くっ!」間一髪でかわすグレタ。だが、槍先が顎をかすめた。
顎の下側から、首筋に細く血が流れる。
「綺麗な顔に傷をつけてごめんなさい」ニヤリと笑いながら告げるフェリシア。だが、内心は(避けられた⁉)と、焦っていた。いまの槍竜は完璧だった。右に避けようが、左に避けようが、手首を少し返せば十分にグレタの顎を突き刺せた。だが、グレタは真後ろに体を反らした。しかも、まるで後ろに体を折りたむかのようにペタリと。慌てて腕を押し出したが、届かなかった。(なんて柔らかい体なの)クソっ、とフェリシアは睨みつけた。
「あら、ご心配いただかなくて結構よ。お嬢さまにお願いすれば、瞬きするよりも早く治していただけるわ」(危ない。もう少し反応が遅れてたら、顎がなくなってるところだった)グレタも本音は焦っていた。
「一手あなたからいただいたから、今度はこっちから行くわ!」グレタは言うが早いか、フェリシアの間合いに飛び込んだ。(死ね!)フェリシアがグレタの胸のど真ん中に槍を突き出す! (えっ?)グレタが消えた! 「ふん!」グレタの拳がフェリシアの右頬にくい込んだ! 「がっ!」だが、殴られながらもフェリシアは自分で左に飛んだ! そして、左に飛びながら槍の柄でグレタの右脇腹を殴った! 「ぐっ!」唸るグレタ。
「はぁはぁ」互いに距離をとり、肩で激しく息をする。
(強い!)
強いと思っていた。互いに。だが、想像以上だ。
「これでまた、わたしの一手先取ね」
「ほざきなさい。あなた、私を見失ったでしょ。ふふっ、次で終わらせるわ」不敵に笑うグレタ。それは、負け惜しみか、それとも勝機を見つけたか。
「こっちのセリフよ!」先程よりも姿勢を低くしながら全力で突っ込むフェリシア。間合いに入る直前に槍先を一瞬、上げた。グレタの視線がその槍先を追って上に向く。(かかった)間合いに踏み込んだフェリシアが、ぐっ、と槍先を沈めた。グレタの視線もつられる。その瞬間、フェリシアが飛んだ! 「もらったぁ、降竜槍!」跳躍の頂点から一気に槍をグレタに向けて突き出す! 「あなた意外と単純ね」「えっ?」グレタの顔がフェリシアの顔と同じ位置にあった。グレタは空中で、フェリシアの顔を両手でしっかりと固定し――
「お休み、お嬢ちゃん」ゴガ!
ドザッ!
フェリシアは仰向けに地面に落ちた。




