0113 申し出
ルキウスを言葉で説得するのが無理だと判断したステラが、長い葛藤の末、ルキウスたちを力で押さえつける案に頷いた。
「勝負? なんですかそれは?」とルキウス。
「そのままだよ。俺たちと君たちとで継嗣戦をやる」とジョルジョ。
「⁉」信じられなかった。そういう事態も想定しなかったわけではない。だが、そんなことにはなって欲しくないし、きっとステラたちもそう思ってるはずだと、ルキウスは信じていたのだ。
(それしかないのか……)ジョルジョの言葉を受けて沈黙するルキウス。
「ルキウスくん、安心してくれ。俺たちはさっきから言ってるように、お嬢が殺さずに力を奪えることを証明したいだけなんだ。だから、君たちと継嗣戦を遣ると言っても、殺し合いをする気はない。自分たちが負けそうになったら、降参するし。君たちが追い詰められたら、それで戦いを収める。戦うのも、俺とグレタだけだ。アリアから聞いてるだろ? この前アンナは、あのでかいフランコを倒した。アリアも幼いときから戦闘訓練を受けてる。全員で遣り合えばこちらが有利だ。だから、君たちに合わせる。どうだい?」
「ルキウス様」ステラたちに聞こえない大きさでフェリシアが声をかけてきた。
「なに?」ジョルジョたちから目を外さずにルキウスが返す。
「受けてください。わたしが盾になって引きとめます。その間に、二人を抱えてリュウオンシを使ってお逃げください」
「なに⁉」思わずフェリシアのほうを振り返る。だが、すぐに前に向き直るルキウス。「何をバカなことを言ってるんだい。そんなことはできない!」
「ルキウス様、あの人たちの口車に乗ってはいけません。力量的にも人数的にもこちらが不利です。まともに戦うことを考えてはいけません。戦闘は前に進むだけではダメなんです。向こうは二人でくると言ってますが、始まればわかりません。だから、開始とともにルキウス様はリュウオンシを全開にしてお逃げください。ルキウス様の速さなら、二人を抱えていても追ってこれません」
「ダメだ! そんなのは絶対に、ダメだ! フェリスを置いていくぐらいなら、僕が残る。君が二人を連れて逃げてくれ」
「ルキウス様な」
「おーい、何を二人で相談していんるんだい? 逃げる算段なら無駄だよ」ジョルジョがルキウスたちの会話を見透かしているように告げた。
「無駄? なにがです?」フェリシアがジョルジョに怒鳴り返す。
「ルキウスくん、君は聖竜軍が警戒を解いたと思って家を出たんだろ? それは違うよ。この道の先には聖竜軍の分隊が待ち構えている」
「はっ? 何をバカなことを言ってるんですか。僕はちゃんと自分の目で聖竜軍が祭祀殿に撤収するのを確認した。この先にそんなものはいない。見え透いた嘘は止めてください!」
「そう、嘘じゃない。君の言ったことも嘘じゃないが、俺が言ったことも嘘じゃない」
「なんですそれは、意味がわからない」
「そうだね、説明しよう。聖竜軍の撤収は俺たちが頼んだんだ。君たちが、聖竜軍の警戒解除を待って王都を出る算段をしていたとき、グレタが聞いていたんだよ」
「?」ルキウスもフェリシアもジョルジョが言ってることが、全くわからない。
「まず一つ、グレタが衛士になったときに獲得したウラ・リュウオンシは〈隠密〉だ。グレタは、ルキウスくんが乱闘から戻る前に子供たちの家を見つけ、張っていたんだよ。そして、君たちの会話を聞いた」
(全く気づかなかった……)
「で、もう一つ。聖竜軍の撤収を頼んだ件だが、覚えているかい、お嬢がティアマト家の娘だという話を。君は知らないだろうけどティアマト家というのはね、前の千年紀から祭祀殿に仕えている聖職者の家系なんだ。千年以上だ。過去には巫女様になられたご先祖が何人もいらっしゃる名家だ。考えてもみなさい、いくら位の高い聖職者の家の娘とはいえ、大巫女様がわざわざアウラ様たちを呼んでお嬢を助けて欲しいなどと言うと思うかい? それに、それにだ、大巫女様がそう仰ったということは、すなわちそれはヒリュウ霊様のご意志だと君ならわかるだろ」
「!」それは、まさにそうだ。言われてみるまで考えてなかったが、そもそも大巫女様がアウラたちにその話をしたことが不思議なのだ。
「実はな、今日お嬢は大巫女様のところに行かれたんだ」
「本当ですか!」ルキウスもフェリシアもこれには大いに驚いた。確かに、大巫女様にステラの存在は知られていたはずだ。だが、ステラはこれまでずっと祭祀殿を避けていた。アウラの話を聞いてからも。なのに……
「ああ、本当だ。そしてお嬢は、自分がティアマト家の娘であること、竜眼主であること、そして命を奪わずに竜眼主から力を奪える術をあみだしたことを、大巫女様にお話になられた。そして、お頼みしたんだ。その子らを助けたいが問題があると、協力して欲しいと。だから、どこか近くで必ず様子を見ているルキウスくんにわかるように撤収をさせ、そのあとで一部の分隊をいくつかの街道に先回りさせてくれたんだ」
「……」ありえない、そう思いたい。だが、ジョルジョの話は筋が通っている。
「しかし……そ、それではヒリュウ霊様が、ステラさん個人を贔屓したことになるじゃないですか? それは、公正な継嗣戦に背いてる。そうだ、だからそれは嘘だ!」ルキウスがジョルジョの話の矛盾を突いた。
「確かにな。だが、覚えてないか? アウラ様は大巫女様からこう聞いたと仰った『ヒリュウの御霊は決してこのような惨劇をお望みではありません。本来継嗣戦とはこうあるべきではないのです』。どうだい? ヒリュウ霊様は本来殺し合いなど望んでおられないのだ。なぜそうなったのかはわからんが、いまは竜眼主の力を進化させるためには、相手を殺して心臓の血を飲まねばならない。だが、それを回避する術をお嬢は作られた。竜眼主に与えられし〈サクセイ〉の力を使ってな。だから、ヒリュウ霊様はお嬢の言葉を信じ、肩入れをされた。まっ、ここは俺の想像だが。しかし、祭祀殿が協力してくれたのだ、あながち外れてもおらんだろう」
ルキウスはもう何も言い返せなくなった。
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